第8回:イタリア、世界一の「スマート王国」に? 激安レンタカーも(大矢アキオ)
2007.09.15 マッキナ あらモーダ!第8回:イタリア、世界一の「スマート王国」に? 激安レンタカーも(大矢アキオ)
世界一の「スマート天国」に
ここのところイタリアでは、「スマート・フォーツー」がブームともいえる売れ行きを示している。
今年6月に前年比47%増の3500台を売り上げ、1998年の初代発売以来の最高月販記録を更新した。続く7月には前年比94%増の3700台を販売、ふたたび記録を塗り替えたばかりか、市場シェアも1.7%まで上昇した。つまり、イタリアで売れたクルマの100台に1台以上はスマートということになる。
2007年1月〜7月の累計販売台数も、1万7600台(データはいずれもダイムラー・クライスラー発表)に達した。
以前からスマートにとってイタリアは、本国ドイツに次ぐ世界第2位の市場だったが、今年はいよいよそれを抜く可能性がでてきた。販売増加の理由はといえば、モデルチェンジ効果よりも、昨今の燃料高騰とイタリアで実施された新車買い替え奨励金政策の効果であろう。
その証拠に、エンスージアストを除いて、一般人の間でモデルチェンジしたのを知る人は極めて少ない。ディーラーで説明されて「ああ、そうなの」と気づく人のほうが多いに違いない。
ちなみにフィアットも、指をくわえているだけではないようだ。2人乗りもしくは2+2のシティコミューターを模索中であることは、欧州のさまざまなメディアが伝えるところである。
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イタリアならではの理由が
スマートが、イタリアで成功した理由をさぐってみよう。
まず大都市における駐車の容易さである。歴史が深い街は「掘れば遺跡が出てくる」状態だ。大規模なパーキングなど簡単に建設できない。そのため駐車場不足は慢性化している。
“毎日が争奪戦”状態のなかで、ちょっスペースがあればすぐに駐車できるのは、スマートの大きなメリットなのである。首都ローマでは、すでに5万台のスマートが走り回っているという。ボクの知り合いでミラノ在住のジャーナリスト、マリアキアラの家にもスマートがある。
「運転が簡単で、駐車もらくらく。そのうえ燃費は良好よ。街乗りには理想的なクルマね」と評価する。
独特のガレージ事情もスマートに味方している。中世都市のガレージは、もともと馬小屋だったところが多い。入口は、彼らのボディサイズに合わせて、高さはかなりあるものの、間口は狭い。さらに、内部の面積にも限界がある。
そこに押し込めるクルマの定番は、長年にわたり元祖「フィアット・チンクエチェント」だった。その代替車種の候補にあがる新型「フィアット・パンダ」や同じく新型「チンクエチェント」では、ちょっと大きすぎて車庫入れに難儀する。そこで、スマート・フォーツーとなるわけだ。
高い自動車普及率も背景にある。イタリアの人口1000人あたりの保有率は590台で、欧州平均の476台を大きく超えている。2人に1人以上がクルマを持っているわけだ。
郊外に行くバス便は年々減り、電車はストが日常茶飯事。貧弱な公共交通のかたわらで、いまや共働きが当たり前だ。子供の送り迎えも小学校まで義務である。そうしたなか、唯一頼れるのは自分のクルマなのだ。
当然、セカンドカーやサードカーの第一候補に小さなスマートがあがる。
もちろん、一家に1台のクルマとして購入する家もある。前述のマリアキアラの家も、彼女が小さいときからずっとボルボに乗ってきたが、5年前にスマートに替えた。
「アウトストラーダでトラックが横を通ると、横風を感じる。高速にはちょっと不向き」と指摘する。また「甥っ子が何人も家にやって来るときには、送り迎えができなくて不便」という。だが、「今のスマートが壊れたら、また迷わずスマートにする」というから、後悔はないようだ。
スマート活用の新ビジネスも
スマートを活用した、新ビジネスも始まっている。たとえば、「Sixtレンタカー」は、全ヨーロッパで展開している「1日5ユーロ〜レンタカー」の代表車種として、イタリアでもスマートを使っている。
まあ実際には、日によって料金が違ったり(たとえば9月14日から1日ミラノで借りるとして、ネット検索すると1日10ユーロだ)、100km以上だと追加料金が必要だったり、48時間前要予約だったり、はたまた車両清掃が別料金だったり、と諸条件はある。
だが安さの最大の秘密は、ボディサイドにデカデカと「5ユーロ〜」と書かれていることである。つまり「レンタカー会社の広告塔もやってくれ」というわけだ。おかげで、従来最安だった「ルノー・トゥインゴ」クラスが30ユーロしていたことからみると、かなりお得だ。
10年ほど前、日本では「あの人はメルセデスに乗っている」というキャッチコピーがあったが、「あの人は、激安レンタカーに乗っている」と指差されるのに耐えられる人なら、まったくもってオッケーである。イタリアに10年以上住んで「恥」という言葉を忘れたボクなどは、もはや結婚式や葬式にもこのクルマで参上できる度胸がある。
また、隣国フランスの大都市では、スマートにラッピング広告を貼り付けて走ると、お小遣いがもらえるシステムがある。「毎日どのエリアを何時間徘徊するか」といった審査があるが、選ばれれば月70〜300ユーロの収入が可能という。
毎月クルマのローンの支払い日が来るたび、払えるかヒヤヒヤしているボクである。イタリアにもこの制度が導入された暁には、ボクもスマートに乗り換え、たとえピザ屋のものであろうとトイレットペーパーのものであろうと広告を貼りまくり、支払いにあてられれば、と皮算用をしている。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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