スズキ・スイフトスポーツ(FF/CVT)【試乗記】
趣味のクルマは譲れない 2012.02.12 試乗記 スズキ・スイフトスポーツ(FF/CVT)……183万2250円
「スイフトスポーツ」に追加されたCVT仕様に試乗。スポーツコンパクトに求める“ファン・トゥ・ドライブ”を感じることはできるのか?
安くていいクルマはない?
尊敬するジャーナリストの方から、「クルマとマンションの性能は、支払った代価に正当に比例する」というお話をうかがったことがある。つまりほかの商品に比べてクルマとマンションはボッタクリが少ないということだ。お金を払ったぶんだけいい物が手に入る。
逆に言うと、安くていいクルマというのは成り立たないということになる。ん? みなさんはこの意見、どう思われますか?
手元不如意な自分としては誠に遺憾ではあるけれど、この意見は認めざるを得ない。やっぱり高いクルマは、速くて静かで快適、全方位的に優れている。じゃあ安いクルマしか買えない自分は不幸かというと、そうでもない。「安くていいクルマ」を探すのは難しいけれど、「安いけれど面白いクルマ」はたくさんあるからだ。「安くてもカッコいいクルマ」だってパパッと何台かが思い浮かぶ。
何が言いたいかというと、クルマ好きは幸せだということです。お金がなくたって、好きなクルマやカッコいいクルマを選んで楽しく遊べる。何万円もする松阪牛のステーキもいいけど1串130円のモツ焼きが好きだとか、8000万円級の豪華クルーザーでトローリングするより1日2500円の手こぎボートでハゼを釣ったほうが楽しいとか、趣味の世界は豊かで奥深いのだ。一歩趣味の世界に踏み込めば、カネがある人だけがいい思いをできるわけじゃない。
で、2012年1月27日に“クルマ界のモツ焼き”とも言える「スズキ・スイフトスポーツ」にCVT仕様が加わった。先代は4段ATだったが、新型は7段MTモードを備えたCVTを採用している。
ドシンという突き上げには目をツブる
スイフトスポーツ専用の赤いステッチが施されたスポーツシートに収まり、これまた赤いステッチが入った専用ステアリングホイールを握る。136psの1.6リッター4気筒DOHCユニットは、2011年12月に先行発売されている6段MT仕様と変わらない。スターターボタンを押して始動する。
走りだしてすぐに感じるのは、ステアリングホイールから伝わる信頼感。ステアリングホイールを回すと、硬くて強いギアが精密にかみ合っている感触が伝わってくる。
走り始めて次に感じるのは、ドタンバタンするきつい乗り心地。特にリアタイヤからの突き上げが厳しく、後席乗員からは「ううっ」といううめき声が漏れた。ちなみにタイヤサイズは195/45R17で、試乗車はブリヂストンのポテンザRE050Aを装着していた。
でも、ここは目をツブろうと思う。スイフトスポーツに求めるのは速くて静かで快適な優等生の役割ではない。ファン・トゥ・ドライブの一点突破だ。通知表は、体育さえ5ならあとは問いません。
実際、きれいに流れる首都高速に上がっていくつかのコーナーをクリアすると、どっしりと構えたリアの安定性がシートを通じてお尻に伝わってくる。
そのコロンとしたスタイリングもあって、スイフトスポーツが弾むようにコーナーを駆けていくとイメージする方もいるだろうけれど、ちょっと違う。いや、かなり違う。
何があってもびくともしないと思わせるリアの安定感をベースに、オン・ザ・レールの脱出を味わうタイプだ。お尻がしっかりしているから、レスポンスに優れたステアリングホイールを楽しく操作できる。コーナリング時の横傾きは丁寧にチェックされていて、しかも前後のバランスがいいから不安感がない。
いわば、お釈迦(しゃか)様の手のひらで遊ばせてもらう楽しさで、ひらひらとどこへ飛んで行っちゃうかわからないスリリングなタイプではない。
市街地では気付かなかった弱点
リアサスペンションを専用設計したこと、フロントサスペンションやステアリングギアボックスも特別に補強したこと、ブレーキを大径化したこと、ホイールを軽量化したこと、専用のショックアブソーバー(モンロー製)を採用したことなどなど。運転して楽しいクルマにするという狙いが明確で、しかも施策がことごとくヒットしている。
だから試乗開始からしばらくは、「スイフトスポーツいいじゃん」「やっぱおれたちの味方」と感心していたけれど……。
市街地や高速巡航ではわからなかった「?」の形がはっきりとわかったのは、山道に入ってからだ。アクセルペダルの操作に対するエンジンの反応が、いまいち曖昧だ。ワンテンポ遅れるというほどではないけれど、右足とエンジンの間に薄紙が1枚はさまっている歯がゆさはつきまとう。
パドルシフトを操作してCVTの疑似的なギアを切り替えてエンジン回転数を上げても、どうもダイレクト感に欠ける。
低回転域から扱いやすいトルクを供給し、高回転まで素直に伸びる可変吸気システムを備える1.6リッター直4ユニットは、いい仕事をしていると思う。4000rpmぐらいからグッとパワーが盛り上がる感覚は、古いタイプだとわかっちゃいるけどやめられない。ゾクゾクするような音ではないけれど、乾いた排気音にも好感が持てる。
では何が問題かと言うと……。
帯に短し、たすきに長し
残念ながら、個人的にはCVT仕様を選ぶ手はないというのが結論だ。ビシッとした足まわり、活発なエンジン、ときたところで、CVTだけが浮いている。機動力野球を目指すチームのなかで、CVTひとりだけが走れない。CVTの肩を持つと、シャシーのレベルが高くなりすぎたからトランスミッションの遅れが目立つと言えるかもしれない。
