トヨタ・ランドクルーザー AX“Gセレクション”(4WD/5AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ランドクルーザー AX“Gセレクション”(4WD/5AT) 2007.11.20 試乗記 ……632万5050円総合評価……★★★★
およそ9年ぶりのフルモデルチェンジとなったトヨタの本格クロスカントリーモデル「ランクル」。新装備を備え、ひとまわり大きくなったニューモデルに試乗した。
桃源郷
「このダンナ感がいいんだよね」というスタッフのひとことから、4人の男が乗った新型「トヨタ・ランドクルーザー」通称ランクルの車内は「ダンナ論」でしばし盛り上がってしまった。
ダンナ。それは昨今の雑誌でカッコよく描かれているオヤジやパパとは違う。仕事を終えて家に帰り、ナイター中継見ながらビールで晩酌しているようなオジサン。映画『三丁目の夕日』のシーンみたいだけれど、ある程度以上の年齢の、ふだんオヤジやパパを演じている日本人にとって、心の底から気持ちいいと思うのは、実はこういう瞬間であるはずだ。
ランクルでの巡航はそんな、くつろぎのひとときにあふれていた。以前の試乗記にもあるように、このクルマの悪路走破性は世界最高峰にあるといっていい。それでありながら舗装路では最上の快適性。いやさらに一歩踏み込んで、乗り手の身も心も解きほぐしてくれる。
かつてはおおらかな乗り物の代名詞だったSUVも、最近はヨーロッパのプレミアムブランドの手で、エモーショナルでスポーティな乗り物に姿を変えつつある。それが世界の潮流なのかと、自分を合わせようとしてきた。だからこそランクルに乗って、家に戻ったような気持ちになれたのだろう。カッコつけられるのはインポートモノかもしれないが、ホッとできるのはこちらだと。
平和なニッポンのダンナがそう思ってしまうのだから、止まったら命を落とすような過酷な状況では、最強の信頼性に裏打ちされた極上の快適性が桃源郷に思えるはず。アフリカからシベリアまで、世界中の荒野でランクルが愛される理由が、少しだけわかったような気がした。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
本格クロスカントリーモデルのランクル。先代の「100シリーズ」は1998年から販売され、今回およそ9年ぶりのフルモデルチェンジとなった。
高級SUV市場で人気の車種が、こぞって高いオンロード性能を謳うなか、かたくなにオフロード性能にこだわる同車。「The King of 4WD」をテーマに、今回のモデルチェンジでもオフロード走行性能の向上を一番に押し出した。
2850mmというホイールベースはそのままに、全長×全幅×全高=4950(+60)×1970(+30)×1880(+10)mmと、ディメンションは従来型よりひとまわり大ぶりになった(カッコ内は先代モデル)。
4.7リッターV8エンジン「2UZ-FE」ユニットは従来と同型ながらも、可変バルブタイミング機構VVT-iを備えたことで、最高出力は従来比53ps上乗せされた288psを発生。最大トルクは45.7kgmとなる。トランスミッションは従来同様、5段のオートマチックだが、マニュアルモード付きと新しくされた。
フルタイム4WDシステムの前後駆動力配分には、トルセン式のLSDが用いられた。通常は前40:後60だが、旋回時やスリップ時などに、トラクション確保に最適な駆動力を各輪に与える。
(グレード概要)
グレードは、ベースとなる「AX」と装備が充実した「AX“Gセレクション”」の2種類。
あらゆる路面状況に対応する「マルチテレインABS」や、走行安定性確保の「アクティブトラクションコントロール」、坂道発進を助ける「ヒルスタートアシストコントロール」などが備わる。また注目の機能は、世界初となる「クロールコントロール」。これは、岩石路や泥濘路など微妙な速度調整が必要な時に、エンジンとブレーキを自動制御し、上り下りを問わずに1〜5km/hを維持して走行する仕組み。
上級グレード「Gセレクション」には、前後スタビライザーの作動をコントロールする「KDDS(Kinetic Dynamic Suspension System)」が付与される。これは走行状況や路面状況に応じ、油圧で作動を制御するもので、オンロードではロール剛性を高めつつ、オフロードでは大きなホイールストロークが確保できる。また車速に応じてステアリングのギア比が変化するVGRSも標準装備する。
さらに快適装備としては、前席だけでなく、2列目シートの左右まで独立してコントロールできる4ゾーンのオートエアコンが標準装備。上級グレードには、2列目シートにもシートヒーターが備わる。
