第28回:ヒストリックカーイベント「レトロモビル2008」
幻の「空気列車」でゴー!
2008.02.17
マッキナ あらモーダ!
第28回:ヒストリックカーイベント「レトロモビル2008」幻の「空気列車」でゴー!
「過積載」と「たそがれ」
2月のパリといえば、ヒストリックカー見本市「レトロモビル」である。週末2回をはさむ10日間というのが、毎年のお約束だ。
今年は2月8日から17日まで開催された。
ちょうどこの時期、パリジャンの中には冬の小休止として雪山や別荘を目指す人が多いが、古典車ファンはレトロモビルのため街に残る。
このイベント、今年で早33回目を迎える。
今年はオーガナイズするスタッフが一斉に代わって、通い歴12年のレトロモビラー(?)であるボクを驚かせた。
また恒例のオークションは、昨年までのクリスティーズ社が自動車売買から撤退したため、代りに初めてボナムズ社によって行なわれた。
特別展は「シトロエン2CVの60周年」「BMWのMパワー30年」「ホンダ創立60年」などなど、過積載ともいえる13項目が用意された。フランスの人気テレビ司会者ジャンピエール・フコー氏の自動車コレクションもあった。日本なら、さながら久米さん・草野さんあたりに車庫からクルマを引っ張り出してきてもらうような企画である。
ただし展示車の年代は、依然として新しくても80年代前半どまり。来場客の多くも、10年前と比べて明らかに高齢化している。ボクなどは「喫茶コーナーで売っている硬いバゲット、大丈夫っすか」などと余計な心配までしてしまった。
アエロトラン
そんな哀愁漂うレトロモビルで、ちょっぴりムードの違う一角があった。
「アエロトラン」のコーナーである。
「Aerotrain」とは幻の空気推進列車のこと。ジャン・ベルタン技師によって1957年に考案されたもので、航空機用ターボプロップやジェットエンジンを推進力にしてコンクリート製レール上を高速走行するものだ。
ベルタンの研究所は18kmの実験線を建設。1969年には乗員80人を乗せて試験走行に成功した。結果を高く評価した当時のポンピド大統領は、国家プロジェクトとしてアエロトランの研究推進を決定、予算も計上した。
その後、研究は続けられ、1974年には最高時速430kmを記録。しかし同年、ジスカールデスタン大統領がTGVのほうがより現実的な計画であると判断したことにより、以後アエロトラン計画は葬られてしまった。
考案者のベルタンも翌年暮れ、失意のうちに世を去った。最初のTGVが開通する3か月前のことだった。
今回レトロモビル会場に展示されたのは「2号プロトタイプ」というモデルである。旧ベルタン研究所の庭で朽ち果てていたのを、2000年にファンクラブ「ベルタン友の会」が発見したものという。
実は直後にも友の会によってレトロモビルに持ち込まれたが、今年はレストア完了後初のお披露目として再び展示された。
お触りOKの心意気
話を戻そう。このアエロトラン・コーナーが他のレトロモビルスタンドと違うのは、「少年たち」に人気だったということだ。それは体験試乗会が催されたからである。
といっても操縦席に座るだけで、本体は1ミリたりとも動かないので、「お座り会」というのが正しい。ただし座ったあとは「乗車証明書」が友の会のメンバーから授与される。証明書はカラープリンターによるものだが、友の会のおじさん・おばさんが一生懸命子供たちの名前を記入している。
フランスでもカラートナーは高価だ。にもかかわらず刷ったものを無料で配っているとは。見上げれば、操縦席に至る階段も日曜大工感覚である。
聞けば、8年がかりのアエロトラン修復は会員たちの寄付と作業によるものだという。汗と涙の成果である。普通なら「お触り厳禁」にするところだ。だが逆に、ひとりでも多くの人に楽しんでもらおうとしている。その心意気に泣けた。
ボクも子供たちに混じってタイトなコクピットに座らせてもらったうえ、乗車証明書をもらった。これだけで帰っちゃってはあまりに悪いので、日本における免許の更新簡易講習の要領で、これまた手作り感覚のパネル展示を見て帰った。
クルマも人も高齢化が進んでいると書いたレトロモビルだが、まだまだ捨てたもんじゃない。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第957回:伝説のベルトーネが復活 新経営陣が目指すブランドの未来 2026.4.16 イタリアを代表するカロッツェリア&デザイン開発会社だったベルトーネ。新たな資本のもとで再起を図る彼らが見据えたビジネスと、新生ベルトーネのクルマの特色とは? 温故知新で未来に臨む名門の取り組みを、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。
