アウディA4アバント 3.2 FSIクワトロ(4WD/6AT)【海外試乗記】
アウディらしい統一感 2008.04.23 試乗記 アウディA4アバント 3.2 FSIクワトロ(4WD/6AT)日本では、セダンより人気のあるのが「アウディA4アバント」。ワゴンとしての“道具”っぽさを感じさせないその魅力とは。新型をスペインで試乗した。
道具じゃない
新型「A4アバント」を最初に見たのはジュネーブショーの会場。月並みな表現だけれど「キレイなカタチ」と思った。
リアゲートはゆったりと傾斜し、アルミ製ルーフレールはすっきり屋根に埋め込まれている。エンジンに対して前輪の位置を154mm前進させ、2808mmのロングホイールベースとともに伸びやかなプロポーションを手に入れた新型「A4」に、とてもお似合いのデザインだと思った。
それから1ヵ月後。スペインのイビサ島で行われた国際試乗会で渡された資料を見て、美しさの理由がわかった。4703×1826×1436mmというボディサイズは、ヨーロッパ仕様のセダンと比較すると全高が9mmアップしただけで、幅はもちろん長さも同じなのだ。
ワゴンといわずにアバントを名乗る。人間と荷物を運ぶための道具ではなく、素敵な生活を演出するためのパートナー。そのコンセプトがサイズとカタチに表現されていると感じたのだ。
といっても新型A4アバント、狭いわけじゃない。ラゲッジスペースの容量はリアシートを起こした状態でも490リッター。ライバルと想定される「BMW3シリーズ」や「メルセデス・ベンツCクラス」を上回る。リアシートを倒せばその空間は1430リッターにまで拡大。このときの前後長は1770mmで、現行型を40mm上まわっている。
実際に目にすると、作りのよさが印象的だ。仕上げのよさはキャビンに劣らず。テールゲートは電動開閉式で、トノカバーは軽くタッチするだけで跳ね上がり、フロアは裏が防水仕様のリバーシブル。左右のレールにロッドやストラップを固定して空間を仕切るシステムも、「A6アバント」に続き採用した。こうした部分からもプレミアムブランドを感じるのだ。
新開発の2リッターエンジン
この空間を走らせるエンジンは、ヨーロッパ仕様では10種類。
ガソリンは1.8リッターと2リッターの直列4気筒ターボ(TFSI)がチューニング違いで2種類ずつ、さらに、3.2リッターV型6気筒(FSI)を加えて5種類。ディーゼルターボ(TDI)も、2リッター直列4気筒がチューニング違いで3種類と2.7/3リッターV6で計5種類だ。
このうち「2.0TFSI」は、アバント発表とともに登場した新開発のエンジンで、チューニング違いの2種類(180ps、211ps)を用意する。
「1.8TFSI」をベースに排気量を拡大するとともに、V6の「3.2FSI」と同じアウディバルブリフトシステムを採用した。高性能版の最高出力211psは、高性能版1.8TFSI(160ps)と3.2FSI(265ps)の中間で、35.7kgmの最大トルクは3.2FSI(33.7kgm)を上まわる。
トランスミッションは6段MTを基本に、4気筒にはCVT、V6には6段ATも用意する。4気筒は前輪駆動が基本だが、2.0TFSIと2.0TDIの高性能版は、V6で標準となるクワトロも選べる。
しなやかな乗り心地は健在
最初に乗ったのは3.2FSIクワトロ。キャビンはリアシートのヘッドクリアランスが増えたほかはセダンと同じ。あいかわらず上質で緻密な空間だ。アバントには前半分が開閉できる大きなガラスルーフも装備できるが、試乗車にはついていなかった。
そのボディはセダンより80kg重い1660kgだが、265ps/33.7kgmの前にはさしたる差ではない。あらゆる状況でスムーズかつ余裕あふれる加速を味わえた。ボディの剛性感にセダンとの差はなし。前車軸を前に出したことで前後の重量配分が理想に近づき、足の設定の自由度が増し、結果として格段にしなやかになった乗り心地をアバントでも堪能できる。
山道でペースを上げるとリアの重さを少し感じるけれど、それがハンドリングに影響を及ぼすことはなかった。重量配分を適正化したクワトロシステムは、フロントの重さをグリップで押さえ込む感がある現行型とは違う、リニアな身のこなしを味わわせてくれた。
2.0TFSIは前輪駆動との組み合わせで乗った。車重は未発表だが、おそらく3.2FSIより約150kg軽いはず。対するエンジンはわずか1500rpmでそれ以上の最大トルクを発生するので、加速は発進直後から強力だ。荒れた路面では簡単に前輪を空転させるほど。ただしエンジン音は4気筒としては緻密で、排気音も抑えられているから、クワトロなら上質な快速ワゴンになりえるだろう。
デザインからユーティリティ、パフォーマンスまで、すべてがアウディらしいインテリジェンスで統一されたA4アバント。今年後半に導入されるという日本仕様は、まずセダンと同じ1.8TFSIと3.2FSIクワトロの2タイプでスタートするというが、2.0TFSIクワトロを追加すれば、価格面でも性能面でも両車のあいだのギャップを絶妙に埋めてくれるはずだ。
(文=森口将之/写真=アウディ・ジャパン)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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