日産スカイラインクーペ(プロトタイプ)【試乗記】
スカイラインクーペの実力 2007.10.03 試乗記 日産スカイラインクーペ(プロトタイプ)いまやアメリカが主要マーケットとなった日産スカイライン。セダンに続き、新しいクーペもすこしマッチョになった。同社のテストコースで試乗した。
369万6000円から447万3000円
赤いクーペがきれいに四輪をスライドさせてカーブを抜けていく。各コーナーの曲率やアップダウンはもちろん、路面の舗装、凸凹のひとつひとつまで頭に入っているのだろう。
「出ました! 猫にぎり!!」
ドライバーはそうおどけながら、完全にリラックスして、指先でつまんだステアリングホイールを操作している。
「VDC、切ってます?」
車両の挙動安定デバイスのオン/オフを質問して、ちょっと後悔した。
「もちろん、入ってます」
運転者は応えた。顔見知りの気安さからだろう、「となりに乗っているヒトにVDCを意識させるようじゃあ、テストドライバーは務まりませんよ」と笑いながら自慢した。
「日産スカイラインクーペ」のプレス試乗会は、北海道は女満別にある同社のテストコースで行われた。「皆さまに乗っていただくのは、あくまでプロトタイプですから」と、市販前の個体であることが強調される。
新しい3.7リッターV6(333ps、37.0kgm)を搭載したFRクーペの正式発表は、2007年10月2日。5段ATに加え、マニュアルギアボックスの設定が残されたのがうれしい。6スピード。
価格は、ATモデルが369万6000円から447万3000円、MT車が411万6000円から441万円となる。
2種類に大別される
スカイラインクーペはモデルチェンジによって、セダン同様、グッとグラマラスなボディが与えられた。2850mmのホイールベースは旧型と変わらないが、全長×全幅×全高=4655(+15)×1820(+5)×1390(-5)mmと、わずかに大きく、低いフォルムとなり、サイズの増加分はおしげなくスタイリングにまわされた。
先代モデルも、国産車のなかではピカイチにカッコいい、大人なクーペだと思っていたが、今回はより抑揚豊かで、量感が増した。主戦場たる北米市場の嗜好に応えたものだろうが、“過剰にマッチョ”の手前でうまくまとめられており、日本人にも理解しやすい。
フロントフェイスは、ベーシックとスポーティグレードで変えられる。従来通り18インチを履く前者はバンパー下部の開口部が2つ、19インチを標準とする後者は、アグレッシブに3つのインテークが開けられる。
試乗車には、スポーティグレードが用意された。19インチとスポーツチューンドサスペンションが組み合わされ、後輪も向きを変える「4輪アクティブステア」が標準で備わる。ブレーキは、前4、後2本の対向ピストンをもつアルミキャリパー。ATモデルでは、マグネシウム製パドルシフトがステアリングコラムから左右に生える。ハンドルをグルグル回しても位置が変わらないのがありがたい。
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ハイパワー、省燃費
太いサイドシルをまたいで運転席へ。そこからの視線は低めだけれど、フェンダーの峰がしっかり見えるのがいい。車幅を捉えやすい。リポーターの足が短いせいもあるが、フロントウィンドウは額の前に迫り気味。
室内を見まわすと、センターコンソール上部にディスプレイが置かれたのが新しい。手前には、ピアノタッチのスイッチ類が並ぶ。
スカイラインクーペの室内は、概して機能的だが、もう一歩、視覚的に整理できるのではないかと欲が出るインテリアだ。和紙のような表情をもつアルミパネルがいいアイディアだけに、ちょっと残念。
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全高が5mm低くなったことにともない、シートポジションは17mm下げられた。頭上の空間を稼ぐのに加え、動力面では、エンジン搭載位置を15mm低くしたのと併せて低重心化に貢献する。
