トヨタ・クラウン 3.0ロイヤルサルーンG(FR/6AT)【試乗記】
継続は力なり 2008.06.26 試乗記 トヨタ・クラウン 3.0ロイヤルサルーンG(FR/6AT)……631万2150円
2008年2月に生まれた、13代目「トヨタ・クラウン」。最新型「ロイヤルサルーン」で、伝統ブランドの変わったところ、変わらぬところを探った。
40過ぎたら「いつでもクラウン」
先日、取材の合間にチョイ乗りした新型クラウンの「アスリート」は、静かで速くて滑らかで、抜群に好印象だった。自分がこんなにクラウンに好意を抱く日が来るとは、20代の頃は夢にも思わなかった。
もちろんクラウンが変わったという側面もあるでしょう。でももうひとつ、自分が年をとったという理由もありそうな気がする。自分は40を過ぎて身も心も守りに入り、だからクラウンを好きになった。そんな気がしないでもない。
思い当たるところが多々あるわけです。年々、路面からの突き上げやノイズを体が受け付けなくなっている。昔は「スーパー7」とか、スパルタンなスポーツカーが大好物だったのに、最近は乗るのがツラいのだ。疲れて弱気になっている時など、駆け抜ける歓びより気が抜ける喜びのほうが大きかったりする。
もしかすると日本人の体内には、35歳を過ぎるとクラウンが好きになるというタイマーが仕込まれているのかもしれない。
例えるなら、畳の間
業界のスミっこのほうにいる自分にも、ようやくじっくりクラウンを試乗する順番が回ってきた。しかも走り重視のアスリートではなく、昔ながらの味が残されているロイヤルサルーン。クラウンが変わったのか自分が変わったのか、検証するにはもってこいだ。
外観は誰が見てもクラウンだとわかるもの。デザインとかセンスとかの前に、「ああクラウンだなぁ」と思わせる造形は、ある意味すごい。
インテリアで目につくのは、センターコンソールのマットな加工を施した木目パネル。上品で、落ち着いた雰囲気を醸している。でも、気になったのはそこだけ。あとは見慣れた造形が目の前に広がる。
カーナビ画面のまわりに配置される「オーディオ」「目的地」などのスイッチはサイズが大きくて、スタイリッシュでもモダンでもないけれど、使い勝手がいいのは間違いない。
年とともに、畳の部屋にごろんと横になるのが好きになったけれど、クラウンのインテリアもそれに近い居心地のよさを感じる。
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静かに、やさしく、さりげなく
いざ走ってみれば、ふんわり軽いタッチの乗り心地が40男にやさしい。東名高速の追い越し車線の流れに乗る程度にまでペースを上げてもフワフワするようなこともない。スリルやサスペンスはないけれど、それは作り手の狙い通りだろう。
3リッターのV6は、じっと観察すればキメの細かい回転フィールというチャームポイントがあるけれど、それを全面に出すようなことはしない。エンジンの気配を、なるべくドライバーから遠ざけようとしているのだ。圧倒的な静けさの中、柔らかな乗り心地に身を任せていると、確かにこれでいいじゃないかと思えてくる。
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ワインディングロードでちょろっとペースを上げても、ロイヤルサルーンは品の良さをまったく失わない。静かで乗り心地がいいまま、さり気なく速度を上げる。タイムを計っても、かなりいいセンいくはずだ。
ネガをつぶして13代
クラウンは、ものすごく完成度が高い。それは間違いない。少しクルマ好きに歩み寄った感もある。でも同時に、やっぱり若かったらこういうクルマを好きにならないとも思う。
好かれようとして積極的に長所をアピールするのではなく、嫌われないことに全精力を傾けて作った感じなのだ。ギクシャクを減らし、ドタバタを減らし、騒音を減らし、フワフワを減らし、とにかく人に嫌われないよう嫌われないようにネガをツブしてここまできた。
ではなぜ、新型クラウンに好感を持つのか? それは、軸をブラさずに13代も続けている凄みが理解できるようになったからだろう。
昔からジャーナリストやエンスージアストから厳しく評価されることが多かったクラウン、きっと我が道を貫き通すことは大変だったはずだ。そしてこの年になると、他人からあれこれ言われても自分の考えを曲げないことの大変さがわかる。クラウンの粘り勝ちだ。
2世議員や2代目タレントだと「地盤の継承」だの「親の七光り」だの言われる。でも、それが13代目まで続けば襲名披露の儀式でみんながお祝いしてくれる。自分の場合は、ご祝儀を奮発するほどの余裕はないわけですが。
(文=サトータケシ/写真=峰昌宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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