第229回:デトロイトで大矢アキオはミタ! (後編)−「地下ショー」で発見した、もうひとつのアメリカ自動車文化
2012.01.27 マッキナ あらモーダ!第229回:デトロイトで大矢アキオはミタ! (後編)「地下ショー」で発見した、もうひとつのアメリカ自動車文化
サケの皮を食べるように
デトロイトショーのメッセ会場の名称は、「コボ・コンベンションセンター」である。みんな4コマ漫画の『コボちゃん』を呼ぶがごとく、無意識にコボコボ言っている。だが本当は、1950年代に都市インフラ整備を推進した元デトロイト市長アルバートE.コボ(1893-1957年)に由来したものである。
そのコボ・センターには、モーターショーの主要ブースが展開されている1階から、階下へと向かうエスカレーターがある。
フライドチキンは骨の食べられる部分をカリカリかじり、サケは皮まで食べるボクである。各地のモーターショーでも、会場の隅っこを味わうのがボクの流儀だ。東京モーターショー2011でも、屋外会場で日本フルハーフの伸縮式トレーラーシャシーや、新明和工業がレストアしたマツダ三輪トラックを見学した。
容赦なく吹きつける東京湾の風に晒(さら)されながらも熱心に説明してくれる、そうした会社のスタッフには、こちらが貨物シャシーに関する知識の浅いこともあって、本当に頭が下がった。
世の中は「86」だなんだと騒いでいたが、ボク個人としては屋外展示が一番東京ショーで印象に残った展示であった。だからコボ・センターでも、そのひと気が少ない地下に行ってみることにしたのだ。
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アメリカ式福祉車両
「ミシガンホール」と名づけられたそのフロア、最初の一角ではシンポジウムが行われていた。“おつきあい”で参加している人が多いのか、眠そうに座っている人が多く、少々けだるげなムードが漂っていた。
その奥にはエコカー試乗の屋内コースが設営されていた。すでに市販の電気自動車やハイブリッド車などを、来場者自ら運転できるという企画だ。ボクもついでに、「シボレー・ボルト」と「日産リーフ」を選んで運転させてもらった。
試乗を終えてコースの反対側をふと見ると、さらなる展示が広がっている。福祉車両のコーナーであった。それも日本では見かけないようなタイプが、いくつも並んでいるではないか。
まずは福祉用電動車両(日本でいうスズキの「セニアカー」の類い。以下、電動車両)を、小型クレーンを使ってミニバンのラゲッジルームに載っけるデバイスだ。電動車両を載せる装置は他にもあるが、クレーン式ならスロープを使うより労力が少ないし、リフトを使うものよりかさばらない。デモ車両には「クライスラー・タウンアンドカントリー」が使われていたが、電動車両を載せるため犠牲にするのは、7人乗りの3列シートの片側1席だけである。価格は2500〜3000ドル(約20万〜24万円)ということだ。
次なる電動車両搭載グッズは北米トヨタの福祉車両部門「トヨタ・モビリティ」のブースである。同社は米国市場向けミニバン「シエナ」に、後席アクセス用の折りたたみスロープを装着した車両を展示していた。これもボディーの敷居を巧みにカットするなど、詳しく見ると興味深いものだったが、ボクが驚いたのは、その横に展示されていた「トーイング・パッケージ」なるオプションである。
これはトヨタ製ではなく社外品をカタログに載せているものだが、ずばり電動車いすや電動車両を搭載する専用トレーラーだ。これなら、たとえセダンタイプであっても、電動車両を持ち運ぶことができる。クルマを買い替える必要がないというわけだ。なお、積み下ろしはリフトなので簡単である。
しかしながら特筆すべきは、インディアナ州の「ゴーシチ」という企業が手がけるコンバージョン(改造)車両だろう。
ピックアップトラックのドアを手前に36インチ(約91cm)浮き出させ、車いす用パレットを昇降させる仕掛けである。所要時間は登り降りとも30秒だ。スタッフは、「内蔵モーターは、シートの上下用とスライド用のふたつだけ」と、見かけよりもシンプルな構造であることを強調する。
改造可能車両は、ピックアップが「シボレー・シルバラード」と「GMCシエラ」、SUVが「シボレー・サバーバン」と「GMCユーコンXL」。いずれも2008年以降のモデルだ。
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入手方法は2通りあり、米国とカナダにあるゴーシチのディーラーで改造済み新車あるいは中古車を購入する。もしくは、 ゴーシチ社に車両を送って改造してもらう。後者の所要日数は通常3〜4週間だという。キット費用は約2万5000ドル(約200万円)が目安だ。
ショーの神髄、ここにあり
そのピックアップ用改造ドアは、ボクの目には少々大掛かりに映ったのも事実だ。さらにいえば、たとえハンディキップのある人でも大都市以外はクルマなしでは生活できない、公共交通機関を置き去りにしてきたアメリカという国を反映していると感じた。懐メロの歌詞「こんな女に誰がした」を思い出し、「こんな国に誰がした」とつぶやきたくなった。
しかし会場で上映されているビデオを、もう少し黙って観賞することにした。ゴーシチのキャッチフレーズは「Bring Back Your Freedom with GoShichi」。「後席はそのまま。5人まで乗れます」さらに「ボートやトレーラーもけん引できます」とうたう。オーナーがゴーシチ改造車に昔からの仲間を乗せ、自ら運転して大自然に繰り出す姿が想像できる。
ゴーシチをポジティブに見れば、モビリティの自由だけでなく、クルマのある楽しい生活を提供しようという意欲に満ちている。まだ移動手段にとどまっている日本の福祉車両よりも、一歩前進しているのだ。
参考までにゴーシチは、1999年に交通事故で車いす生活を余儀なくされた創立者が考案したビジネスであるという。それを知るとさらに製作意図がうなずける。
すべての人がクルマ社会に参画するばかりでなく、クルマのある生活を享受することを模索する。福祉車両コーナーこそ、アメリカのモーターショーを代弁していると思った次第である。
福祉車両コーナーこそ、アメリカのモーターショーを代弁していると思った次第である。
やはりショーは隅から隅まで見るとためになる。そう思いながらコボ・センターの出口に差し掛かったところで、一点聞き忘れたことを思い出した。それを聞いておかないと眠れそうにないと思ったボクは福祉車両コーナーに引き返し、スタッフにこう聞いた。
「あのぉ、御社名の“GoShichi”ってどんな意味なんですか?」
すると、「えっ、日本人なのに知らないの?」というわずかなニュアンスも込めて、こんな答えが返ってきた。
「fiveとsevenだよ」
創立者とビジネスパートナーの少年野球時代における背番号だという。なんだ、日本語だったのか。
同時に、欧州に住んでいるとまったくなじみのないBaseballという言葉とクルマが関係しているところに、限りなくアメリカ風情を感じたのだった。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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