盗難件数が多いことでも有名な同車には、イモビライザーはもちろん、レッカーでの持ち去りに対応する車両の傾斜センサー、ドアのこじ開けや窓からの侵入を探知するセンサーなども備わる。
【車内と荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
インパネの仕上げはトヨタらしく緻密なれど、造形はランクルらしくシンプルでタフ。カーボン調センターパネル、つや消し木目調コンソールなどマテリアルは多彩だが、国産車高価格車にありがちな煩雑さはない。淡いブルーのメーター照明を含め、むしろ落ち着いた雰囲気で上質感がある。スイッチ類も触感にまでこだわっている。快適装備は最上レベルにあるが、レバー式パーキングブレーキをはじめ操作系はオーソドックスで、室内照明は白熱灯ですませている。容易に修理交換ができることを第一に考えたからだろう。他の多くのトヨタ車とも、ヨーロピアンプレミアムSUVとも違う、ランクルならではの思想をこういう部分から感じ取ることができる。
(前席)……★★★★★
フロアもシートも並みのSUVより一段高い。インパネの奥行きが薄いのでウインドスクリーンとの距離は短く、将棋ができそうなほど幅広いセンターコンソールのためにドアの窓も近い。キャビンの隅に座る感じだ。シートは硬すぎず柔らかすぎず、厚みや張りもあって文句なし。ラグジュアリーセダン顔負けの安楽さだが、握れるほど巨大なドアハンドルや高い位置からの見下ろし視界は、それらとは違うスケールの大きさを体感させてくれる。狭い日本で乗るのがもうしわけないと思うほどだ。
(2列目)……★★★★
フロアは平らだが高め。それに対してシート高はそれほどでもなく、ラウンジやリビングを思わせる姿勢になる。前席より平板で厚みはなく、角度も控えめ。長時間乗っているとやや腰に負担がくる。もう少し高くしてもいいと思うが、仕向け地の事情などで、意図的に前席との差を作らなかったのかもしれない。一方広さは圧倒的で、いちばん後ろにスライドさせると、身長170cmの自分の場合ひざの前には30cmほどの空間が残り、足がラクに組める。幅も広く、前席同様窓際に座るので、4人で乗ると人間の距離がかなり離れ、車内にいる感じがしない。このゆったりした環境は確実に疲労を軽減する。左右独立エアコンなど装備は充実するが、一方でピラーについた頑丈なアシストグリップはランクルならでは。乗り心地はフロントより上下動が多くなるが、不快というほどではない。折り畳みは4:2:4の3分割で、背もたれを倒したあと全体を跳ね上げる。ワンタッチ操作なので便利だ。
(3列目)……★★
完全な補助席。2列目を前にスライドさせれば足は入るが、床と座面の差があまりなく、ヒザを抱えるような姿勢を取らされる。座面や背もたれは短く、頭上空間もギリギリだった。より小さなサイズのミニバンのほうが、イスとしての機能は上だ。ただし中央席にも3点式ベルトやヘッドレストが用意されるのは、いい意味で国産車らしくない。この点からもランクルの独自の立ち位置を実感する。折り畳みは3アクションだが操作は軽い。
(荷室)……★★★★
リアゲートは上下2分割。下側が短いので、大物以外の荷物は上だけ開ければ取り出せる。一方で下は、荷物のストッパーやベンチなどの役目をはたしてくれる。外観から想像するよりフロアは低く、定員乗車での空間は限られるものの、逆に2、3列目を両方畳んだ際には奥行き1685mmと、小柄な人なら仮眠ができるスペースが得られる。3列目シートが薄くきれいに垂直に畳めることもユーティリティに貢献するだろう。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
4.7リッターV8というスペックは旧型と同じだが、パワー、トルクともにアップしている。おかげで2.5トン近いボディをあらゆる場面で不満なく加速させてくれる。しかもクルージングではあっけないほど静か。それでいて高回転まで回してもガサついたりせず、むしろ心地いいサウンドを奏でる。なおかつアクセルペダルにはエンジンの鼓動が控えめに伝えられ、力強い印象を強調するという日本車らしからぬ演出も見られる。
ATのマナーに文句のつけようはなく、5段でも全然不満にならない。ただしペースを上げようと右足に力を入れると、メーター内の瞬間燃費計がすぐに5km/リッターを割り込む。この図体ではしかたないとはいえ、経済性はあまり期待できなさそうだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
乗り心地はかなりマイルド。街なかではタイヤの重さや、ラダーフレームがボディと別にブルブル震える様子が伝わるが、ダイレクトなショックはいかなる場面でもすべて遮断する。そして速度を上げると前述の気になる点が消え、えもいわれぬ心地よさだけを届けてくれる。高速道路での舵の座りはいまひとつで、良くも悪くも昔のランクルを思い出す。律儀にまっすぐ走ろうと考えず、車線の中で収めるぐらいのおおらかな気持ちで接すれば、車体の大きさや重さを生かしたドッシリした安定性に身を委ねることができる。
