第67回:モーターボートに乗っちゃった!
〜ホンダ新型船外機試乗会に参加
2008.04.25
エディターから一言
第67回:モーターボートに乗っちゃった!〜ホンダ新型船外機試乗会に参加
つい勢いで
「ちょっとキビシイよな〜」
4月中旬のある日、NAVI編集部に顔を出すと、そんな声が耳に入ってきた。声の主である加藤編集長以下、浮かない表情の編集部員の輪に興味本位で首を突っ込んでみたところ、なにかの試乗会の日程が6月号の校了日と重なっているらしい。校了日というのは「校正が完了する日」で、すべての編集作業を終えなければいけない、編集部員にとってひと月のうちもっとも忙しい日である。その校了日の翌日から長期の海外出張を控える編集長をはじめ、編集部員がその試乗会に参加するのは難しいらしい。
いったい何の試乗会なのか、またまた興味本位で尋ねたところ、なんとホンダの新型船外機を搭載したモーターボートだという。へえ、おもしろそうじゃんと思った筆者は、珍しく自分の担当ページの入稿をほとんど終えていた気楽さも手伝い、「だったら俺が行こうか?」と、つい口にしてしまったのだった。
横須賀市佐島の「湘南サニーサイドマリーナ」で開かれた試乗会当日、試乗に先立って新型船外機「BF50/BF40」の技術プレゼンが行われた。ホンダでは現在、最大出力(最高出力ではない)2psの「BF2」から225psの「BF225」まで18機種の船外機をラインナップしているが、これら2機種は「BF25」から「BF90」の6機種からなる中型シリーズの、そのまた中核機。ちなみにいずれも品番である「BF」の後に並ぶ数字が最大出力を表わすが、これは船外機の世界ではメーカーを問わず共通とのこと。
今回モデルチェンジされた「BF50/BF40」は、水冷4ストローク直3SOHC808ccで、チューニングの違いにより前者は最大出力50ps/5750rpm、後者は40ps/5500rpmを発生する。従来からクラストップレベルの軽量・コンパクトさを誇ってきたが、新型はさらに14kgの軽量化(乾燥重量98kg)と容積にしてマイナス10%のコンパクト化(いずれも従来型比)を果たした。性能面では、電子制御燃料噴射システム「PGM-FI」と独自の空燃比連動点火時期制御「BLAST」、そしてリーンバーン制御の組み合わせによって、トルクが増大し加速性能が向上すると同時に、燃費の向上(クルージング領域で従来型比22%アップ)も実現したという。
来なきゃよかった?
「湘南サニーサイドマリーナ」には、「BF50」を搭載した「テルヒ・ビッグファン」(5人乗り、フィンランド製)と、3.5リッターV6の「BF225」を2基(すなわち450ps!)積んだ「ロバロR260」(12人乗り、アメリカ製)の2艇、およびそれらを撮影するための伴走艇が2艇用意されていた。最初は伴走艇に乗ってハーバーを後にしたのだが、ボートが加速体制に入った瞬間に、この試乗会に参加したことを後悔した。
不幸中の幸いというか、この日の相模湾はベタ凪だったのだが、艇が波と当たるたびに船底からドンッ!と衝撃がきて、船外に放り出されそうになる。「ああ、この恐怖感はかれこれ40年前、小学生のときに芦ノ湖の遊覧ボートで味わって以来だな……」などとつまらぬ記憶を蘇らせながら、ペッタリと後部の船底に座り込み、手すりにしがみついていた。我ながらなんとも情けないが、写真を撮るどころではない。「NAVIだけじゃもったいないから、webCGにもリポートを書かせてよ」と見栄を切ってきたというのに……。
だが、ボートが加速状態からクルージングに移ると揺れは小さくなり、徐々に恐怖感が薄らいできた。とはいえとても立つことなどできず、船底に座り込んだままだが、どうにかカメラを構えて並走する「ロバロR260」を撮影する。そのうちこちらは停止し、その周囲を「ロバロR260」が定常円旋回のように回り始めた。停っているのだから揺れもなく、こりゃいい按配だ、立ってみようかと思った瞬間に、ボートが激しく(と私には思えた)シェイクされた。聞けば周囲を旋回している「ロバロR260」が立てた波で揺さぶられているらしい。なんてことだ、これなら走っているほうがまだマシじゃないか。