VQ37VHRエンジンがニューモデルの目玉のひとつで、いわば日産版バルブトロニック。シリンダーに入る混合気の量を、バルブ手前のバタフライではなく、バルブそのもので調整する。吸気バルブの開閉タイミング、リフト量を自在にコントロールできるので、無駄なく燃焼させられる。出力を上げやすく、アクセル操作への反応もよくなる。燃費改善、排ガスの低エミッション化も見逃せない。「VVEL」(Variable Valve Event and Lift)と名づけられた。
新型は車重が1620から1660kgと、先代より約100kg重くなり、排気量は198cc大きくなっているが、それでもカタログ燃費はMT/AT=9.3/8.6km/リッターからMT/AT=9.4/8.9km/リッターに向上した。仮に排気量が同じなら、VVEL搭載ユニットは、1割ほど燃費がよくなるという。
スポーティなオートマ
幸か不幸か、テストドライバー氏の助手席に座る前に、自身の試乗ができた。
3.7リッターになったエンジンはさすがにトルキー、しかもよく回る。最高出力333ps/7000rpm、最大トルク37.0kgm/5200rpm。3.5リッターが280ps/6200rpm、37.0kgm/4800rpmだから、ずいぶん高回転型に思えるが、実際には2400rpmから最大トルクの90%を発生する使いやすいエンジンである。
5スピードのオートマチックは全体的にギア比が見直されたが、ことさらハイギアードではないので、力強い加速が味わえる。
シフターを右に倒すと「DS(スポーツモード)」。7750rpmまでひっぱってシフトすると、6200-5800-5400とタコメーターの針が落ちて、そのあとに息の長い加速が待っている。シフトダウン時に、必要とあればブリッピングして回転を合わせてくれるスポーティなオートマチックトランスミッションだ。
テストコースに出た当初は、指先が触る部分に革が貼られたパドルシフトを活用したが、「DS」モードのできがいいので、すぐに使わなくなる。
硬めの乗り心地
スカイラインクーペのスポーティグレードは−−セダンのそれを初めてテストしたときも驚いたが−−アシが硬い。
ご存じのように、日本車のなかで伝統をほこるスカイラインは、いまやアメリカをメインマーケットとしている。“アメリカ向け”というと、ソフトな、ときに「柔らかすぎる」と感じるサスペンションを想像しがちだが、ことインフィニティG37クーペ(スカイラインクーペ)といったスポーティモデルの場合、現地では、日本以上にハードなサスペンションが求められるという。“わかりやすい”ことが大切なのだ
今回は舗装のいいテストコースなのでニュークーペの足が好ましく思えたが、街なかではすこし硬すぎるかもわからない。
とはいえ4輪操舵システムとのマッチングは大変よくて、新型クーペはタイトな“曲がり”をモノともせず、俊敏に走る。タイトコーナーで少々頑張ってみても、ヨンゴー19インチのタイヤに何も起こらない。意を決してもうちょっとプッシュしてみると、245の後輪に対して細身の225を履く前輪が先に悲鳴を上げ、未熟なドライバーに警告してくれる。
あとでテストドライバーの人が、「お客さまにクルリンといっていただいては困りますから」と冗談めかして言ったが、ハイパフォーマンスな後輪駆動車のセッティングとして、必要な要件なのだろう。
巷に流れる「GTR」の噂の前に、いまひとつ影の薄いスカイラインクーペ。自分の試乗を終え、「“スポーツ”を前面に出したグレードより、むしろ18インチを装着したモデルのほうが賢い選択かもしれない。街なかで年輩の方が乗るのなら」と想像しながら、名手が運転するクーペの助手席へ。
そして、冒頭のシーン。
ドライバーは片手間に4輪を華麗に滑らせながら、
「新型はATモデルでもMTと同じ速度でカーブに入れますねェ」と説明してくれる。
速いわけである。さらに……
「このクルマで、サンニー(R32スカイラインGT-R)と同じくらいのパフォーマンスが出てます」とのこと!
うーむ。やっぱり買うならスポーツバージョンか!?
(webCGアオキ/写真=日産自動車)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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