第20回:日本OTAKUならマツダに乗れ!欧州版アテンザに「GINZA」仕様
2007.12.08 マッキナ あらモーダ!第20回:日本OTAKUならマツダに乗れ!欧州版アテンザに「GINZA」仕様
日本街に異変あり
パリ・オペラ座界隈の日本レストラン&ショップといえば、フランス出張した方なら一度はお世話になっているに違いない。
この秋のこと、まさにその界隈にあるネットカフェに赴いた。日本語PC完備が売りで、前から「これは便利だろうな」と思っていた店である。ところがお店の人いわく「実は今日で、お店を閉じるんです」と、偶然最後の日に立ち会ってしまったのだ。
初めて訪れた店だというのに何やら感傷的な気分にひたりながら、ボクは店のドアを閉めて歩き始めた。するとどうだ、近所にある日本レストランも閉店しているではないか。
思えば、パリにおける日系商業施設に陰りが差したのは2002年ごろだった気がする。その年、地区は違うがホテル・ニッコー・ド・パリがノボテルに変わったのだ。それに前後して、周辺にあった日本レストランも淘汰が進んだ。
ホテル・ニッコー自体は日本航空の問題だろう。だが、レストラン衰退のほうは日系企業の駐在員数が減り、残留した駐在員も円安でお金が使いづらくなくなったことに起因するものに違いない。
ただし、日本関係の商店全体が停滞しているかというと、そうでもない。あいかわらず繁盛しているばかりか、行列までできている和食店やラーメン店もある。ちょっと前までは見られなかった現象だ。
並んでいるのは若いフランス人の客が多い。明らかに日本のアニメを観て育った世代である。彼らにとって日本のカルチャーは、何でも大いなる関心の対象なのである。
大手AV&書店の「フナック」にあるMANGAフロアや、パリにもあるブックオフで日本の空気を楽しむ合間に、和食を食べにくる。彼らは最近増えてきた他のアジア人系による和食風レストランではなく、本当の日本人経営の店を口コミで知っていて、その中でもおいしい店に並ぶのである。
ボクが知るパリ在住フランス人エンジニアも、「うどんはサンタンヌ通りの国虎屋」と決めていて、メインディッシュの前にちゃんと日本のビールと枝豆を味わうのを習慣としている。今やパリの日本街は、新世代フランス人に支えられ始めたのである。
日本を知らずか、計画的犯行か
そうした空気をどこまで察したかは知らぬが、少し前マツダ・モーターヨーロッパが面白い特別仕様車を発売した。ずばり「GINZA」だ。
「マツダ6(日本名アテンザ)」の特別仕様である。ちなみに欧州で、デミオはマツダ2、アクセラはマツダ3、プレマシーはマツダ5の名前で販売されている。
マツダ6「GINZA」は、キセノンヘッドランプ、BOSEサウンドシステム、オートエアコンなど豪華装備を盛り込んだもので、いわゆるお買い得パック。価格は1万9999ユーロという、「ファッションセンターしまむら」「ドン・キホーテ」を彷彿とさせる戦略的数字である。最近の円安ゆえ単純に円換算すると約325万円にもなってしまう。しかし欧州の人の感覚を反映して1ユーロ100円として考えると、彼らには199万9千円といったところであろう。
広告には、「日本の繊細さの中に、喜び、快適さ、心地よい響き……」といったフレーズが並ぶ。ふんふん、なるほど。ところがクルマの上に目を移せば、「どら」を叩く人が描かれている。日本風情を通り越して、もはやアジアである。
たしかにマツダは2006年12月から2007年1月まで、銀座に「CX-7」用の期間限定ショールームを開設した。でもだからといって、欧州でこの広告を制作した代理店の人は、銀座の土を踏んだとは思えない。いや逆に、本物の銀座とイメージがかけ離れているのを知りつつ、フランスに増殖する日本OTAKU(この語も、しかるべき人の間では知名度が高まりつつある)を狙った計画的犯行なのか。興味が尽きない。
「個人負担になりますの……?」
蛇足ながら、そのパリのホテルで不思議な日本語に遭遇した。チェックインのときに渡された朝食クーポン券である。券面には、こう記されていた。
「ご朝食をルームサービス又はレストランでお取りになる場合は個人負担になりますの」
今や日本で聞かれなくなったその丁寧な言葉遣いに、とっさに「世界の旅」の兼高かおる女史が浮かんだ。
しかし翌朝落ち着いてよく読み返すと、「なりますの」に続く「で出発時にご精算ください」の文字が、とんでもない場所に書かれていた。世界中にチェーンをもつ国際級ホテルである。和文作成を手伝った人は最後の校正まで面倒見ろよ、と嘆いた。同時に、これだけ日本人宿泊客の多いホテルで誰も指摘しないんだナ、と思うとおかしくなってしまった。
「よっしゃ、ここはひとつ指摘してやろうか」とも悩んだが、次に泊まる日本人にもささやかなお笑いを残すため、何も言わずホテルを後にしたボクである。
(文・写真/大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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