第342回:俺は富士でなぜ「レクサスIS F」に感動したのか?
これはニッポン社会の変貌だ!!
2007.11.09
小沢コージの勢いまかせ!
第342回:俺は富士でなぜ「レクサスIS F」に感動したのか?これはニッポン社会の変貌だ!!
LSハイブリッドまでは不安だった
みんな「やればできるんじゃん!」と思ったんじゃないかなぁ、「レクサスIS F」。先日トヨタのお膝元、富士スピードウェイでレクサスの新ネタが公開され、試乗会が行われたわけだけど、自動車マスコミはそろって大絶賛でした。このクルマ。
というか考えてみればウケるのも当然で、なんせ“和製BMW3シリーズ”とでもいうべきプレミアムセダンの「IS」に、5リッターV8積んじゃってるんだからさ。まさしく“和製BMW M3 ”! で423psのコンパクトFRなんだからすごいに決まってる。
ただね。正直、今までのレクサスLSにしてもGSにしても前評判のわりに心の底から“素晴らしいっ”! って言い切れるデキじゃなかっただけに、どっか引っかかってた。不安になってた部分があったわけよ。
GSは新しい3.5リッターV6エンジンもハイブリッドシステムもすごかったけど「あのデザイン、そんなにキレイ?」って思ったのも事実だし、LSも同様に、4.6リッターV8にせよ8段ATにせよ凄かったけど「セルシオひっぱってるなぁ……」って感じたりもした。
だから今年、性能的にもコンセプト的にも世界に類のない「LSハイブリッド」が追加されて、やっと「レクサス、ホンキだぜ!」感が伝わってきたわけ。ようやっと2005年のブランド立ち上げ当初の「“最高”のデザインに、“最高”の品質に、“最高の”のサービスに……」って、担当役員さんの“最高ン連発”トークも納得できた。引っ張りに引っ張りまくったぶん、俺たちの感激もひとしおだった。
初めてレクサスができてよかったと思ったかも?
でね。さらにこのIS Fだけど、個人的にはLS600hより感激したなぁ。マジな話「レクサスブランドが日本で生まれてよかった〜」って思った。それはその423psっつぅ「日産GT-R」に次ぐ国内最強レベルのパワーもさることながら、その存在が今までのトヨタではありえない“高級”かつ“ヤバン”なものだったからだ。
たしかにLS600hもすごいけど、アレは“環境”に良い“高級”であって今までのトヨタ文脈からあまり外れてない。ところがISという小柄なプレミアムなセダンに、もしや300km/hキロ越える!? 性能を持たせたということは今までのトヨタではあり得ない、西洋的な“頭もいいけどケンカ(交渉)も上手い”パワーエリート的感覚であって、真剣にグローバルブランドを目指さなきゃあり得ないじゃイメージなんだよね。
こういっちゃなんだけどIS Fを買った人の中で「私は制限速度を完璧に守る」と公言する人がいたらお目にかかりたいわけで、IS Fは今までのクルマにはない“毒”を持ってる。マジメな顔して結構ヤバい。
おそらくこういうクルマを作る実力を、日本のカーメーカーにはとっくに持ってたんだけど既存の枠内では許されてなかった。ところが“レクサス”という世界基準の枠ができたことによって、このような企画が持ち上がり、あれよあれよと実際に作られてしまったという。そういう感じよ。まさにレクサスあればこその、IS F。
クルマはまさしく社会の写し絵であって、“あるべきクルマ像”の変化は“日本の社会の変貌”を意味する。今後の日本はますます変わる。このクルマを見て、そういう気がしましたね。
厚化粧がセクシー
と、話は長くなったけど、IS Fのどこが“高級ヤバン”かって、まずはスタイル。
もともとISは、レクサスの中でも一番プレーンで普通に美しいクルマだった。そこに思い切って、グラマラスな前後バンパーとフェンダーを付けて、かなりマッチョになっちゃってる。言わば“厚化粧した美人”的で、なかなかセクシー。濃い目のアイシャドーがタマらん! そんな感じでしょうか。ブスがやっちゃうと似合わないけどね。
リアの“ヤツメウナギ風”4本出しエグゾーストエンドをはじめ、BBSの手作業ポリッシュ加工19インチアルミホイールも凝ったデザインだし、前後異サイズで気合入ってる。インテリアも専用の本革ホワイト仕様はイケてるし、リアの2座式バケットシートもいい。グラスファイバーにアルミを蒸着させたパネルもなかなかだ。
音も素晴らしい。エンジニア曰く「気持ちのいい周波数だけを取り出し、しかも回転数が上がるに従い、エクグーストサウンド→インテークサウンド→メカニカルサウンドと3段階で変化するようにした」そうで、実際、クワーッ、クワーッと抜けてく感じがキモチいいんだな。
それからなんといっても走り。実は最初にスピードウェイを走った時、直線はたしかに速いし、あっという間に200km/h越えちゃうんで凄いとは思ったけど、それだけだった。コーナーが近づいてきて、これからイクって時に電子デバイスが働いちゃうから、イキそうでイケないわけですよ。正直、フラストレーションたまり気味。
「BMWでしょう」と言わないで!
ところがひとたびスポーツモード、つまり「F-スポーツトータルコントロールスイッチ」を3秒間押し続け、シフトをDレンジからMレンジにするとすごい。まさに一瞬で、ほぼMT感覚の423psのFRスポーツカーになる。
これでサーキットを走らせた日には、楽しくてしょうがないんだな。
速いのはもちろん、電子デバイスの作動が遅いから、適度なスピードでちゃんとフロントに荷重をかけ、ターンインし、クリップを抜けて徐々にアクセルを踏み増していくと、キレイにリアがドリフトアウトしていくのだ。うーん、忘れてたレーシングカート感覚!
細かく言うと、スポーツモード&Mレンジでステアリングギアレシオが速くなり、アクセルレスポンスも高まる。ついでに2速から8速までシフトがロックアップするから、かなりクイックでダイレクトな感覚が得られるのだ。
特に2速から3速、3速から4速などの低めのギアでシフトチェンジする時には、ガツン! とワザとらしいくらいの衝撃が入ってキモチいい〜。っていうか、チーフエンジニアの矢口さん曰く「ワザと(笑)」だそうで、たしかにレーシングカーのキモチよさがわかった人の設計だよね。
で、全体にクイックになった操縦性がどういう恩恵をもたらすかっていうと、特に高速ドリフトだ。実は俺、100km/h以上のドリフトって怖いからあまりやらないんだけど、IS Fで富士の100Rを走る時は結構楽しめた。それはダイレクトな分、安心感が高いから。ま、試乗車だったんで必要以上にはやらなかったけど、自分のだったらもっと思い切ってやれたはず。こんなの数年前、「ポルシェ911 GT3」で富士を走った時以来かもね。
ってなわけでこのIS Fは、まさに思惑通りの和製M3だ。それでいて街中では、M3よりもよっぽど刺激が少なく、ジェントリーに走れちゃうというレクサスっぽさも持つ。聞くところによると国内月30台じゃ割り当てが少なすぎて、今頼んでも来るのは再来年(!)。その人気の高さもうなづける。
でね。ここまでデキがいいとつい「基本コンセプトはBMWでしょう?」とヤッカミが出ちゃうわけで、そこは仕方ない。小沢コージ的には、真にほかにない世界オリジナルの高級感を打ち出すのはこれからの話で、まずレクサスからこういうクルマが登場したことがシンプルに喜ばしい。ニッポンの社会も変わったなぁ、と。そんな感じですよ。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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