スバル・インプレッサS-GT(4WD/4AT)【試乗記】
優等生の心配 2007.06.28 試乗記 スバル・インプレッサS-GT(4WD/4AT)……295万500円
5ドアハッチで登場した新型「スバル・インプレッサ」。2リッターのターボモデルに試乗。フットワークの良さは実感したが、快適さが重視されて気になることもあるという。
それにしても……
「ドライバーズカーからの脱却」。新型「スバル・インプレッサ」の開発陣から発せられたコメントの真意は、「ドライバーだけではなく、乗る人すべてが快適さを共有できるクルマにする」ということのようだ。
しかしそうしたメッセージを耳にして、少々ショックを受けた“スバリスト”もいるだろう。そもそも、スバル自らが“ラリーフィールド生まれのハンドリングマシン”といったキャラクターを売り物としてきたフシがあるのだから、いまさら急に“軌道修正”を謳われても、「にわかには納得しがたい!」という声があがるのも無理はない。
なかでも、「インプレッサ=WRX」という思考回路ができ上がっていた人にとっては、新型のバリエーション展開そのものが戸惑いを感じさせるはず。何しろ、これまでのモデル全体のイメージリーダーだったターボ付きエンジンを搭載するのは1グレードのみ。しかも、「S-GT」という名称を名乗るそのモデルが積む心臓の最高出力は「わずかに250psに過ぎない」のだ。
6段MTの設定はなく、ブレンボ製ブレーキや可変コントロール機能を備えたセンターデフなど、従来のWRXシリーズがイメージづくりの基盤としてきたアイテムの存在もナシ……、という具合だから、これまでのWRXシリーズのファンにとっては、「もはや自分たちは見放されてしまったのか!?」と、不安の念が募るのも無理はない。
ここでタネ明かしをしてしまえば、実はそうした人々への回答は、後に控えている新しいSTIバージョンがまかなうことになる。現在鋭意開発中のこちらのモデルが、いわばこれまでのWRXの後継シリーズというわけだ。
「それにしても……」と、それでもまだ何となく腑に落ちない人は多いはず。自分もそのひとり。ひとまずそうしたコンプレインの気持ちを飲み込みつつ、件の「S-GT」をテストドライブしてみた。
少々惜しい
テストできたのはAT仕様のみ。そのオートマが、もはや“旧態依然”の感がある4速タイプというのが、「ツッコミどころ」のひとつ。
スタートシーンでの力強さに文句はないが、2速へとアップシフトされる段階でのショックは大きめ。各ギア間のステップ比が大きくなりがちな4段仕様である影響に違いない。シフトパドルは用意されないが、そもそもシフトのたびに大きなエンジン回転数の変動が生じる4段ATでは、たとえそれが用意されていても、マニュアルでのシフト操作を積極的に行う気にはなりづらいはずだ。
1.4トンを下まわる重量に250ps、34.0kgmを発生するエンジンの組み合わせゆえ、アクセルペダルを深く踏み込めば、十二分に強力な加速が得られるのはいわずもがな。
ただし、7000rpmに設定されたレッドラインに向けての高回転域のパンチ感は、率直なところ「従来型ターボのユーザーを乗り換えさせるにはやや不足気味」だった。“実用ターボ”としてはやや過剰で、“スポーツ・ターボ”としては刺激に欠けた気味ではあるのが、惜しいところだ。
どうにも心配
一方、感動モノだったのは従来型を確実に凌ぐフットワークの接地感。特に新作サスペンションを用いた後輪側の接地性はすこぶる高く、路面の荒れたコーナーでガンガン追い込んでも、破綻の兆しすら示さない。グリップ感が失われない。
同時に、そうした走りの高性能ぶりを実現させつつ、際立つしなやかさを味わわせてくれる点を特筆をしたい。冒頭に掲げた「乗る人すべてに……」というフレーズを納得させる。
もっともそれで、やはりこれまでのWRXユーザーには、そんなフットワーク・テイストも「刺激が足りない……」と受け止められてしまう懸念はある。
テスト車は、オートマチックモデルで、MT仕様であればさらなる加速が得られたはず……といった点を考慮に入れても、新しいインプレッサターボには、もうすこし“演出”が必要だと思った。
新しいリアサスペンションの安定性をもってすれば、ステアリングのギア比をもうすこし高めて、よりシャープなハンドリング感覚を強調しても不安を感じさせないはずだ。加えて、高回転域にかけてのパワーの伸び切り感を増して、スポーツ派ドライバーの心をもっと巧みにくすぐる方法もあったろう。
運転視界がすっきりと開け、後席居住性は従来型を圧倒。しかも高度なフットワーク能力を備え、常にしなやかな乗り味と両立させた新型インプレッサ。たしかに優等生だ。
が、それだけに「優等生なんか欲しくない!」という人が大勢を占めたはずの従来型WRXユーザーをS-GTに引っ張ってくるのは至難の技。そこのところがどうにも心配になってしまう“新生”インプレッサ・ターボである。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎、webCG)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.12 トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
テスラ・モデルY Lプレミアム(4WD)【試乗記】 2026.8.10 日本でも好評を博す、テスラのSUVタイプの電気自動車「モデルY」。その6人乗り・ロングボディー仕様が「モデルY L」だ。実際に機能性や走りに触れてみると、決して「補助金頼み」とは言えない、同車の人気の理由が分かってきた。
-
アウディQ3 TFSI 110kWアドバンスト(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.8 アウディのミドルサイズSUV「Q3」の新型が日本に上陸。デザインやインターフェイスは新しくなっているが、さまざまな事情によってクルマとしての基本コンポーネンツは先代を踏襲しているのが3代目の実情だ。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。FWDのエントリーグレードを試す。
-
スズキDR-Z4SM(5MT)【レビュー】 2026.8.7 スズキ久々のスーパーモタードである「DR-Z4SM」に試乗! 最新の400cc級デュアルパーパスモデルをベースに、タイヤを17インチ化してオンロードでの機動性を突き詰めた一台は、今どき珍しいほどにアグレッシブで、強烈な個性を放つマシンに仕上がっていた。
-
NEW
目指すは究極の走りと官能性 「ランボルギーニ・レヴエルトSV」の核心をキーマンが語る
2026.8.15デイリーコラムランボルギーニが「レヴエルト」の進化モデル「レヴエルトSV」を発表。強力なV12エンジンとプラグインハイブリッドシステムを搭載したフラッグシップは、いかなる進化を遂げたのか? V12モデルのディレクターを務めるキーマンが、その核心を語った。 -
ボルボのフラッグシップ電気自動車「EX90」が上陸 軌道修正された電動化戦略の今を探る
2026.8.13デイリーコラムボルボのフラッグシップ電気自動車(BEV)「EX90」と「ES90」が日本に上陸。2030年までに完全BEVブランドになるという目標は軌道修正したが、2040年までに温室効果ガス排出ゼロ企業を目指す方針に変わりはない。ボルボの電動化戦略の今を探る。 -
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う
2026.8.13マッキナ あらモーダ!ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。 -
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?
2026.8.12デイリーコラム2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。 -
第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン―
2026.8.12カーデザイン曼荼羅日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、いまにわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。 -
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】
2026.8.12試乗記トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。


































