第30回:子供心を忘れない男たちへ!
今も心の奥底で乗ってみたい「あの車」
2008.03.01
マッキナ あらモーダ!
第30回:子供心を忘れない男たちへ!今も心の奥底で乗ってみたい「あの車」
3輪車とローラースルー
元GMの名デザインディレクター、チャック・ジョーダン(80歳)は子供時代、12段変速のトラックを祖父の農園で運転していたという。
それに較べると、筆者(41歳)は一般人である。最初の乗り物は多くの子供同様、フロントドライブの1WD車だった。つまり「3輪車」である。ただし個人的な自慢は、一般的な3輪車と違って、後方に荷台が付いていたことだった。さながら「隣の3輪車が小さく見えます」といったところで、子供たちの間でスターになれた。
しかし小学校に進学すると、もはや3輪車に乗るのは小っ恥ずかしくなってしまった。
さらに数年後、他の子たちが「ローラースルーGOGO」を乗りまわすようになった。当時ホンダの関連会社から発売されていた、凝ったメカニズムをもつキックスクーターである。おかげで、「ビックアップ3輪オーナー」というステイタスは一気に過去のものとなってしまった。
さらにボクは「ローラースルーGOGO」を買ってもらえなかった。悲しい子供時代の思い出だ。
拡大
|
1に疑似ジープ、2にメルセデス
ヨーロッパ各国を旅していると、クルマをモティーフにしたさまざまな遊具に出会う。といっても、スワップミートに高価で出ているアンティークのペダルカーなどは、投資の香りがするので興味ない。
また自動車メーカーがパーツ扱いで販売している、精巧なペダルカー or 電動カーも関心ない。もしわが家に子供がいて親馬鹿になったとしても、本物のクルマのローン月額を遥かに上回る、そうした物を買い与える資力がないからだ。
ボクが気になるのは、ずばり空港やスーパーマーケットの片隅に設置されている遊具である。
1ユーロ玉を入れると数分間ゆさゆさと動いたり、前後のランプが点灯したりする。たとえ自分で運転できなくても楽しかった時代を思い出すと、なにやら哀愁にむせぶ。
そうした遊具をイタリアやフランスで観察していると、ジープとパジェロを足して2で割ったような形のものが多いが、次に目につくのは明らかにメルセデスを模したモデルである。
ただしモデルにしたメーカー名が明示されているものは、ほとんど見たことがない。商標権の管理が厳しいためだろう。
誰がどう見ても……
そんななか、大胆なものを見つけた。3番目の写真である。イタリアのピサ空港で発見したものだ。
「大胆なもの」といっても、そこのあなた、後方の広告写真ではない。スマート型遊具である。
イタリアでは2007年12月、ボローニャ・モーターショーにスマートに酷似した中国車「小貴族」を出展しようとしたインポーターが、関係当局に会場入口で阻止されるという事件があった。ダイムラーのイタリア法人が財務警察に意匠権侵害を通報したものといわれているが、子供用遊具にはお咎めが及んでいないようだ。
ナンバープレートが「Smart」ではなく「Smile」という、オチが功を奏しているに違いない? とボクなどは勝手に考えている。
そこでふと思ったのだが、逆にフィアットは遊具メーカーとタイアップで、子供用チンクエチェントを商業施設に設置したらどうだろう。早期教育を施せば、今日イタリアの若者の間に蔓延する「フィアット=オヤジのブランド」という概念を取り払えるかもしれない。
拡大
|
あの名車型も発見!
いっぽう先日滞在したパリで、最高のクルマ型遊具を発見した。
セーヌ左岸、アンドレ・シトロエン公園に設置されていたものである。
こちらは前述の「1ユーロゆさゆさ遊具」ではなくミニ滑り台なのだが、思いっきり「シトロエン2CV」なのである。
そこは1974年までシトロエンの有名なジャヴェル工場があった場所。しかし公園となったあとはパリ市の管理下にあり、直接シトロエンとは関係ない。
ライトやフェンダーまわりなど、子供向けにしては造り込みが明らかに過剰品質だ。したがって、発注した市の関係者にシトロエン好きがいたとしか思えない。探したかぎり、園内にシトロエンを模したものは、写真の一基だけだった。
ボクが発見したとき、これから1組の親子連れが遊ぼうとしていたので試乗は避けた。
かわりに夜なら、アベックの目さえ気にしなければ遊べる……と思ったが、冬期は夕方5時45分で閉じてしまうことが判明した。まあ、年甲斐もなく乗ってふざけていたうえに、翌朝まで公園から出られなくなったら最高の間抜けであろう。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)
拡大
|

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影 2025.11.27 「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。
-
第937回:フィレンツェでいきなり中国ショー? 堂々6ブランドの販売店出現 2025.11.20 イタリア・フィレンツェに中国系自動車ブランドの巨大総合ショールームが出現! かの地で勢いを増す中国車の実情と、今日の地位を築くのに至った経緯、そして日本メーカーの生き残りのヒントを、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが語る。
-
第936回:イタリアらしさの復興なるか アルファ・ロメオとマセラティの挑戦 2025.11.13 アルファ・ロメオとマセラティが、オーダーメイドサービスやヘリテージ事業などで協業すると発表! 説明会で語られた新プロジェクトの狙いとは? 歴史ある2ブランドが意図する“イタリアらしさの復興”を、イタリア在住の大矢アキオが解説する。
-
第935回:晴れ舞台の片隅で……古典車ショー「アウトモト・デポカ」で見た絶版車愛 2025.11.6 イタリア屈指のヒストリックカーショー「アウトモト・デポカ」を、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが取材! イタリアの自動車史、モータースポーツ史を飾る出展車両の数々と、カークラブの運営を支えるメンバーの熱い情熱に触れた。
-
第934回:憲兵パトカー・コレクターの熱き思い 2025.10.30 他の警察組織とともにイタリアの治安を守るカラビニエリ(憲兵)。彼らの活動を支えているのがパトロールカーだ。イタリア在住の大矢アキオが、式典を彩る歴代のパトカーを通し、かの地における警察車両の歴史と、それを保管するコレクターの思いに触れた。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
