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第17回:欧州の商用車デザインに物申す!次は「ブス猫」顔もよろしく!?

2007.11.17 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第17回:欧州の商用車デザインに物申す! 次は「ブス猫」顔もよろしく!?

瞼に残る、アノ1台

東京モーターショーが先日閉幕したが、“働くクルマ”好きのボクは、結局「商用車」ブースにいる滞在時間がいちばん長かった気がする。バスの前から乗って後ろから降りたり、高いキャビンのステアリングを握らせてもらっているだけで嬉しい。取材など手につかなくなる。
そんな商用車ブースの中でも、とりわけ瞼に残る、記憶に焼きついているクルマがある。いすゞコーナーに展示されていた「初代エルフ」である。

実際の展示車は1964年だが、1959年のデビュー当時と同じ姿だ。
脇に待機していたいすゞデザインセンターの中尾博シニアスタッフによれば、車両は同社の所蔵品で、ボディカラーは当時の写真を参考にして忠実に再現したものという。「○○商店」などという店名を入れた場合に目立つ色、というのが、当時のカタログカラーの原則であったそうだ。

そういえば、ボクが子供の頃、こうしたトラックにはフリーハンドによる白い筆文字で、店や工場の名前が入っていたものである。同時にドア直後のピラーには、縦書きで「電(五四) 四四××」というふうに電話番号を、市外局番ではなく市内局番から書くのが慣わしであった。
それはともかく、ライト上を取り巻くプレスラインが、ちょうど粋な商店主さんや職人さんが鉢巻きをしているように見える。なんとも心温まる顔つきである。

商用車のお姉さんは、どこか演歌っぽいのが魅力。日野コーナーにて。
商用車のお姉さんは、どこか演歌っぽいのが魅力。日野コーナーにて。 拡大
1964年「いすゞエルフ」。エンジンは1991cc予備燃焼室式ディーゼル。
1964年「いすゞエルフ」。エンジンは1991cc予備燃焼室式ディーゼル。 拡大
3人乗りのキャビン。スペック上の最高速は85km/h。
3人乗りのキャビン。スペック上の最高速は85km/h。 拡大
いすゞデザインの中尾博さん。後方はコンセプト「FL-III」ディーゼル+インホイールモーターを想定。
いすゞデザインの中尾博さん。後方はコンセプト「FL-III」ディーゼル+インホイールモーターを想定。 拡大

伊仏の、なごみ系

イタリアでも時折、古いトラックやバンを目にする。さすがに今回のエルフのような60年代ものはイベント以外見ないが、70年代中盤から80年代のものは、現役として残っている確率は高い。

たとえば写真の赤いトラック「OM」は、19世紀末に起源を遡るイタリアでも最古のブランドである。草創期は乗用車を手がけていたが、1930年代にフィアット傘下に入り、徐々にトラック専業となっていった。トヨタ傘下に入った日野自動車のようなものである。1975年になると、今度は欧州トラックメーカー再編による新会社「イヴェコ」の1ブランドとなるが、以後もしばらく「OM」の名前は残った。

もうひとつ時折見かけて、思わず「おおッ」と声をあげてしまうトラックがある。アルファ・ロメオのトラック「AR8」だ。詳細は現在発売中の『UCG』12月号のボクの連載「古くても乗りアーモ」に譲るが、これこそビッショーネ印(竜に呑み込まれる子供のマーク)が付いた最後の商用車である。

フランスにも、なごみ系商用車が現存する。シトロエンの有名な「H(アッシュ)」トラック/バンこそさすがに見なくなったが、そのライバル車だったルノーのバン「エスタフェット」は、今でも時々プロヴァンス地方のマルシェなどで見ることができるのだ。
いずれも、冒頭のエルフ同様、丸型ライトで街行く人々になごみ効果を与えている。

OM製トラック。シエナ市街で。
OM製トラック。シエナ市街で。 拡大
アルファ・ロメオ「AR8」トラック。
アルファ・ロメオ「AR8」トラック。 拡大
「ルノー・エスタフェット」
「ルノー・エスタフェット」 拡大
2001年に登場した2代目「ルノー・トラフィック」。オペル版の姉妹車もあり。
2001年に登場した2代目「ルノー・トラフィック」。オペル版の姉妹車もあり。 拡大
「フィアット・ドゥカート」。これはモトGPのドゥカティ・チーム仕様。
「フィアット・ドゥカート」。これはモトGPのドゥカティ・チーム仕様。 拡大

そろそろ、いいんじゃないか

いっぽう最近の欧州製トラック/バンは、デザイン的に洗練されていても、精悍を通り越して“いかめしい”顔が増えてきた。変形ライトによる「吊り目」系である。
照明技術の進歩と、ライトを損傷することが少なくなった時代の賜物であろう。また「プジョー206」あたりを起源とする乗用車のフロントフェイスの流行も汲んでいる。

日本の商用車も、同様の傾向にあるといえよう。これは以前日本の自動車関係者から聞いた話だが、「ポテンシャルユーザーであるプロ運送業の方々が、パワフルでガッツ溢れるイメージの顔を好む傾向があるから」だという。シャンデリア付きの観光バスがなくならないのと同様、商用車の世界は乗用車とは違った意味でお客様志向なのである。

90年代初頭における「日産エスカルゴ」の後継となるようなモデルが見当たらないのも、このあたりに理由があるのだろう。もちろん、現在のフロントグリルは、衝突安全性や対歩行者安全性といったスペックでは、以前のものとは比べ物にならないほど進化していることは承知である。
しかし、とかく歩行者や乗用車の目から見て、トラックをはじめとする商用車は「怖い」「危ない」イメージがつきまとう。都市の景観上という観点からも、顔つきだけでも、もっと優しくできないものか。

環境に優しいクルマの開発が叫ばれている昨今、それを代弁するような顔つきも欲しい。ついでにいえば、優しい顔が増えれば、クルマ好きの子供ももう少し増えるかもしれない。

世界の商用車デザイナーの皆さん、既成概念を変えて、笑っちゃえるくらい楽しいお面のトラックやバンを作ってください、というのが今週のボクの切なる願いである。

少々暑苦しい顔をもつ「フィアット・ドブロ・カーゴ」。
少々暑苦しい顔をもつ「フィアット・ドブロ・カーゴ」。 拡大
昔も今も、なごみ系商用車の横綱、「シトロエンH(アッシュ)」。
昔も今も、なごみ系商用車の横綱、「シトロエンH(アッシュ)」。 拡大

ほのぼの「ブス顔猫」の写真集が売れる今こそ、流れを変えるチャンスだと思うのだが……。

(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ/FIAT/Renault)

大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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