第14回:フェラーリなんて「マカデミアン・ナッツ」?日本未発売イタリア車の魅力
2007.10.28 マッキナ あらモーダ!第14回:フェラーリなんて「マカデミアン・ナッツ」? 日本未発売イタリア車の魅力
ビーフジャーキーなイタリア車
ボクは、本国で走り回っているイタリア車と日本に輸入されているイタリア車の違いを、土産物に当てはめて考えてしまう。
たとえば、アルファ・ロメオ、ランチア、フェラーリ、マセラティは、土産物における永遠の定番・マカデミアンナッツ・チョコとビーフジャーキーである。
その心は、「本国で売っているものが、すべて日本でも買える」だ。
もちろん日本市場に適合させるための仕様変更は承知である。また細かいグレードやスペックで見れば、日本に導入されていない車種はたくさんある。しかし、モデルラインで見れば、ほとんどが輸入されていることは事実だ。成田でも買えるお土産と同じなのである。
パンダ・アレッシィは斜塔ワイン
対して、「フィアット・パンダ」の特別仕様車「アレッシィ」は、土産でいえば、ピサの斜塔やエッフェル塔の型をしたワインである。
その心は、「実際に住んでいる人は、あまり口にしないもの」だ。
たしかにアレッシィは、イタリアンムード溢れていて、本国でもデザイン誌をはじめとするメディアで採り上げられてきた。もともとイタリアの工業デザインに惹かれてこの地に住んでしまったボクも、お金とガレージがあれば1台欲しい。
しかし実際はというと、ボクがイタリアで路上を走っているアレッシィを目撃したのは一度だけである。やはりこの国の一般人にとってパンダとは“激”ノーマル仕様で、乾いた雑巾をまた絞るがごとく使い倒すものなのだ。
珍味の数々
いっぽう、ボクが真のイタリア車と信じてやまないのは、ずばり「欧州では知られているものの、日本未導入のフィアット車」である。
今回執筆するにあたり、数えてみたら9車種あった。その中から以下にいくつか紹介しよう。
まずは昨2006年に登場した「ブラーヴォ」である。
「グランデプント」をオーブンにかけて溶かしたようなこのモデルにフィアットは「VWゴルフ・キラー」としての期待を込めている。旧ブラーヴォ/ブラーヴァ、そして先代にあたる「スティーロ」が果たせなかった夢だ。
とりあえず滑り出しは順調で、今年上半期の国内登録ではゴルフ約2万7000台に対し、約2万台のブラーヴォが売れた。
なおイタリアでCMソングは、ベテラン・ロック歌手ジャンナ・ナンニーニ(元F1ドライバー、アレッサンドロ・ナンニーニの姉)が歌っている。
いっぽう「クロマ」は、フィアットの最上級モデルである。
プラットウォームはGMとの提携時代に企画されたものだ。スタイリングは、ジウジアーロとフィアット・スタイリングセンターによる共同作業である。
面白いのは、ボディタイプがステーション・ワゴンのみということだ。欧州でこのサイズの売れ筋はワゴンとはいえ、なかなかユニークな決断である。目下イタリア市場では「VWパサート・ヴァリアント」と、クラスでトップ争いを展開している。
これらのクルマは、市場やユーザーの嗜好を見極めたうえで日本導入が見送られているのだろう。土産物ではなく、田舎に来ないと味わえない郷土の珍味といったところだ。
15年ものの完熟仕込みもあり
珍味というからには、「熟成系」もある。
先代プントは、グランデプントが登場したあとも、欧州では「プント・クラシック」というネーミングで継続生産・販売されている。
グランデプントはフィアットを危機から救ったが、いっぽうで「オレは前のプントで充分だよ」というユーザーが多いことを、メーカーは察知したのだろう。ちなみに近所のキオスクの看板娘ドナテッラも新車購入にあたり、「長いこと生産した先代プントのほうが、品質が落ち着いてるかも」と言っている。
この状況、古いエンスージアストなら、「ブルーバードUが発売されたあとも、510がしばらく生産されていたのに似ている」といえばイメージして頂けるだろう。
さらにエントリーモデルの「セイチェント」は、さながら「完熟仕込」といったところだ。1998年のデビューだが、ベースとなったのは1992年「チンクエチェント」だから、かれこれ15年も生き続けていることになる。
初代「パンダ」なきあと、今やフィアットにおける最長寿車だ。いずれは今年登場した「新チンクエチェント」にバトンタッチされるらしいが、いまだカタログに載り続けている。立派な新型チンクエチェントより2050ユーロも安いことから、今もイタリア人の間では引く手あまたである。事実、今年上半期にはシティカークラスで2万1000台あまりを売り、パンダに次ぐ2位の座を保った。
「未導入」に乗る方法
こうした未導入フィアット車に乗るいちばん手っ取り早い方法は、イタリアでレンタカーを借りることである。
もちろんレンタカー会社のラインナップはあくまでクラス別であって、車種を事前に選べないのはイタリアでも同じだ。
しかしフィアットはレンタカー会社向け大量納入にも気合を入れている。だから大きな営業所のカウンターで、「ありますか?」を意味する「Avete una Fiat ○○?(アヴェーテ・ウナ・フィアット車種名?) 」と言ってみよう。そうした日本未導入イタリア車に当たる確率はそれなりにある。
それでは全国のカルトイタリア車ファンの皆さん、ブォナ・フォルトゥーナ(グッドラック)!
(文=大矢アキオAkio Lorenzo OYA/写真=FIAT GROUP AUTOMOBILES、大矢アキオ)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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