第232回:パリ16区で「東京モノレール」と出会う
2012.02.17 マッキナ あらモーダ!第232回:パリ16区で「東京モノレール」と出会う
パリに引き止められた?
今月は月のほぼ半分をパリで過ごした。いや、過ごすことになった、というのが正解である。そもそも旅のスタートから波乱に満ちていた。イタリアを出発しようとした日にいきなりの雪に見舞われたのだ。
まずは家からバスターミナルまでたどり着くのにえらく難儀し、バスを1本乗り逃してしまった。そのおかげで、予約していた飛行機に乗れないというドミノ倒しが起こった。
幸いなことに航空会社から、ボクの乗るはずだった便が雪で欠航し、自動的に別便に振り替えたという旨のお知らせメールが入ってひと安心。だがその日のパリ到着は、かなり遅くなってしまった。
ハプニングは帰り便にも及んだ。今度はパリの空港でストが計画されたのだ。影響が及ばない便もあるとはいうものの、空港まで行って「やっぱり飛びませんでした」では困る。まして今回は、日頃よく使う、街に近いオルリー空港ではなく、ちょっと離れたシャルル・ドゴール空港である。往復運賃も時間もばかにならない。仕方がないので、それまで滞在していた15区の貸しアパルトマンに数日延泊することにした。
「パリがあなたを待っています」というのは、クイズ番組『アタック25』の名フレーズであるが、今回ばかりは「パリがあなたを引き止めています」となった。
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砲弾を持って現れた子供
さて、できた時間を何に充てるか? ということで思いついたのは、パリ在住の知人ディディエの家を訪問することだった。
彼は銀行の電算部門勤務だが、プライベートでは大のシトロエンファンである。以前本サイトの動画編の「シトロエン『トラクシオン・アヴァン』の運転教えます!」に愛車を引っ張り出して協力してくれたこともあった。
彼の家は16区。セーヌ川をはさんで、僕が滞在しているアパルトマンの反対側である。ましてや週末で道もすいている。したがって、何度かパリに来てようやく借り方を覚えたシェアリング自転車「ヴェリブ」で行こうと思った。しかし外に出ると、欧州を襲った寒波でスキー場のごとく寒い。急きょ地下鉄にした。
ディディエの家に着くと、ボクがコートを脱ぐか脱がないかのうちに、子供たちがいろいろな物を見せに持ってきた。ここの家の子供は、父親に似て古いものを集めるのが好きである。
まず長男で中学生3年生のクレモン(14歳)が、砲弾を両手に抱えてやってきた。第一次大戦のものという。そうかと思うと末っ子のブノワは、1970年代の大西洋客船の荷物用タグや、船内レストランのメニューを次々と見せてくれた。そのたびディディエの奥さんのナタリーが作っておいてくれた食事を始めるタイミングが後回しになる。
驚いたことに彼らは、パリおよび郊外で毎月何番めの週末に骨董(こっとう)市が開かれるかを、そらで言える。ナタリーは、「お父さんをまねてるんでしょうね」と、取りあえずは彼らの趣味を静観している。
なお、そうしたアンティークを購入するときの基準は「安くて良いもの」らしい。「スーパーマーケットか、君たちは!」と突っ込みを入れたくなったが、「ブランド物や高価な物を買えば幸せ」といった短絡的思考に陥らないトレーニングを子供時代からしておくのは良いことだろう。将来古いクルマライフを楽しむときも、きっと役立つに違いない。
思いもよらぬ骨董品!?
そんな“ショー”がひととおり終わり、ナタリーの作ったアントレのマッシュルーム入りパテが出てこようとしたときだ。ディディエが「そういえば、クレモンがもうひとつ面白いものを見つけてきてね」と切り出した。
そのクレモンがまもなく抱えてきた箱を見て、ボクは一瞬気を失いそうになった。なんとも時代がかったイラストに「モノレール」とカタカナで記されているではないか。浜松町−羽田空港を結ぶ東京モノレールを模したと思われるモーター駆動のプラモデルである。ナタリーには悪いが、またまた食事をちょっと待ってもらうことにした。
中を見せてもらうと、ほぼ組み立てられた車両が入っていた。彼らによると、発見したとき、すでにこの状態だったという。箱にHOゲーヂモデル(ゲージではないところが泣かせる)と書いてあるものの、硬派な鉄道模型のイメージからは遠く、ほのぼのとした出来だ。
組み立て説明図のほかに、フジミ模型の商品案内も入っている。広げて見ると戦前の「グロッサー・メルセデス」をはじめとする自動車のほか、艦船、モーターボート、戦車、果ては金閣寺、銀閣寺まで載っている。
さらに面白いことに、ベルリッツスクール・パリ校のレターヘッドのはいった書類も入っていた。日付は1965年11月26日だ。モノレールは岸恵子さんの時代にパリに来ていたことになる。ディディエは「輸入業者が説明図の翻訳を依頼したときの見積書のようだな」と推察する。
説明書こそ日本語オンリーだが、パッケージは英文併記である。あらゆる業界が輸出をして外貨を獲得せんとしていた時代の、日本の勢いが伝わってくる。
パリの空の下、さまようこと47年
東京モノレールに関していえば、いまでこそお土産をぶら下げた出張おじさんの足だが、ボクの幼少期は大変モダンな交通機関だった。特に東京郊外に住んでいたボクにとって夢の乗り物だった。羽田が首都圏唯一の国際空港で、海外旅行など一生に一度行ければいいや、と思っていた時代背景がその思いを後押しした。当時のボクは小学館『交通の図鑑』に載っていたモノレール解説図を、飽くことなく眺めていたものだ。
その後中学生になって行動の自由が拡大されると、かなり早いうちに同級生と東京モノレールを見に行った。そして最前列に陣取り、運転士目線の映像を8ミリカメラで撮ったものだ。ちなみに、白いビニール製ヘッドレストカバーに「Tradepia」という日商岩井の広告が入っていたのを、なぜかよく覚えている。
フジミ模型製モノレールに話を戻そう。5分割されたレールをつなげてもらうと、それなりに長くなった。
「スピードが出過ぎる場合は、レールの両端を本などで高くしてください」といった注意書きはご愛嬌(あいきょう)だ。
クレモンによるとモノレールは2011年秋、あるのみの市で見つけたものだという。
「高かっただろ?」というボクの質問に、クレモンはさらりと「5ユーロだった」と答えた。あの夢の乗り物が500円ちょっとで売られていたのか。そう思うとちょっぴり悲しくなった。
それでも47年前パリに漂着した挙げ句、のみの市に佇(たたず)んでいたボクの思い出を救ってくれたクレモンに、心の中で感謝したボクであった。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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