ファンを極める趣味のクルマとしては、トランスミッションが物足りない。一方、プレミアムコンパクトとして普通にいいクルマを標榜(ひょうぼう)するには乗り心地とノイズが問題だ。帯に短し、たすきに長し……。
これが普通に乗るクルマだったら目をツブってもいい。でもスイフトスポーツは、エバろうとかモテようとか目立とうとかいうクルマではなく、趣味のクルマだ。ここは譲れない。
さすがにクルマ趣味のみなさんはわかっているようで、先代スイフトスポーツの5段MT:4段ATの比率が7:3だったという。新型も、6段MTなら文句なしでしょう。
それにしても、CVTは惜しい。フォルクスワーゲンのDSGがあったら……、というのは言わない約束でしょうが。
(文=サトータケシ/写真=小河原認)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2026.3.20 民生用電気自動車のパイオニアである「日産リーフ」が3代目へとフルモデルチェンジ。シャシーや電池、モーターなどすべての要素を刷新し、もはやスペック上は何の不安もない水準にまで進化している。360km余りのドライブで実際のところを確かめた。
-
モト・グッツィV7スポルト(6MT)【レビュー】 2026.3.18 イタリアの名門、モト・グッツィのマシンのなかでも、特に歴史を感じさせるのがロードスポーツの「V7」だ。ファンに支持される味わい深さはそのままに、よりスポーティーにも楽しめるようになった最新型の実力を、上級グレード「V7スポルト」に試乗して確かめた。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)/RAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】 2026.3.17 「トヨタRAV4」が6代目へと進化。パワートレインやシャシーの進化を図ったほか、新たな開発環境を採用してクルマづくりのあり方から変えようとした意欲作である。ハイブリッドの「Z」と「アドベンチャー」を試す。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】 2026.3.14 英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。
-
プジョーE-3008 GTアルカンターラパッケージ(FWD)【試乗記】 2026.3.11 「プジョー3008」の電気自動車版、その名も「E-3008」が日本に上陸。新しいプラットフォームに未来感あふれるボディーをかぶせた意欲作だが、その乗り味はこれまでのプジョーとは明らかに違う。ステランティスのような大所帯で個性を発揮するのは大変だ。
-
NEW
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス” +エアロパフォーマンスパッケージ(前編)
2026.3.22ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバル/STIでクルマの走りを鍛えてきた辰己英治氏が今回試乗するのは、トヨタの手になる4WDスポーツ「GRヤリス」だ。モータースポーツへの投入を目的に開発され、今も進化を続けるホットな一台を、ミスター・スバルがチェックする! -
BMW i5 eDrive35LエクスクルーシブMスポーツ(RWD)【試乗記】
2026.3.21試乗記BMWの「5シリーズ ロング」は知る人ぞ知る(地味な)モデルだが、実はエンジン車のほかに電気自動車(BEV)版の「i5 eDrive35L」も用意されている。まさに隙間産業的にラインナップを補完する、なんともニッチな大型セダンの仕上がりをリポートする。 -
軽商用BEVの切り札「ダイハツe-アトレー」に試乗! 街の小さな働き者のBEVシフトを考える
2026.3.20デイリーコラム軽商用車界の大御所ダイハツから、いよいよ電気自動車(BEV)の「e-ハイゼット カーゴ/e-アトレー」が登場! スズキやトヨタにも供給される軽商用BEVの切り札は、どれほどの実力を秘めているのか? “働く軽”に慣れ親しんだ編集部員が、その可能性に触れた。 -
アルファ・ロメオ・ジュニア イブリダ プレミアム(FF/6AT)
2026.3.20JAIA輸入車試乗会2026アルファ・ロメオのエントリーモデルと位置づけられる、コンパクトSUV「ジュニア」。ステランティスには、主要メカニズムを共有する兄弟車がいくつも存在するが、このクルマならではの持ち味とは? 試乗したwebCGスタッフのリポート。 -
第288回:自称詩人は中古車で自由を表現する? 『自然は君に何を語るのか』
2026.3.20読んでますカー、観てますカー「月刊ホン・サンス」第5弾は『自然は君に何を語るのか』。恋人の両親に初めて会う自称詩人は、気まずい空気の中で次第に感情を抑制できなくなっていく。「キア・プライド」が小道具としていい味! -
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】
2026.3.20試乗記民生用電気自動車のパイオニアである「日産リーフ」が3代目へとフルモデルチェンジ。シャシーや電池、モーターなどすべての要素を刷新し、もはやスペック上は何の不安もない水準にまで進化している。360km余りのドライブで実際のところを確かめた。































