第23回:がんばれ! 迷走する名門ベルトーネ
2008.01.12 マッキナ あらモーダ!第23回:がんばれ! 迷走する名門ベルトーネ
イタリア波乱の年末年始
イタリアの年末年始は、何かと騒がしかった。各地のアウトストラーダでは、帰省渋滞が発生した。これは、「初日の出暴走がないだけ、まし」としよう。
いっぽう本当に困ったのは、一般市民による新年祝いの爆竹である。昨年の大晦日もイタリア全国で1人が死亡、473人が重軽傷を負った。
毎年12月に入ると警察が「不正な爆竹は買わないようにしよう」キャンペーンを展開し、一部地域では学校で指導が行われるにもかかわらず、あいかわらず事故が後を絶たない。
かたやナポリでは、日本でも報道されているように、ゴミ行政の混乱から収集がストップした。そのため街に大量のゴミが溢れ、大混乱が巻き起こった。またトリノでは、2007年12月に市内で起きた工場火災の犠牲者に弔意を表すため、花火やカウントダウン・イベントが急きょ中止された。
トリノ騒然
トリノといえば、名門カロッツェリアとして知られるベルトーネにとっても、波乱の年末年始だった。
ベルトーネの経営不振が表面化したのは2005年である。引き金は、「オペル」をはじめとするメーカー委託生産車種の相次ぐ生産打ち切りだった。最後の頼みの綱だった「アルファ・ロメオGT」の委託生産でさえ、経営改革を進めるフィアットから契約更新をストップされてしまった。
そのため会社は、従業員の大量解雇を発表。続く2006年には、敏腕スタイリング・ディレクターだったロベルト・ピアッティが独立してしまった。2007年に入ると、ベルトーネの労働争議は激しさを増していった。
そこで会社は、従業員1300人の失業手当を12月31日まで延長支給することで、当面の決着を図った。またそれに前後して、故ヌッチオ・ベルトーネの次女バルバラ(40歳)を社長に抜擢し、経営体制の一新を図ろうとした。
しかしベルトーネ問題は1社の問題にとどまらず、次第にトリノ全体の関心事となっていった。
たとえば7月5日、新型「フィアット500」発表会という晴れの場でも、ジャーナリストからベルトーネ問題について質問が出た。それに対して、フィアットのマルネキオンネ社長は、「同じ産業として憂慮する使命は認識しているが、今のところ(フィアットとベルトーネの関係については)何も変化はない」と答えるにとどまった。その間にも、労働者によるデモが、たびたびニュースで伝えられた。
ようやく12月末、同じトリノの資本家ドメニコ・レヴィーリオがベルトーネの救済に乗り出すことを表明、事態は沈静化すると思われた。
ところが年を跨いで2008年1月8日に、さらなる波乱が待ち構えていた。
ヌッチオの未亡人であるリッリ会長が、持ち株比率や経営方針に関する意見の相違から、実の娘のバルバラ社長を突如解任してしまったのだ。
トリノ郊外グメリアスコ、ヌッチオ・ベルトーネ通り2番地の前途は、いまだ見えていない。なお、ベルトーネのオフィシャルサイトも、新年から閉鎖されている。
マツケンを笑うな
もちろんベルトーネ内部も、新たな活路を模索しなかったわけではない。たとえば昨年2007年は、キャンピングカーの生産で一時的な危機を凌ぐプランが検討された。
また年の後半には、すでにイタリア南部で始まっている中国・奇瑞製SUVをベルトーネで委託生産する話も浮上したが、こちらも今日まで最終決定には至っていない。
それにしても、過去に「ランボルギーニ・ミウラ」や「カウンタック」「ランチア・ストラトス」といった名作を世に送り出し、ジョルジェット・ジウジアーロやマルチェッロ・ガンディーニを輩出した名門が、このようなプロダクトで糊口を凌ぐのは何とも複雑な心境になる。
しかしイタリアのカロッツェリア界を見わたせば、70年代のオイルショック以降、警察用特殊車両や現金輸送車、そして電気自動車の生産をしていた会社が数々ある。だから、たとえベルトーネがしばらくの間どんな道で再生を図ろうと、笑わず温かく見守ろうと思う。それこそが名門への、ボクたちが送れるエールであろう。
二枚目俳優・松平健も、46歳にして「マツケンサンバ」で見事に蘇ったではないか。
(文と写真=大矢アキオ)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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