日産スカイラインクーペ 370GT Type SP(FR/6MT)/370GT Type P(FR/5AT)【試乗記】
去勢される前に 2007.10.21 試乗記 日産スカイラインクーペ 370GT Type SP(FR/6MT)/370GT Type P(FR/5AT)……486万450円/446万1450円
「FRの2ドアクーペ」「大排気量エンジン」「6段MT」……日本車では稀有の存在、新型「スカイラインクーペ」を笹目二朗が試した。
納得の333ps
スカイラインは2007年でブランド誕生50周年を迎えた。現在のモデルは12世代目にあたり、スカGは「スカイラインクーペ」と呼ばれることになった。しかし、「370GT」とネームプレートにはGTが添付される。
秋の東京モーターショーではいよいよ「GT-R」が登場するので、スカイラインGTは系統としてあちらに引き継がれる予定なのだろうか。
V8エンジンが載ってもおかしくないボディは、全長4655mm、全幅1820mm、全高1390mmと堂々たるもの。北米市場向けのボディスタイリングは、なかなか国際感覚に富み、クーペを強調する呼び名のごとく、ルーフ後半からトランクやリアフェンダーに至る造形は、それにふさわしい流麗さをもつ。
長いフードの下に納まるV6エンジンは3.7リッターに排気量がアップされ、333ps/7000rpmと37.0kgm/5200rpmにチューンされる。ようやく280ps規制が外され、表示は不自然でなくなった。
VQ型エンジンは北米でも高く評価されており、ワーズ社が選ぶ「10ベストエンジン賞」を13年連続で受賞している。
名実ともに「脱ローカル」
このクルマは、北米では「インフィニティG37クーペ」の名で売られている。メルセデスやBMWなどと直接競合する立場にあり、現地でも評価はかなり高いらしい。そうした背景もふまえて乗ってみると、確かに欧州車におとらぬ手応えある走りを味わうことができる。
以前の日本車は、信頼性が高く壊れないことが自慢ではあったが、乗ってみると特に足まわりの華奢な印象は拭えず、タイヤサイズだけ奢っても“お里が知れる”内容であった。この370GTに関しては、そんなヤワな感触はなく、ドイツ車と対等に評価される段階に入ったと感じられる。
サスペンション関連にはアルミ合金パーツが多用されるが、ただ軽く仕上げるのに腐心するあまり、アームスパンの短い他の例も散見される。その点、このスカイラインはスパンも十分に長く採られているし、剛性も高く、華奢な感触はいっさいない。
4WSという後輪のステア機構は、以前よりはマシになったものの、いまだ実験段階の域をでてはいない。最終目標のビジョンをしっかり持たないまま、いたずらに動かしても違和感が残るだけだ。
この種の「後輪トー角変化を利用する安定装置」は、具体的な形として登場したものとして「ポルシェ928」のバイザッハアクスルまで逆のぼる。アームの位置関係とブッシュのコンプライアンスを利用し、パワーオフなど前後Gに対してトー・イン傾向に設定されていた。
4WSには課題が残る
日産はS130(フェアレディZ)などで横Gに対してトー・イン傾向となるように、サスメンバーのインシュレーターの剛性方向に左右逆角度をつけて同様の効果を得ていた。
しかし、それでは目に見える形で「ウリ」にはならないと、油圧装置で強引にアクスル全体を動かす作戦にでた。それがHICAS(ハイキャス)と呼ばれたものだ。効果はハッキリしていたが、さすがに雑な動きが嫌われ早々に姿を消した。
スカイラインクーペの4WSはそれから進化したものだが、動きに違和感をともなうことは否めない。最近のポルシェはPSMで各輪別々にブレーキを摘むことにより、ヨーを管理してスピンから救済するが、それとてガクッとデバイスの発動を感じる。いかにそれと判らせないように自然に繋げられるかが課題なのだ。この種のデバイスで作動感を感じないのは、現状では「プジョー407」くらいのものだろう。
いずれの方式を採るにせよ、左右輪一体は乱暴であり、やはり左右別々の動きでチューニングを巧くやることが肝要と思われる。
スカイラインクーペはエンジン1種、駆動方式はFRのみとシンプルだが、このクラスには珍しく6MTが設定されている。大排気量車のMTは独特の味があり、パワー感をダイレクトに味わえる妙味は捨てがたい。完全に去勢されてしまう前に、もう一度ドライビングの楽しみを思い出すにはうってつけの車種だ。
ともあれ、スカイラインがクーペでもこれだけの仕上がりを見せたことから、GT-Rはさらにと、期待は高まるばかりだ。
(文=笹目二朗/写真=荒川正幸)

笹目 二朗
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