アウディA1スポーツバック1.4 TFSI(FF/7AT)【海外試乗記】
真打ち登場 2012.01.29 試乗記 アウディA1スポーツバック1.4 TFSI(FF/7AT)アウディA1のラインナップに、より利便性の高い5ドア版「スポーツバック」が加わった。その使い勝手や走りの印象を、スペインからお届けする。
全幅が増しているワケ
2011年末の東京モーターショーで世界初公開されたのが記憶に新しい「アウディA1スポーツバック」は、平たく言えば「A1」の5ドア版である。特にここ日本では、A1シリーズの本命と言っていいだろう。
Bピラーを3ドアのA1より約23cm前方に移動させてリアドアを設けたボディーは、さらに、後席ヘッドルームを確保するためルーフを80mm以上も後方へと延長している。そのため3ドアと比べるとリアウィンドウの傾斜が緩く、ラップアラウンドタイプのハッチゲートの切り欠き方も異なる。しかしながら、3ドアの派生ではなく両者同時に開発がスタートしたというだけあって、言われなければドア枚数が増えただけかと思うぐらい、フォルムは均整がとれている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3954×1746×1422mmと、3ドアよりも全幅、全高がそれぞれ6mmずつ大きくなっている。全高が増えたのはルーフラインが変わったせいだが、では全幅が増えているのはなぜかと言えば、フロントのドアノブが3ドアより前方の、より張り出した面に移されているからである。
よって前席の室内空間は3ドアと同等だが、後席は頭上の余裕がわずかにではあるが増している。広々としていて快適とまでは言えないが、まあ最低限許せるレベルとは言っていいだろう。なお、欧州では後席は2名掛けが標準となるが、無償オプションで3名掛けも選択できる。
気筒休止システム付きエンジンが仲間入り
メカニズムは基本的にはA1のそれを踏襲している。注目はエンジン。そのラインナップに新たにシリンダー・オンデマンド・テクノロジー、要するに気筒休止システムを搭載した1.4リッターのTFSIユニットが加わったのである。
気筒休止が行われるのは2番、3番シリンダー。カムシャフトには通常運転用の他に、気筒休止用すなわちゼロリフトのカムプロファイルが刻まれたスリーブが組み込まれている。エンジン回転数でいえば1400〜4000rpmの間、トルクでは約25〜75Nm(2.6〜7.7kgm)の間の低〜中負荷域での惰性走行に入ると、電動アクチュエーターの働きによって瞬時にスリーブが押されてこのゼロリフトのカムプロファイルが選択され、さらに燃料もカットされることで2気筒運転に切り替わる。
最高出力140ps、最大トルク25.5kgmを発生するこのエンジン、7段Sトロニックとの組み合わせにより、燃費は4.7リッター/100km(約21.3km/リッター)を達成している。気筒休止の効果は0.4リッター/100kmというから、燃料消費を約8〜9%も削減していることになる。
ドライバー・インフォメーション・システムで確認すると、大抵は加速後、速度をキープしようとアクセルペダルを緩めたところで、表示が「2-cyl.mode」へと切り替わる。ただし急な下り坂に差し掛かった際や、ブレーキペダルが踏まれた時には、エンジンブレーキを効かせるべく作動はキャンセルされ4気筒に戻る。後者の際だけはペダルを通して軽い振動が伝わるが、それ以外は表示がなければ切り替わりに気付くのは難しいぐらい動作はスムーズだ。
このエンジン、その他の面のフィーリングも上々である。低速域からトルクは十分以上。それでいて吹け上がりは爽快で、回せば5000rpm以上の領域までしっかりパワーがついてくる。極めてフレキシブルで、かつ軽快感もたっぷりの気持ち良い仕上がりは純粋に乗っていて楽しい。
日本導入は2012年夏
シャシーに変更はない。もともとA1は同じプラットフォームを用いる「ポロ」と比べても一枚上手の剛性を感じさせ、補助スプリング内蔵のツインチューブダンパーをおごることで、硬いなかにも質の高い乗り味を実現しているが、A1スポーツバックは特にストローク初期の動きがしなやかさを増して、快適性が向上している。以前に乗ったA1ではタイヤは16インチがベストと感じたが、今回はしっかり感も含めて17インチに好印象を抱いた。未確認だが、2012年モデルはA1自体、同じように熟成されているもよう。年々、熟成が進められていくのはヨーロッパ車の常である。
街中を颯爽(さっそう)と駆け抜ける存在というイメージに、よりしっくりと来るのは3ドアのA1の方だろう。しかし後席へのアクセスが良いのに加えて、ドアが小さいため狭い場所での駐車や開け閉めに神経を使わなくて済むことまで含めた利便性を考えれば、街中でリアルに使い勝手が良いのはこのスポーツバックであることは間違いない。どちらにも相応の魅力がある。商品企画はなかなか巧みだ。
日本上陸は、2012年夏の予定。ただし、エンジンは現行のA1と同じ最高出力122psの1.4 TFSIが組み合わされる。シリンダー・オンデマンド・テクノロジーの導入は将来に期待ということになる。
まさに本命、スポーツバックを得たA1シリーズ。今年はさらに存在感を増していくことになりそうだ。
(文=島下泰久/写真=アウディ)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。