-
第956回:どうする“(ほぼ)ランク外”のランチア 営業マンの吐露する真情とともに 2026.4.9 鳴り物入りで復活を遂げたはずのランチアが、まさかの大不振! 新型「イプシロン」が空振りした理由とは? 1906年創業の名門が、歴史を重んじる欧州でここまで苦戦する理由とは? 営業マンの声とともに、現地在住の大矢アキオがリポートする。
-
第955回:イタリアでは事情が違う? ニュースにおける高級外車の“実名報道”を考える 2026.4.2 目立つから仕方ない? ベントレーやランボルギーニといった高級輸入車だけが、事故を起こすたびに“実名報道”されてしまう理由とは? この現象は日本固有のものなのか? イタリア在住の大矢アキオが、日本の事故報道におけるふとした疑問を掘り下げる。
-
第954回:イタリア式「走ったぶんだけ保険」奮闘記 2026.3.26 イタリア在住の大矢アキオが、マイカーの維持費を節約するべく走行距離連動型の自動車保険に挑戦! そこに待ち受けていた予想外のトラブルの数々とは? 保険にみるイタリアのお国柄と、2カ国生活者ならではの“あるある”な騒動をリポートする。
-
第953回:「黄金のGT-R」と宅配便ドライバーになりかけた話 2026.3.19 イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオが1年ぶりに日本を訪問。久々の東京に感じた世相の変化とは? 廃止されたKK線に、街を駆けるクルマの様相、百貨店のイベント。さまざまな景色を通じて、「中からは気づけないこの国の変化」をつづる。
-
NEW
スバル・ソルテラET-HS(前編)
2026.4.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバル&STIでクルマを鍛えてきた辰己英治さんが、“古巣”スバルの手になる電気自動車「ソルテラ」に試乗。パワートレインの電動化以外にも、さまざまな試みが取り入れられた一台を、ミスター・スバルはどう評価するのか? -
第57回:スズキはなぜインドに賭ける? 変わらず牛が闊歩するインドの最新工場を小沢コージが直撃
2026.4.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージがインドへ。日本の自動車ファンにとってインドといえばスズキのイメージだが、実はスズキは現在、インドへの大型投資の真っ最中だ。なぜスズキはインドでこれほどまでに愛されるのか。最新工場を見学して考えた。 -
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.18試乗記2016年に上陸した2代目となるボルボのフラッグシップSUV「XC90」の最新アップデートモデルに試乗。パワフルなプラグインハイブリッドシステムを採用する3列シートSUVの走りを、先にステアリングを握った「V60」や「XC60」との比較を交えながら報告する。 -
谷口信輝の新車試乗――ディフェンダー・オクタ編
2026.4.17webCG Moviesブーム真っ盛りのSUVのなかで、頂点に位置するモデルのひとつであろう「ディフェンダー・オクタ」。そのステアリングを握ったレーシングドライバー谷口信輝の評価は……? 動画でリポートします。 -
第866回:買った後にもクルマが進化! 「スバル・レヴォーグ」に用意された2つのアップグレードサービスを試す
2026.4.17エディターから一言スバルのアップグレードサービスで「レヴォーグ」の走りが変わる? 足まわりを強化する「ダイナミックモーションパッケージ」と、静粛性を高める「コンフォートクワイエットパッケージ」の効能を、試乗を通して確かめた。 -
ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250リミテッド(6MT)【レビュー】
2026.4.17試乗記アメリカの大地が鍛えたアドベンチャーモデル「ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250」に、充実装備の上級モデル「リミテッド」が登場! 試乗して感じられた、日欧のライバルに勝るとも劣らない魅力と、どうしても気になるポイントを報告する。