第10回:あなたのクルマも1分で新型に
フィアットが前代未聞のサービス!? を発表!
2007.09.29
マッキナ あらモーダ!
第10回:あなたのクルマも1分で新型に、フィアットが前代未聞のサービス!? を発表!
真っ赤なお鼻の「フィアット500」
新型「フィアット500」のノーズに、赤いFIATマークが付いているのに気づいた方は多いと思う。「真っ赤なお鼻の〜、チンクエチェントさんは♪(字余り)」という替え歌を思いついたのは、ボクだけであろうか。
これは昨年10月末に発表された新ロゴマークである。
当時のフィアットブランド統括ディレクターのルカ・デメオ氏(2007年9月18日にフィアット・グループのチーフ・マーケティングオフィサーに就任した)によれば、「過去の歩んできた道と、未来への挑戦の印」と、ロゴ変更の意図を説明する。
実際の仕事は、ブランド&デザイン戦略コンサルト会社であるロビアント・アソチャーティ社とフィアット・スタイリングセンターの共同作業によるものだ。
1931年から68年にかけてフィアット車に用いられていたロゴをベースに、テクノロジー・イタリアン・デザイン・ダイナミズム・際立つ個性を表現した次元の盾形枠で囲ったものという。
新ロゴは、それが公表されたのと同月に発表された新型「ブラーヴォ」に、まずは第1号として装着された。
旧ロゴは、たった7年
しかし、ちょっと待ってほしい。それまで使われていた丸に青地のFIATマークは創業100年を記念して1999年に制定されたものだ。つまりたった7年しか使われなかったことになる。安倍政権より長かったが、自動車メーカーのロゴの中では妙に短命だった。
そのうえ、ここ数年躍起になってイタリア全国のディーラーを青丸FIATマークに変更してきたというのに、あの苦労はどうなっちゃうのだろうか。
イタリアのあるフィアットディーラー関係者は、「ショールームの改装は、メーカー側が設計費用の負担をし、施工業者を指示してくれる。また改装費用の貸付もしてくれる。でも、改装費用は基本的に各ディーラーの負担」と教えてくれた。
おかげで旧青丸ロゴへの改装が遅れたディーラーは、図らずも古い平行四辺形マークから、いきなり新赤ロゴに改装を始めている。逆に、先にがんばって青丸ロゴに変えた店は「なんなんだ」である。
かくもイタリア国内には、3種類くらいのロゴが混在している。なんともムダの多い話だ。
さらに、持株会社であるフィアット・グループ・オートモビルズは、これまた別のロゴを新たに作ってしまった。どうもドイツ系メーカーのようなブランド統一性、一貫性がない。
新ロゴ付け替えキット登場!
ところが2007年9月7日のことだ。フィアットはイタリア国内ディーラー向けに、とんでもないサービスを発表した。なんと、「新ロゴ付け替えキット」を有償で供給することにしたのである。
対象車は現行「パンダ」「グランデプント」そしてワンボックスの「イデア」だ。ウェブサイトはこう謳っている。
「フィアットは変わった。キミも換えたい?(中略)すべてのフィアット・グループ販売店で、新ロゴのキットが手に入るヨ。簡単な作業で交換可能。これでキミのクルマのロゴも新しくなる」
価格が書いてないので、さっそくディーラーに問い合わせてみた。すると前後用2つセットで税込35ユーロと教えてくれた。約5600円である。元のバッジがネジもなく、ただポコンとはめてあるだけなので、素人でも1分で交換できるという。
このニュース、さっと読み流せば、新ロゴを販売するだけのことだ。また、うがった見方をすれば、「ちょいちょいマークを変えちゃって、ゴメンね」というフィアットの後ろめたさの表れともとれる。
自動車史初、メーカーが薦める若返り指南
しかし、考えてみてほしい。たとえ些細なロゴひとつであろうと、以前売ったクルマを古く見えるようにしてしまうのが従来の自動車メーカーの常套手段である。
今回の新ロゴキットは、いわばその逆を行くメーカー自身による、簡単若返り指南だ。フィアットがそこまで考えたとは思えぬが、1950年代のアメリカ自動車産業が考案して以来、今日まで脈脈と続けられてきた計画的陳腐化への、ささやかな反逆でもある。エコ潮流にも相応しい。
前回の本欄で紹介したツヤ消しカラーに続く、自動車史初の試みではないか。
……と、崇高な空想を馳せてみたものの、ふと気がついたことがある。
イタリアの地方都市における典型的パンダユーザーである。スポーツ新聞「ガッツェッタ・デッロ・スポルト」のカルチョ!記事読みたさに、毎朝エディーコラ(新聞スタンド)まで飛ばしてゆくようなオヤジだ。
彼らに「新ロゴに交換できますヨ」と言っても、「要らねえな。速くなるわけじゃないし」と言われてしまうのがオチだろう。
実際、さきほどのディーラーにも、まだキットの注文は舞い込んでいないようだ。
「いっそのこと、少し前に一部自動車誌で話題を醸した商品にならい、「このロゴ張れば、燃費向上・性能向上」とか言って売ったらどうよ?」というのは、フィアットを憂うふりして実はお笑いネタにしているボクの勝手な思いつきである。
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、FIAT)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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