第11回:シャンゼリゼに“ガラスの折り紙” が出現! シトロエンの新ショールームオープン
2007.10.06 マッキナ あらモーダ!第11回:シャンゼリゼに“ガラスの折り紙” が出現!シトロエンの新ショールームオープン
新ショールーム「C42」オープン
2007年9月29日、パリ・シャンゼリゼ通りにシトロエンの新しいショールームがお目見えした。その名は「C42」。Citroen の“C”と、シャンゼリゼ通り“42番地”にかけたものである。
シトロエンがシャンゼリゼに拠点を構えたのは、80年前の1927年にさかのぼる。その後も改装を重ね、80年代からはチェーン系レストランを併設するなどして、パリ市民や観光客から親しまれてきた。
今回は、2004年から3年もの歳月をかけ大改築の末のオープンである。
ショールーム最大の特徴は「ガラス」。間口12メートル、高さ30メートルという、今日のショールームでは決して広大とはいえない空間に、総面積650平方メートルにおよぶガラスを配置した。
設計を手がけたのは、フランス人建築家マニュエル・ゴートラン氏。およそ50人のコンペ参加者から選ばれた、1961年生まれの新鋭建築家である。
シャンゼリゼという世界の晴れ舞台に作品を展開することは、かなりのプレッシャーがあったに違いない。しかし彼女は、「創始者アンドレ・シトロエンは、建築にも大変造詣が深かった。これは建築家としてすばらしい挑戦になると思った」と笑顔で話す。
シャンゼリゼ通りは、クラシカルな場所でありながら、いつの時代にも新しいチャレンジの気風に溢れていた。したがって、今の時代を象徴すべき姿を目指したという。
ちなみに、シャンゼリゼ通りに並ぶ建物の中で最後に建設されたビルは1975年というから、「C42」は32年ぶりのニューフェイスというわけだ。
拡大
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ファサードに潜む“ダブル・シェブロン”
シャンゼリゼ通りから「C42」を見上げると、まず大胆なファサードに圧倒される。同社のシンボルである山型歯車“ダブル・シェブロン”のモチーフが、赤×白のガラスで構成されている。それも、平面的ではなく、前に迫り出してくる立体感ある構成になっている。
じっくり眺めていると、だまし絵を解き明かすように、あちらにもこちらにも“山型歯車”が浮かんでは見えてくるから不思議だ。
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大木がそびえる内部
内部には、地下から最上階まで、展示車両用の8基のターンテーブルが垂直に配置された。
ゴートラン氏は、「シトロエンのブランドストーリーを、1本の大木がそびえるように配置したかった」と説明した。未来への可能性を、雲の上まで届くような縦のラインで表現したかったのだそうだ。
現在はオープン記念として、1939年「トラクシオン・アヴァン」、1966年「2CV」、1969年「DS」(いずれも同社蔵)、現行モデルからは、「C6」「C4 ピカソ」、SUVの「Cクロッサー」、そして2台のコンセプトカー「Cメティス」、「Cエアプレイ」が展示されている。
展示車は今後3か月ごとに入れ替えられ、そのほかにもデザインや写真展など催し物も企画していくそうだ。
ガラスの折り紙
それにしても何と明るい内部だろう。パリの空はアンニュイな雲に覆われていることが多いが、この日はオープンを祝ったかのように太陽が顔を出した。
ファサードのガラスが生み出したプリズムは、店内の壁や床にも“ダブル・シェブロン”の影を繰り返し映し出した。
いっぽう、シャンゼリゼ通りと反対側に位置する窓には、擦りガラスが多く使用されているのだが、一部分だけ透明ガラスがはめ込まれた箇所があった。
ふと覗いてみて驚いた。なんと、「C42」の裏には、パリの古いアパートがひしめきあうように隣接していたのだ。表通りとは対照的な風情だ。
洗濯物を干す人、コーヒー片手に窓際に立つ人……まるで昔のフランス映画のワンシーンのようである。シトロエンがここに拠点を構えた時代にも、きっと同じような景色が広がっていたであろう。最上階のトラクシオン・アヴァンも、懐かしい風景を眺めるかのように佇んでいた。
ゴートラン氏は、こうした多様なガラスの使い方を「折り紙」という言葉で表現した。単純なモチーフを繰り返し遊びながら使うことで、過去から未来へ無限に広がる可能性を探ったのだという。
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真夜中の大工事
「でも、この膨大なガラス使いがクセものだったんです」と彼女は振り返る。なんと、ガラス1枚の重量は4〜6トン。ドイツのメーカーによって生産されたものだ。
しかし、日中人通りの多いシャンゼリゼに、これだけ巨大なガラスを運び込むことは、安全上不可能なことだった。さらに、一度に搬入して保管しておくスペースもなかった。
そこで、作業はすべて夜中に行われることになった。ガラスを積んだトラックは、早朝ドイツの工場を出発し、真夜中の1時半にシャンゼリゼに到着。それから人通りが始まる朝方まで、夜を徹して行われたそうだ。こうした作業は約5か月間続いたという。
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光を溢れさせた女性建築家
ゴートラン氏には、これまで劇場設計を手がけた経験がある。
「舞台の世界では、観客のいない真夜中になると、人形やセットが動き出すという話がありますね。私も『C42』という舞台で、主人公のクルマたちが勝手に動き出してしまうような、そんなワクワク感で夜中の作業をしていました」と語った。ガラスの魔術師は、光のない夜も働いていたのだった。
最後に「ゴートランさんのご出身は?」と訊ねると、「私はマルセイユ出身よ」との答えがかえってきた。なるほど、南仏生まれで太陽を知り尽くした彼女ならではの、光のテクニックというわけか。
シャンゼリゼに光を溢れさせた建築家は、太陽のようにチャーミングな微笑をしていた。
(文=大矢麻里Mari OYA/写真=大矢アキオAkio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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