これまた怖い思いをしながら海上で伴走艇から「ロバロR260」、次いでもう1台の伴走艇に乗り換えた後、いよいよ本日の主役である新型船外機「BF50」を搭載した「テルヒ・ビッグファン」に乗り移った。これまでに乗った「ロバロR260」や伴走艇がミニバンだとすると、それよりふたまわりほど小さい「テルヒ・ビッグファン」はライトウェイトスポーツカーという感じである。一般的には小さい船のほうが不安定なため怖いはずだが、単純に時間の経過とともにボートに慣れたためせいか、筆者には「テルヒ・ビッグファン」のほうが恐怖感が少なかった。
まっすぐ走れない
船長(マリーナのスタッフ)がしばし操縦した後、同乗していたホンダの広報スタッフに「そろそろ試乗してみませんか?」と声を掛けられた。「残念ながら(小型船舶操縦)免許を持ってないんですよ」と答えたところ、「いや、(免許を持った)船長が乗ってますから大丈夫です」という返事が。恥ずかしながらこの瞬間まで知らなかったのだが、船長は操縦のみならず船の運航すべてに責任を負う立場にあり、免許を持たない同乗者に運航の指示を出しながら操縦を委ねることもできるのだ(ただし港内や航路など他船が頻繁に行き交う区域で運航するときは免許保有者に限定される)。
二度とないかもしれない機会なので、お言葉に甘えて操縦することにした。操作方法そのものは非常に簡単で、基本的にはステアリングホイールで舵を取り、スロットルレバーで前進・後退の切り替えおよび回転数の調整を行うだけ。とはいうもののなにしろ初体験、しかもついさっきまで同乗しているだけでビビっていた身とあって、おそるおそる発進させた。いざ操縦してみると、ただ乗せられていたときより怖くはなかったが、おそらく緊張と興奮で恐怖を忘れていたのだろう。
スロットルを徐々に開けていくと、慣れないせいかやけにスピード感がある。デジタル表示のスピードメーターを見ると20km/h以下なのに、クルマでいえば倍ぐらい出ている感覚だ。しかも加速時には船首を持ち上げて進んでいくため、前方視界が遮られてしまう。いちばん前が見たいときに見えないのである。また舵(ステアリング)の中立位置がはっきりしないので、まっすぐ進んでいるかどうかもよくわからない。
「直進させるにはどうしたらいいんでしょう?」と船長に尋ねたところ、「周囲、ここだったら陸の景色を見ながら調整してください」とのこと。なるほどと思い舵を切ってみたものの、クルマと違ってすぐに反応するわけではなく、インフォメーションも乏しいというか自分には経験がないため感じ取ることができず、切りすぎたり、戻し忘れたり、戻しすぎたり、あっちへフラフラこっちへフラフラと、どうにもまっすぐ進ませることができなかった。
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また乗ってみたい
操縦を始めた当初、近くを「ロバロR260」が旋回していた。試乗艇同士で接触事故でも起こしたら洒落にならないのでスピードを20km/h前後に抑えていたが、彼らが遠ざかったところでスロットルを開けてみた。だが40km/h、回転数にして4500rpm前後に達したところで自主的にリミッター作動。ちなみに最高速度は50ps/5750rpmの最大出力時で60km/hくらい出るそうだが、そこまで試す勇気はなかった。
そんなへなちょこ試乗ではあったが、岸に近づいて舵を船長に戻す頃には、すっかり怖さを忘れていた。間もなく五十路を迎える身だが、久方ぶりの新鮮な体験によって、体内には相当量のアドレナリンが分泌されていたに違いない。そして機会があれば、また乗ってみたいとさえ思った。
NAVI編集部に戻り、さっそく撮影した写真をパソコンでチェックしていると、同じフロアにいるwebCG編集部を含め、居合わせたスタッフが集まってきてモニターを覗き込んだ。彼らに同乗のみならず自ら操縦もさせてもらえたことを伝えると、「なんだよ、だったら無理しても行けばよかったな」とでも言いたそうな顔、顔、顔。それに対して、こちらも口には出さねど「へっへー、今さら遅いぜ」と表情で返したのだった。
(文と写真=田沼 哲)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
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