アウディA1スポーツバック35 TFSI Sライン(FF/7AT)
MINIを超えろ 2020.02.13 試乗記 2代目にフルモデルチェンジしたアウディのBセグメントコンパクト「A1スポーツバック」。よりスポーティーに進化した新型の実力を、兄弟車であるフォルクスワーゲン(以下、VW)の「ポロ」や、プレミアムコンパクトの王者「MINI」との比較を通してリポートする。カタログモデルは2つのグレードでスタート
昨2019年末、まずは導入記念限定車「ファーストエディション」にまつわる記事が世をにぎわせた新型A1スポーツバックである。いっぽう、日本市場におけるカタログモデルは「35 TFSI Sライン」と「35 TFSIアドバンスト」の2グレードでのスタートとなった。
まあ、ベースモデルが1.5リッター4気筒ターボ+7段デュアルクラッチ変速機で前輪を駆動する「35 TFSI」である点は、どちらもファーストエディションと同じだ。ちなみに、本国では1リッター3気筒ターボ(25 TFSI/30 TFSI)や2リッター4気筒ターボ(40 TFSI)など、車体骨格モジュールを共用するVWポロに準じるパワートレインも、当然すでに登場済みだ。
A1とポロのホイールベースを比較すると、A1のほうが10mm長い。日本の諸元表でこの程度のちがいなら、計測方法による誤差の場合もあるが、欧州仕様のホイールベース値も異なるので意図的に差別化されているようだ。この「ポロファミリーのアウディ版」は、車体骨格モジュール「MQB-A0」を共用する同じファミリーの「セアト・イビサ」とともにスペイン工場で生産されており、ホイールベースもイビサと同寸である。もっとも、今どきの自動車生産システムでは、異なるホイールベースのクルマを同じライン上でつくるなんて朝飯前だが。
今回試乗したのは、A1に用意される2グレードのうち、高価なSラインである。とはいえ、前記のパワートレインに加えて、タイヤサイズやインフォテインメント装備、あるいは先進運転支援系を含めた安全装備などにも、安価なアドバンストとのちがいはない。
Sライン専用となる装備は、エクステリアでは前後バンパーやアルミホイール(サイズはアドバンストと共通)、インテリアはランバーサポート付きのスポーツシートやサイドシルプレートなど。さらに、少し引き締められた「スポーツサスペンション」とワンタッチで走行モードが切り替わる「アウディドライブセレクト」といった専用装備が追加されたSラインの価格は、アドバンストの26万円高である。
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高級路線からスポーティー路線へ
この前身となった初代A1はそれなりの台数が売れたが、仮想敵のMINIと比較すると、アウディ的には大成功でもない……というのが率直な評価のようだ。初代A1はポロより高級であることを分かりやすく主張していたが、新型A1は高級感の表現よりスポーツ性に重きを置いているように見える。これもさらなる成功への模索だろう。
たとえば、今回も当然のごとく完全専用デザインとなるインテリアだ。分かりやすく質量をかけた分厚いソフトパッドを使い、その他のシボもVWより質感が高く、エアコンアウトレットやスイッチやメッキ部品のひとつひとつもVWより繊細だった先代に対し、新型A1のそれは同期のポロと比べて、従来ほどの差が感じられない。
そこにはポロの質感がさらに底上げされた影響もあるのだが、新型A1のインテリアには、伝統的な高級素材を取り入れるより、細かいディテールで遊ぶ……という意図が明らかに見える。なるほど、エアコンルーバーがダッシュボード全面に拡大したようなデザインや、複雑な形状のメーターフード加飾など、部品レベルではVWよりコストをかけているのは事実のようだ。
しかしわれわれ素人からすると、新型A1のインテリアは目に楽しくはあっても“高級か?”という点では賛否が分かれると思う。それはエクステリアも同様で、たしかに往年の「スポーツクワトロ」を模したフロントフェイスはポロより部品点数が多く、リアドアの切り欠きなどもA1のほうが凝っている。しかし、新型A1のクルマ全体としての印象はスポーツカー的、もしくはラリーカー的ではあっても、高級車としての表現は、個人的には物足りない気がしないではない。
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スピードが高まるほどに感じられる走りの良さ
……と、内外装の仕立てにはいろいろと注文をつけてしまったが、走りについては新型A1は素直に楽しいクルマだ。この35 TFSIが使っている車体骨格やパワートレインなどの基本ハードウエアは、日本仕様のポロでいうと「TSI Rライン」に相当するが、乗り味は明確にちがっている。
この新しいSラインの走りは、使い古された表現でいうと“ミズスマシ”である。路面上に低くへばりついて、水平姿勢のままコーナーを泳ぐようにクリアしていく。ポロRラインと比較すると、A1は同じサイズのタイヤを履きながらも、ホイールベースが10mm長く、全高が15mm低く、トレッドが前後とも10mmずつ幅広い。ただ、実際に乗って感じられる味わいは、その数値以上に目線が低く低重心で、直進ではピタリと安定していながら、同時にすこぶる軽快な回頭性を両立している。
このあたりの味つけは、高級Bセグメント市場の王者であるMINIへの対抗心を強く感じるところではある。ただ、低速での乗り心地は直接的な競合グレードとなるハッチバックの「クーパー」よりさらに硬質で、路面からの突き上げもMINIより総じて鋭くて強い。
いっぽうで、高速になるほど、そして旋回速度が上がるほどしっくり落ち着いてくるフィジカル性能は、お世辞ぬきに高い。ロールが深まった状態で路面不整に遭遇しても、走行ラインがほとんど乱されないのは感心する。低速でのゴリゴリの乗り心地からすると、高速では不思議なほどにクルマの動きはしなやかになり、シートから伝わる接地感もより鮮明になるのだ。その領域にいたっても、独特の軽快な回頭性は失われず、同時に意地悪に振り回しても後輪は路面に根を生やしたように安定している。
こういう味わいは、サスペンションまわりの各部品が低フリクションで、そして動的な横剛性が高くないと実現しない。さすがアウディだけに、このあたりにはコストがかけられているのだろう。
ライバルを超えられたか?
