アウディTTSクーペ(4WD/7AT)
うれしいような 悲しいような 2018.09.01 試乗記 コンパクトスポーツカー「アウディTT」の最新型に、同車ゆかりの地であるイギリス・マン島で試乗。エクステリアデザインやパワートレインをはじめとするマイナーチェンジの成果を、高性能モデル「TTS」で確かめた。その車名に歴史あり
1907年の初開催以来、「世界で最も危険な市街地レース」として名をはせてきたイギリス・マン島のTTレース(TTはTourist Trophyの頭文字)。それゆえに世界中のモーターサイクリストから“聖地”とあがめられ、レースが開催される5月下旬ないし6月上旬には数え切れないほど多くのバイク乗りたちがこの島に集結する。
しかし、全長60km以上のサーキットは、まさに死と隣り合わせ。比率的には住宅地を通過するセクションが大半を占めるものの、たとえ市街地でもコースはゆるやかなコーナーの連続で、いまやトップクラスの平均速度は200km/hを超える。ところが、市街地コースゆえにランオフエリアは基本的にゼロ。しかも、転倒したライダーを待ち受けているのは、表面のギザギザが残ったまま薄くスライスした石を積み上げた石垣なので、まさに凶器そのもの。100年を超す歴史で200名以上の犠牲者を生んだというのも無理からぬ話だ。
それだけに、マン島で勝ち取った栄冠には格別の重みが伴い、優勝したメーカーが“TT”の名を冠した量産モデルを世に送り出すことも珍しくなかった。例えばNSUは1954年に250cc以下のクラスで1~4位を独占する大成功を収めると、1960年にはこれを記念して「クイックリーTT」という名のモーターサイクルを発売。この伝統は四輪車にも受け継がれ、1965年にはスポーツモデルの「NSUプリンツTT」が世に送り出されることとなった。そのNSUが1968年にアウトウニオン傘下に入り、現在のアウディを築く礎となったことは皆さんもご存じのとおりである。
スポーティーからスポーツに
1998年にデビューした初代アウディTTは、まさにこうした歴史を背景にして誕生したスポーティークーペだった。このモデルが注目された最大の理由はそのデザインで、シンプルな直線と円弧を組み合わせた造形はアウトウニオンが戦前に作り出したレーシングカーを想起させたほか、伝統あるドイツのバウハウスデザインに通じる感性に裏打ちされていた。こうして初代TTはまたたく間にアウディのデザインアイコンとして認知され、世界的な人気を博したのである。
2006年に誕生した2代目TTは、初代とはまったく異なるデザイン言語を採用したものの、それでも人気は衰えなかった。
3代目TTは2014年に登場。デザイン的には先代を踏襲したように思えたものの(実際にはボディー上の主要ラインが2代目は上下方向、3代目は水平方向という大きな違いがあるが……)、操縦性では目覚ましい変化があった。初代と2代目がいかにもフロントエンジンらしいダルなハンドリングだったのに対し、3代目はボディー全体が軽量なうえに、重量物を車体の中心付近にぎゅっと寄せてヨーモーメントを格段に小さくしたかのような、機敏でいかにもスポーツカーらしいハンドリングを手に入れたのである。
このため私は、初代と2代目はスポーティークーペ、3代目は真のスポーツカーとして、同じTTでも明確に区別してきた。
最高出力はそろって向上
初代のデビューからちょうど20年目に実施された3代目TTのマイナーチェンジは、デザインの見直しとドライブトレインの刷新に主眼が置かれた。まず、デザイン面ではフロントグリルが従来の水平基調からハニカムデザインに切り替わったことが目を引く。その造形はTTとTTSとで異なるものの、どちらもリズミカルで個性的に見える。また、チンスポイラーの両側に設けられたエアインテーク内の加飾も従来型とは異なるほか、一部モデルではヘッドライトの内部構成も見直されたようだ。
ラインナップは従来の「1.8 TFSI」(180ps)、「2.0 TFSI」(230ps)、「TTS」(286ps)から、「40 TFSI」(197ps)、「45 TFSI」(245ps)、「TTS」(306ps)に見直された(1.8 TFSIが1.8リッターであることを除けば、排気量はいずれも2リッター)。
どのグレードも最高出力が少しずつ向上しているが、いずれもヨーロッパで導入された最新のエミッション規定“EU6d TEMP”に対応しているのが特徴。また、デュアルクラッチ式トランスミッションのSトロニックはTTSのみ従来の6段から7段へと進化した。
ここで“EU6d TEMP”について簡単に触れておくと、これは2017年9月以降に変更が加えられた車両、もしくは2019年9月以降にデビューする新型車に適用されるもので、WLTP(世界統一試験サイクル)とRDE(実路走行試験)の両方を採り入れている。規制の内容も厳しく、ヨーロッパの各自動車メーカーは現在その対応に四苦八苦しているともいわれており、車両価格の上昇やパフォーマンスの低下を懸念する声が聞こえている。
一喜一憂のマイナーチェンジ
新型TTの試乗会が行われたのは、TTレースの故郷であるマン島。これもデビュー20周年を記念してのことのようだ。
試乗したのはTTSのみ。ハンドリングはこれまでの3代目TTSと同様で前後バランスが良好。ロードホールディングとスタビリティーが優れているので、私たちのために特別に閉鎖された山側コース(マン島のコースで唯一、住宅地ではなく、高速コーナーが続くセクション。マン島の公道がレース以外の目的で閉鎖されたのは、これが初めてという)でも思い切ってコーナーに進入できた。ヨーモーメントが小さいことによるコントロール性の高さも相変わらずで、こういった面では3代目TTのよさを再確認する格好となった。
一方、新エンジンの仕上がりはどうかといえば、全開時のパフォーマンスに不満はないものの、そこに至るまでの過程が“モワッ”としたというかパンチに欠けるような気がした。ただし、これらは“EU6d TEMP”に適合した新型車全般にいえることで、新しいTTに限った話ではない。先日もある自動車メーカーのエンジニアに確認したところ「新規制の影響は確実にありますね」と語っていたので、この辺はもう少し取材を進めたいと考えている。
もっとも、日本ではRDEのような規制はまだ導入されていない。このためアウディも日本市場向けのTTには従来型と同じエンジンを搭載する予定だという。つまり、新型と従来型の違いは基本的にデザインだけになる見通しなのだ。この点は喜んでいいのか、悲しむべきかなのはわからないものの、TTの購入を検討していて現行型のデザインがお好みの方は早めに行動を起こしたほうがいいかもしれない。ちなみに新型の日本導入は2019年初頭になる見込みだ。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=アウディ/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
アウディTTSクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4191×1832×1343mm
ホイールベース:2505mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:306ps(225kW)/5400rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)255/30ZR20/(後)255/30ZR20(ピレリPゼロ)
燃費:--リッター/100km
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
ポルシェ911ターボS(4WD/8AT)【試乗記】 2026.9.29 「ポルシェ911」シリーズのなかでも最上位に位置するモデル「ターボS」。ポルシェ独自のハイブリッドと2基の電動ターボチャージャーを得た最新モデルは、どのような走りを備えているのか? 最高出力711PSのハイパフォーマンスモデルの実力に触れた。
-
NEW
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
NEW
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。 -
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑―
2026.10.7カーデザイン曼荼羅正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。





