山道では制動時や操舵時にその重さを痛感するものの、油圧式可変スタビライザーKDSSのおかげでロールは抑えられ、その後も自然なコーナリングを演じてくれる。今回はオフロード走行はしなかったが、以前試乗会で試した印象を簡単に書けば、フレーム剛性やサスペンションストローク、フルタイム式4WDシステムといった基本性能が高次元に磨き込まれており、だからこそクロールコントロールのような電子制御デバイスが活きるのだと痛感させられた。
(写真=峰昌宏(M)、荒川正幸(A))
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2007年10月4日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:3090km
タイヤ:(前)285/60R18(後)同じ(いずれも ダンロップAT23 グラントレック)
オプション装備:ボディカラー(ホワイトパールクリスタルシャイン/3万1500円)/プリクラッシュセーフティシステム+雨滴センサー付フロントオートワイパー+レーダークルーズコントロール(24万1500円)/クールボックス(6万8250円)/ワイドビューモニター(フロント&サイド)+音声ガイダンス付バックガイドモニター+HDDナビゲーションシステム+ETCユニット(53万1300円)/地上デジタルTVアンンテナ(52500円)
走行状態:市街地(1):高速道路(9)
テスト距離:389.1km
使用燃料:56.02リッター
参考燃費:6.95km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】 2026.3.5 スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】 2026.3.4 メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
NEW
その魅力はパリサロンを超えた? 大矢アキオの「レトロモビル2026」
2026.3.7画像・写真フランスで催されるヒストリックカーの祭典「レトロモビル」を大矢アキオが写真でリポート! 欧州の自動車史を飾る歴代の名車や、めったに見られない往年のコンセプトモデル、併催されたスーパーカーショーのきらびやかなラグジュアリーカーを一挙紹介する。 -
NEW
ホンダCB1000F SE(6MT)【レビュー】
2026.3.7試乗記ホンダから満を持して登場した、リッタークラスの4気筒マシン「CB1000F」。往年のCBをほうふつさせるスタイルと、モダンなパフォーマンスを併せ持つネイキッドスポーツは、先行するライバルを追い落とすことができるのか? ホンダ渾身(こんしん)の一台の実力に触れた。 -
実力検証! SUV向けプレミアムタイヤ「ブリヂストンALENZA LX200」を試す
2026.3.62026 Spring webCGタイヤセレクション<AD>目指したのは、人気車種となっているSUVとのベストマッチ。ブリヂストンが開発した新プレミアムタイヤ「ALENZA(アレンザ)LX200」は、どんな乗り味をもたらすのか? モータージャーナリスト石井昌道が試乗を通して確かめた。 -
BYDシーライオン6(FF)
2026.3.6JAIA輸入車試乗会2026“中国の新興ブランド”BYDにあこがれは抱かずとも、高コスパの評判が気になる人は多いだろう。では、日本に初導入されたプラグインハイブリッド車のデキは? 初めて触れたwebCGスタッフがリポートする。 -
実に3年半ぶりのカムバック 「ホンダCR-V」はなぜ日本で復活を果たしたのか?
2026.3.6デイリーコラム5代目の販売終了から3年半のブランクを経て、日本での販売が開始された6代目「ホンダCR-V」。世界的なホンダの基幹車種は、なぜこのタイミングで日本復活を果たしたのか? CR-Vを再販に至らしめたユーザーの声と、複雑なメーカーの事情をリポートする。 -
「ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド」発表会の会場から
2026.3.5画像・写真ジープブランドのコンパクトSUV「アベンジャー」に、4WDのハイブリッドバージョン「アベンジャー4xeハイブリッド」が追加された。その発表会(2026年3月5日開催)の場に展示された同モデルの外装・内装を写真で紹介する。





























