マツダ・デミオ 13C-V(FF/CVT)【ブリーフテスト】
マツダ・デミオ 13C-V(FF/CVT) 2007.11.30 試乗記 ……148万6400円総合評価……★★★
コンセプトから一新された、3代目「マツダ・デミオ」。ラインナップのなかで、唯一「ミラーサイクルエンジン」を搭載するエコモデル「13C-V」を試した。
得たものと失ったもの
高速バス事故、牛肉偽装事件と、安さを追い求めたがゆえの事故や事件が、最近目立つ。
消費者のひとりとして、安いに越したことはないという意識はもちろんある。でも、限度があるとも考えるべきではないか。もし東京〜大阪間1000円のバスや、100g50円の牛肉が登場したら、人々は拍手で迎え入れるのだろうか。
ひとりひとりがもう少し中身を見据えたモノ選びを行い、売る側も安さ第一主義の姿勢はあらためていく。そんな考え方が、短期的にはともかく、長期的にはみんなを幸せにするんじゃないだろうか。
国産コンパクトカーのカテゴリーでは、ユーザーは価格と燃費をなにより重視し、メーカーはその声に応えたクルマ作りを続けている。
7月にモデルチェンジした「マツダ・デミオ」も例外ではない。プラットフォームをフォード製から自社開発に切り替えるなどして100kgの軽量化を実現し、エンジンにはミラーサイクルを投入することで好燃費を追求。そのうえで価格はほぼ据え置いた。
その結果、いくつかの部分で、「旧型のほうがよかったのでは?」と思える点が見つかってしまった。せっかく実用本位から脱却した、スタイリッシュなデザインにしたのだから、仕立てや走りも付加価値重視型にしてほしかった。
でもこれはマツダだけの責任ではない。ユーザーも少し意識を変えていく時期にきているのではないかという気がする。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「デミオ」は、1996年にデビューしたマツダのコンパクトカー。現行モデルは2007年7月5日にフルモデルチェンジされた3代目にあたる。
従来は利便性がセリングポイントだったが、世界戦略車として期待される新型はスタイリングを重視。ボディはコンパクトになり、約100kgの軽量化を実現した。代わりに荷室は約1割狭くなった(250リッター)。 パワーユニットは変わらず1.3リッターと1.5リッターの2本立てで、すべてDOHC。かつて「ユーノス800」で名を知られた「ミラーサイクルエンジン」が一部グレードに採用される。
4段ATと5段MTに加えて、マツダ車としてCVTを初採用(軽自動車除く)。FFのほか、4WDモデルもラインナップする。
(グレード概要)
試乗車は、吸気バルブを遅閉じして燃費を稼ぐ「ミラーサイクルエンジン」を搭載する「13C-V」。無段階変速のCVTと合わせて、ラインナップ中最高となる23km/リッターの低燃費(10・15モード)を実現する。もっともエコ志向の強いモデルである。
車重の軽さ(990kg)も、税法上のセリングポイントとなっている。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
かつてのマツダ車はスイッチやカラーが煩雑だったが、新型デミオはシンプル&クリーンで、個性もあり、好感が持てる。メーターまわりはコンパクトにまとめたうえで、速度計と回転計の白黒を反転させてアクセントをつけ、視認性を高めている。「ミラーサイクルメーター」のような装備を加えれば、エコカーであることをよりアピールできるだろう。
センターパネルもスッキリしていて、スイッチの配置は使いやすい。しかもエアコンのダイヤルのクリック感などは上質でさえある。助手席側では、グローブボックスの手前をポケットにした処理が目立つ。これも使いやすそうだ。質感も悪くないレベルにある。
(前席)……★★★
スクエアなキャビンを持っていた旧型の広々とした感じはないが、適度な囲まれ感のある新型の空間も悪くない。適度に遠いフロントウィンドウなど、圧迫を感じさせない工夫はされている。
ホワイトのファブリックはフレッシュでクール。室内を明るく広く見せてもくれる。シートサイズは小さめで、座面は硬くて厚み感がなく、長時間座っていると圧迫感を覚える。ただし背もたれは張りがあり、サポート性能も満足できた。
(後席)……★★
身長170cmの自分が前後に座ったとき、ひざの前には10cmぐらいの空間が残るし、頭がルーフに触れることもない。つまりスペースはこのクラスの平均以上だが、座面が水平、背もたれが垂直に近い「直角シート」で、座面の厚みがあるのにそれを生かせず、ちょこんと腰を下ろすような姿勢になってしまう。長時間過ごすには不向きだ。
中央席には3点式ベルトやヘッドレストがない安全装備も不満。しかもCX-7もそうだが、フロントにはあるドアトリムのシルバーのアクセントがリアでは省略されており、コストダウンに映ってしまう。
(荷室)……★★★
深さはかなりのレベルで、左右の出っ張りは少なく、奥行きもあるなど、容量そのものは満足できる。でもリアシートは折り畳みが背もたれを前に倒すだけで、フロアに大きな段差ができてしまう。テールゲートの内張りは下のパネルの一部だけなので、後席から振り返るとリアウィンドウ周囲の鉄板が、切れ端やスポット溶接あとを含めて丸見え。安っぽい印象を受けてしまう。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
吸気バルブを遅く閉じて燃焼後の膨張率を大きく取り、効率を高めたミラーサイクルエンジンは、裏を返せば圧縮率は低く、パワーやトルクでは不利になる。しかしデミオのそれは、不満のない加速を示してくれた。発進の瞬間だけは少し鈍さを感じるが、慣れが解決するレベルである。
ただし走行中は、先に回転が上がり、その後速度が追いついていくCVTの悪癖が出がちだ。さらに燃費対策なのか、アクセルを抜くとすぐにアイドリングに落ちる。そして加速に入るとまた回転だけが上がり、の繰り返しだ。
もっとも遮音性そのものは満足できるレベルにあり、100km/hはDレンジで2100rpmぐらいと低く抑えてくれるので、快適な巡航ができた。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
試乗車が履いていたタイヤは、乗って5分もすれば、あきらかな省燃費タイプだとわかる。アクセルを離しても速度がなかなか落ちない走行抵抗の低さはほめられるが、反面当たりが硬い。ダンパーの動きもしなやかさに欠けていて、ヒョコヒョコ、ボコボコした乗り心地だ。おまけに段差はガシッと伝えてくる。ボディの軽さがネガな結果を生み出している感じがする。高速道路でもこの硬さは取れないままだが、直進性は欧州車並みに良好だった。
ステアリングは中心付近に電動アシストっぽい渋さがあるのに、それを越えると軽量ボディのためかスカッと切れる。でもその後は一転してフロントが外へふくらみたがる。高速コーナーでは切れ味が落ち着くものの、低速コーナーはリズムがつかみにくい。リアのグリップは安定しているけれど、省燃費タイヤは接地感が薄く、フィールが伝わりにくい。
ブレーキは効きは文句なしだが、ペダルにもう少し剛性感が欲しい。重い代わりに芯が強く懐が深かった旧型の走りが、ちょっとだけなつかしかった。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2007年8月24日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:2859km
タイヤ:(前)175/65R14(後)同じ(いずれも、ヨコハマ ASPEC A349)
オプション装備:ドライビングコンフォートパッケージ+レーザーツーリングコンフォートパッケージ+アドバンストキーレスエントリー+カーテン&フロントサイドSRSエアバッグシステム(17万6400円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(7):山岳路(1)
テスト距離:333.9km
使用燃料:24.65リッター
参考燃費:13.55km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。