今回はパワートレインの仕上がりにも感心した。自慢の気筒休止はしばらく乗った後の予想外の燃費の良さで、その効能を気づかせるものの、走行中はその存在をまるで主張しない。この技術の出はじめのころは、わずかな“コツッ”という切り替え感があったが、今では完全なる黒子に徹している。
走行モードを切り替えるドライブセレクトは、A1では今回のSライン専用装備である。パワートレインの反応が鋭くなるダイナミックモードにすると、引き締まったシャシーにカツが入ってより走りやすくなるが、パワーステアリングはどのモードでも、クルマ全体のリズム感に対して少し軽すぎて感触もデッド気味だ。
まあ、この35 TFSIは、A1全体ではあくまで“ホット”とまではいえない中間的な、“ウォームハッチ”的な位置づけだ。刺激的な辛口は日本未導入の40 TFSIや、あるいは来るべき「S1」で味わわせてくれるのだろう。
そんなA1スポーツバックの価格をスペックや装備内容を同等にしたポロと比較すると、おおよそ100万円高というところだろうか。前記のようにディテールにはそれなりに凝ったところはあり、シャシーなどの隠れた部分にコストがかけられたフシもある。
そのいっぽうで、前記のような内外装の素材づかいは兄弟車のポロ、あるいは宿敵MINIと比較して説得力ある高級感が表現できているとはいいがたい。また、明らかに硬い乗り心地だけでなく、ロードノイズなどの静粛性対策も少し物足りない。そしてMINIのような重厚感にかける点が「この価格設定は少し強気かなあ」と直感的に思わせてしまう理由になっている。
ただ、このハンドリングは素直に楽しい。低重心で姿勢変化の少ない走りは、ある意味でMINIに似たゴーカート的ではあるが、姿勢は保ちつつスムーズな荷重移動感がある味わいは、MINIとも明確に異なる。とくに今回のSラインはそうである。走りのキャラクターは先代A1より濃くなった。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アウディA1スポーツバック35 TFSI Sライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4045×1740×1435mm
ホイールベース:2560mm
車重:1220kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)215/45R17 91W/(後)215/45R17 91W(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:17.3km/リッター(JC08モード)/15.6km/リッター(WLTCモード)
価格:391万円/テスト車=498万円
オプション装備:ボディーカラー<ティオマングリーン>(6万円)/コントラストルーフ(7万円)/Bang & Olufsenサウンドシステム<11スピーカー>+ラゲッジコンパートメントパッケージ(13万円)/スマートフォンインターフェイス+ワイヤレスチャージング(12万円)/ナビゲーションパッケージ<IMMナビゲーションシステム+バーチャルコックピット>(31万円)/コンビニエンスパッケージ<アドバンストキー+リアビューカメラ+アウディパーキングシステム+デラックスオートマチックエアコンディショナー+シートヒーター[フロント]>(19万円)/アシスタンスパッケージ<アクティブレーンアシスト+アダプティブクルーズコントロール+プレセンスベーシック+ハイビームアシスト+ルームミラー[自動防眩(ぼうげん)]>(12万円)/S lineインテリアパッケージ<ヘッドライニング ブラック+ストラクチャーグレークオーツペイントトリム+デコラティブパネル ダイヤモンドペイントフィニッシュシルバーグレー+ステンレススチールフットペダル+クロス/アーティフィシャルレザーシートS lineロゴ+ステアリングホイール 3スポーク レザー マルチファンクション パドルシフト フラットボトム+インテリアライティングパッケージ>(7万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2075km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:443.4km
使用燃料:28.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:15.8km/リッター(満タン法)/16.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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