アウディTTSクーペ 2.0 TFSI(4WD/6AT)【海外試乗記】
スポーツカーの新人類 2008.05.21 試乗記 アウディTTSクーペ 2.0 TFSI(4WD/6AT)「アウディTT」に、新たな頂点モデル「TTS」が登場。272psのハイパワーエンジンと4WDシステムを組み合わせたニューモデルは、どんな走りを見せるのか? ドイツ本国からのリポート。
新しい匂い
クリック感が小気味よいシフトセレクターを「コンコン!」と2度手前に引く。すると、Sトロニックは瞬時に6速から4速へシフトダウン。スムーズにエンジン回転が上がり、いかにもヌケのよさそうなバリトンの排気音が盛り上がる。
「アウディTTS」は、がらがらに空いているアウトバーンの追い越し車線をスムーズに加速。
ミュンヘンからアウディ本社のあるインゴルシュタットへ向かった――
こう書くと、フツーの高性能車だ。けれども実際にステアリングホイールを握る身としては、フツーには思えない。「アウディTT」のシリーズ最強モデル、「TTS」のドライブフィールからは“新しい匂い”がプンプンする。
じゃあ、どんな風に新しいのでしょう? たとえば通常、高性能バージョンのパワーアップは「オーディオのボリュームを上げる」ようなイメージだ。でもTTSは、ボリュームを上げると同時に音質も向上させている感じなのだ。
パワーアップの秘訣
TTSは、アウトバーンの追い越し車線でも常に余力を残している気配がある。つまり、それだけパワフル。
TTSのハイライトのひとつが、アウディ史上最もパワフルな4気筒エンジンであることは間違いない。2リッターの直4直噴ユニットにターボを組み合わせたTFSIエンジンは、その成り立ちだけ見れば、TTクーペ/ロードスターに積まれるものと同じ。ただし最高出力は200psから272psへと、大幅にアップしている。
出力アップ最大の要因は、ターボのタービンを大きくしたこと。サプライヤーも変更し、200ps仕様でIHI製だったタービンは、272ps仕様ではボルグワーナー製になっている。高出力化に備えシリンダーヘッドやクランクケース等を素材から強化、また、吸排気系や冷却系統の見直しも図られた。
272ps仕様は、圧縮比が200ps仕様の10.5から9.8に低められている。したがって、ターボラグが大きくなることやレスポンスの悪化が懸念されたが、少なくとも個人的には体感できなかった。仮に差があるとしても、両車を同条件で同時に比較して、初めて感知できるほどの小さな違いではないだろうか。
スイッチひとつでガラリと変わる
アウトバーンを降り、市街地や緩やかなワインディングロードでTTSを試す。まず感銘を受けたのが、抜群の乗り心地のよさ。245/40R18という太くて平べったいタイヤ(ミシュラン・パイロットスポーツ)なのに、アタリが非常に柔らかい。広報資料によれば、「スポーティなスプリングで、車高は10mm下がっている」。これも、普通なら乗り心地には厳しいはずだ。
それでも路面の凸凹をさらりと受け流すのは、「マグネティック・ライド・ダンピング・システム」が効果を発揮しているからだろう。ダンパーのピストン内部に、帯磁気粒子入りのフルードを循環させる仕組みは、素人目には奇妙だ。
でもその効果は絶大で、センターコンソールのスイッチで「ノーマルモード」を選べばしなやかな乗り味、「スポーツモード」ではすばしっこい運動神経を手に入れることができる。両者の性格の違いは鮮やかで、スイッチひとつでウォーキングシューズをジョギングシューズに履き替えられるといったところだ。
最強のTT=繊細なTT
アウトバーンでは感じられなかったけれど、この高性能エンジンは市街地やワインディングロードでもいい味を出す。2500rpmという低い回転域から5000rpmまで最大トルクを発生するエンジン特性は、たとえば信号からの発進や、タイトコーナーからの脱出でありがたい。
しかも、ただ実用的というだけでなく、3000rpm付近からの野太い快音(やや作為的にすぎる感もあるが)、6800rpmから始まるレッドゾーンに向けて一気呵成に回るスピード感など、官能性も持ち合わせている。
だから、普段はジェントル、その気になれば武闘派に変身、「ケンカも強いインテリ」という趣だ。
この大トルク、大パワーを受け止めるクワトロシステムにもふれておくべきだろう。日本で乗ったFFのアウディTT 2.0 TFSIは、フルスロットルを与えると多少トルクステアが出て、ややとっちらかることもあった。でも、クワトロシステム搭載のTTSは、どんなシチュエーションにあっても常にクールで上質なのだ。
この、パワフルなモデルになるにしたがって繊細な手触りになる、という部分が、このスポーツカーに新味を感じた最大の理由。高性能車というと、通常は動力性能を高くすることだけに注力しがちである。けれど、アウディTTSはコンフォート性能や官能に訴える性能も高めている。
筆者も含めた昔ながらのエンスージアストには、あるいは優等生過ぎると感じられるかもしれない。
「色男、金も力も手に入れた」的な佇まいも悔しい(?)。
でも、一糸乱れぬ洗練されたフィールを持つこのモデルの方向こそが最新スポーツカーのトレンドで、新種のクルマ好きに受け入れられることは間違いない。
ドイツ本国では2008年6月より販売される、TTSクーペ/ロードスター。日本への導入は本年秋で、まずはクーペから。価格は未定とのことである。
(文=サトータケシ/写真=アウディ・ジャパン)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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