メルセデス・ベンツC200コンプレッサー ステーションワゴン アバンギャルド(FR/5AT)【試乗記】
待ったかいあり 2008.05.02 試乗記 メルセデス・ベンツC200コンプレッサー ステーションワゴン アバンギャルド(FR/5AT)……509万9000円
2007年6月に導入された新型Cクラスセダンから約10ヶ月の時を経て、ステーションワゴンが発売された。ワゴンならではの使い勝手と乗り心地を検証する。
待望の追加モデル
「W204」と呼ばれる新型「Cクラスセダン」がおおむね高い評価を得ているだけに、そのステーションワゴン版に期待を膨らませていた人は多いはずだ。実は私もそのひとり。本音をいうと、セダンよりもステーションワゴンのほうがずっと楽しみだった。その待望のニュー「Cクラスステーションワゴン」が2008年4月8日、遂に日本でも発表。さっそく試乗するチャンスを得た。
今回借り出したのは、主力モデルと目される「C200コンプレッサー ステーションワゴン アバンギャルド」。1.8リッターのスーパーチャージャー付き直列4気筒エンジンを積むC200Kのうち、グリルにスリーポインテッドスターを収めるスポーティな仕様である。ちなみに、ラインナップはセダンに準じるが、ステーションワゴンには3リッターV6が用意されず、また、2.5リッターに左ハンドルが設定されないのが主な相違点である。
実車を前にすると、ボディ後半にボリューム感があるからか、セダンよりもひとまわり大きく見える。実際は全長、全高はそれぞれ15mm拡大されただけで、全幅は同じと、ほぼ変わらないサイズを保っている。車両重量もセダンに比べて60kgの増加に抑えられた。そんなわけだから、荷室の奥行きはほぼセダンと同じレベルに留まるし、トノカバーを閉じた状態でのトランクスペースは450リッターと、セダンの10リッター増しに過ぎない。
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数字以上の使いやすさ
しかし、数字には表れない使い勝手の良さこそがステーションワゴンの見どころだ。手前中央のノブを押し下げるだけで簡単に操作できるトノカバーを開ければ、開口部との段差がないフラットなフロアが現れた。
両サイドがしっかりカバーされるため、幅そのものに余裕があるわけではないが、セダンに比べると格段に荷物の出し入れはしやすい。とくに奥にある荷物を取り出すときなどにワゴンの使いやすさが実感できる。旧型に比べてテールゲートがストンと落ちるデザインになった新型では、かさばる荷物を積む際の収納性も向上。もちろん、荷物が増えたときや長尺物を載せるときには、後席のシートバックを倒してフラットなフロアを拡大することもできる。
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ちなみに、セダンの場合、分割可倒シートはメーカーオプション(C63AMGは標準)である。
ワゴンのアドバンテージは他にもある。ルーフがほぼ水平に伸びたデザインのおかげで、後席のヘッドスペースが増しているのだ。身長168cmの私なら、頭の上に拳が縦にふたつ入るほど。セダンではひとつ以上ふたつ未満というスペースだった。ホイールベースは同一ながら後席の設置位置が若干後退したのか、足元の余裕もさらに増えた。
相変わらずの快適さ
ふだんとは順番が逆になったが、ようやく運転席に辿りつく。そこからの眺めは、当然セダンのC200Kアバンギャルドと変わらない。“コマンドシステム”によりすっきりまとめられたセンタークラスターや、大型の速度計などもそのまま。ダッシュボードやドアトリムなどの質感がいまひとつなのが惜しいところで、立派な外観とのギャップが商機を逃すことにならないかと、他人事ながら心配になってしまう。
しかし、ひとたび走り出すと、そんな不安もすっかり消え失せた。最高出力184ps/5500rpmを誇る1.8リッターのコンプレッサー付きエンジンは、2000rpm以下の低回転域で多少心許なく思えるものの、そこから上、あるいはアクセルペダルの踏み加減を大きくすれば、ひとクラス上の力強さを見せてくれるのだ。3000rpmを超えてしまえばどこからでも即座に加速する頼もしさで、トルクバンドの広さが扱いやすさにつながっている。それでいて、オンボードコンピューターを見るかぎり、燃費は排気量相応のレベルに収まるのもうれしい。
ステーションワゴンの走りっぷりは、セダン同様、重厚さよりも軽快さが目立つ仕上がり。ワゴン化にもかかわらず、リヤの足まわりが締め上げられた感じはなく、むしろ導入当初のセダンよりもサスペンションはしなやかに動く印象だ。おかげで、225/45R17サイズを履くアバンギャルドでも乗り心地は十分に快適で、205/55R16が標準のベーシックモデルやエレガンスならさらにマイルドに違いない。高速道路ではもう少しリヤの動きに落ち着きがあってもいいと思うが、それでもフラットさには合格点が与えられる。
取り回しの良さも大きな魅力
短時間ながらワインディングロードを走ってみたら、セダンに優るとも劣らない軽快さが印象的だった。軽すぎるステアリングには多少違和感を覚える反面、前52:後48というほぼ理想的な前後重量配分や“アジリティコントロールサスペンション”のおかげでハンドリングは適度に軽快であり、山道を楽しむことができた。
さらに印象を良くしたのが、優れた取り回し。全幅が1770mmと、このクラスとしては狭いうえにステアリングも良く切れるから、狭い場所での切り返しやUターン、あるいは駐車がとても楽というわけだ。
今回、『webCG』編集部の計らいで、取材日を含めて3日ばかり、このクルマと付き合う時間があったが、運転していてストレスがなく、乗るほどに旨みが出てくる仕上がりのよさに、クルマを返却する頃にはすっかりその気になった私である。機械としての高い洗練性や優れた基本性能といったメルセデスらしさはそのままに、日々の生活にすんなり溶け込む気安さを持つC200Kステーションワゴンは、クルマ好きをも唸らせる、ちょっと贅沢なファミリーカーだった。
(文=生方聡/写真=高橋信宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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