第228回:デトロイトで大矢アキオはミタ! (前編)−アメリカ車に「気配りのすすめ」
2012.01.20 マッキナ あらモーダ!第228回:デトロイトで大矢アキオはミタ! (前編)アメリカ車に「気配りのすすめ」
久々のデトロイト
イタリアから大西洋を渡り、北米国際自動車ショー(デトロイトショー)2012を訪れた。
個人的には久々の米国であるが、やはり面白い。欧州のショーではお目にかかれない、もしくは脇役的なブランドが、こちらでは主役になっているからだ。その感激から、会場を歩きながら思わず口ずさんでいたのは、小林旭の名曲「自動車ショー歌」である。「それでは試験にクライスラー」「鐘がなるなるリンカーンと」……と、米国車がいくつも登場するからだ。
いっぽうでボクが米国を訪れない間に、ポンティアック、オールズモビル、マーキュリーといったブランドが消えていた。ポンティアックは、かの「デロリアンDMC12」の生みの親ジョンZ.デロリアンがGM在籍中に出世の足がかりとしたブランドだ。またオールズモビルやマーキュリーは、キャデラックやリンカーンでは得られない控えめな上品さがあった。したがって個人的には、そうしたブランドの消滅がとても残念である。
若者層を取り込め
ノスタルジーに浸ってばかりいるのはよそう。今回のデトロイトショーで各メーカーが強調していたもののひとつは、「コネクティビティー(Connectivity:相互接続性)」である。
例えば、シボレーは衛星を利用した緊急通報システム「オンスター」の発展型である「マイリンク」システムをアピールした。スマートフォンの接続やWi-Fiへのアクセスを実現するものだ。このマイリンクは、2台のコンセプトカー「CODE 130R」「TUR 140S」の諸元表にも、もちろん盛り込まれていた。
そうしたシステムの充実を加速させる目的は、メーカーも言及しているとおり若者層の取り込みだ。シボレーによれば、北米では8000万人の人口が30歳代にさしかかろうとしているが、自動車に興味を示しているのはそのうちの4割という。
さもすればクルマよりもスマートフォンやコンピューターに、興味だけでなくお金も費やしてしまう若者たちを逃さないためにも、さまざまな機器やインターネットサービスとのコネクティビティーをアピールすることは必須と捉えているのである。
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オーディオメーカーとの“協奏曲”
もうひとつ、展示車を見てわかるのは、北米では高級オーディオやアンプメーカーとコラボレートしている自動車メーカーが欧州以上に目立つことだ。
すでに長いこと協力関係にあるところと、北米以外でも販売しているものを取り混ぜて記すと、BOSE(キャデラック、ビュイック)、INFINITY(フォルクスワーゲン、ヒュンダイ)、Fender(フォルクスワーゲン)、DYNAUDIO(フォルクスワーゲン)、DIAMOND AUDIO(キア)、harman/Kardon(スバル)など、たちまち例を挙げることができる。まるでひと昔前のオーディオショップが、すべて車内に引っ越したかのごとくである。
この自動車メーカーとオーディオメーカーによる“協奏曲”の背景は明らかだ。クルマメーカーにとっては、オジサンにもわかりやすいオーディオブランドを取り込むことによってクルマの付加価値を高められる。ポータブルデバイスの台頭で先行きの見えない高級オーディオ業界にとっても新しい活路となり得る。つまり双方の思惑が一致した結果といえる。
北米におけるオーディオメーカーとのコラボレーションといえば、もうひとつ記すべきものがある。
今回のデトロイトショーではフォードがプレスデイ初日、新型「フュージョン」を発表した。低燃費ユニット、ハイブリッド、プラグインハイブリッドの3種のパワーユニットをそろえ、「ザ・パワーオブチョイス」を売りにするモデル。そのセンターコンソールには、SONYのロゴが記されている。
これは、フォードが北米用車両のカーオーディオに関し、2007年にソニーと契約を結んだことによるもので、既存モデルにもSONYサインがディスプレイやスピーカーに記されたものがある。
それにしても、日系米国生産車「トヨタ・カムリ」と「ホンダ・アコード」がライバルであることを明言したフュージョンが、インテリアでは日系オーディオを売りにしているのは面白い。
同時に、昨今欧州でドイツ系ディスカウントスーパーの特売品コーナーに、食品缶詰と一緒にソニー製薄型テレビが並んでいるのを知っているボクゆえ、ところ変わればソニーもまだまだ威光を放っているではないかと感じたのも事実である。
「ビュイック」に家庭用コンセント
ボク自身は、前述のような高級音響機器を崇拝した年代より若干若い。したがって、いくら名の通ったオーディオが付いているからといって、クルマを選ぶ基準にはしない。
そんなボクが、もっとも引かれた“カーエレクトロニクス”があった。それは、デトロイトショー会場の近くにあるGMショールームに展示されていた「ビュイック・リーガルターボ」の後席足元にあった。
交流120ボルト、つまり家庭用電源のコンセントである。言っておくがこのクルマはハイブリッドではない。普通の2リッターDOHCターボである。にもかかわらず、プリウスのごとく普通のコンセントが付いているのだ。
カー用品店で市販のコンバーターを買ってくれば、どんなクルマでも家庭用電源が使えるものの、標準装着のほうがよほどスマートだ。
150ワットまでだが、ラップトップPCをはじめ、かなりいろいろなものが使えることになる。ビュイックの中で電気炊飯器を使ってごはんを炊くユーザーはいないだろうから、これで十分だろう。
そのコンセント、最も気の利かなそうなGMの、細かい要求をする客が最もいなそうな高級車ビュイックに付いているのが痛快だ。だから、穴をふさぐプラスチック蓋の質感が、かなり大陸的なのも許せてしまう。
高級オーディオの名前を借りるより、この気配りを続けられればアメリカ車の未来は明るい。GM本社の入った高層ビル・ルネッサンスセンターを見上げて、そう思ったボクである。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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