シボレー・コルベットクーペ(4AT)/コルベットコンバーチブル(4AT)【試乗記】
得たモノ、失ったモノ 2005.03.31 試乗記 シボレー・コルベットクーペ(4AT)/コルベットコンバーチブル(4AT) ……715万円/835万円 6代目となった「シボレー・コルベット」。自動車ジャーナリストの島下泰久は、進化したシャシーや電子制御によって、高い性能と快適性を両立するアメリカンスポーツに乗って……。 拡大 |
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彼らは本気だ
「シボレー・コルベット」といえば、説明不要なアメリカンスポーツの代名詞的な存在だが、“C6”のコードネームで呼ばれる新型は、そこから一歩前に踏み出し、世界基準のスポーツカーを目指した意欲作である。なにしろプレス向け試乗会では、商品概要の説明の際に、あのニュルブルクリンクでのテスト風景の映像が幾度も流されたほど。掛け声だけじゃない。彼らは本気なのだ。
そうした意気込みが端的に表れているのが外観である。先代C5のイメージを色濃く残すそれは、実は全長で100mm、全幅も10mm小型化されている。その一方で、ホイールベースは30mm伸ばされており、数世代ぶりにリトラクタブル式ヘッドライトを廃したフロント、切れ上がったリアともにオーバーハングがグッと短くなった。巧みなのは、それが見た目に「小さくなったなぁ」というネガな印象をもたらさないトコロ。むしろ筋肉質になって、迫力が増したという印象のほうが強い。
一方、機械的な部分に大きな変化はない。ハイドロフォーム・スチールのフレームに樹脂製ボディパネルを組み合わせたシャシーや、ギアボックスを後車軸手前に置く駆動系レイアウト、横置きリーフスプリングを用いた4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションといった基本は、先代からほぼ踏襲された。脱着可能なルーフパネルを持つクーペとソフトトップのコンバーチブル、2種類のボディを用意するのもこれまで通りだ。
エンジンは言うまでもなくV型8気筒、それもOHVである。その排気量は遂に6.0リッターに達し、最高出力404ps、最大トルク55.6mkgという怒濤の高出力を誇る。ギアボックスは6段MTも用意されるが、今回はクーペとコンバーチブル、いずれも4段AT仕様を試した。
やはりV8!
乗り込みには新たな儀式が必要となった。実質的な姉妹車となった「キャデラックXLR」と同じく、ドアは電磁式のスイッチで開き、エンジン始動はステアリングコラム脇のボタンで行なう。このコクピット、残念なのはデザインもクオリティも華やかさを欠くこと。先代より良くなったとはいえ、もうすこしそれらしい演出が考えられていてもいい。
まず乗ったのはコンバーチブル。トップを開け放って走り出した途端、その存在をもっとも強く主張してきたのは、やはりと言おうか、そのV8ユニットだった。前が空いたのを見計らって右足に力を込めると、トルクがドカンッと塊になって押し寄せてくる。そのときのドロドロというビートも、従来よりボリュームが小さくなった感はあるが、やはりいかにもソレらしい。
それでいてこのV8、回り方もなかなか鋭い。レブリミットの6500rpmまで澱みなく吹け上がる様は、“アメ車”のイメージを覆すほどだ。ATが4段ゆえにシフトアップ時の回転落ちは大きいが、そこは圧倒的なトルクが補ってくれる。
ニュルブルクリンク詣での成果
このエンジンを存分に唄わせることができるのは、シャシーのキャパシティの大きさのおかげだ。ノーズの反応は思いのほかシャープだし、それに対するリアの粘りも大したもの。標準装備のグッドイヤー製ランフラットタイヤは、すぐにスキール音を発するなど、さほどグリップ感のあるほうではないから、つまり高いボディ剛性と前後重量配分のよさが効いているのだろう。ニュルブルクリンク詣での成果も大きいはずだ。本国では高性能仕様である「Z51」用の大容量ブレーキも、ハードに踏んだ時のタッチは今イチながら、絶対的な制動力は期待を裏切らない。
先代に続いて用いられたマグネティックライドコントロールは、通常時の「TOUR」モードでもそれなりに引き締まった印象とはいえ、十分に快適と言える乗り心地をもたらす。ワインディングロードなどでは「SPORT」モードにすれば落ち着きがおおいに増すが、その一方でクルマとの一体感にいくばくかの物足りなさを覚えるのも、やはり先代と一緒である。
それには、芳しくないステアリングの手応えの影響も小さくなさそうだ。剛性感、ダイレクト感ともに平均点レベルのその感触は、まるでフツウのセダンのようで、とても味気ない。あとで試したクーペも、ボディのカッチリ感が確実に高くソリッドな印象が増してはいるものの、この辺りは基本的に変わらなかった。
そのステアリングフィールや高まった静粛性などが、優れた日常性に繋っている。一方、ポルシェやフェラーリといった世界基準のスポーツカーの先達にはある、普通に流しているときですらもたらされる昂揚感のようなものが今ひとつ希薄なのが、新型コルベットのもっとも残念なところである。ただし、カッ飛ばすような領域での“リアルスポーツカー度”が確実に濃くなったのも、また事実。それをどう解釈するかで、評価というか好みは大きく分かれそうだ。
(文=島下泰久/写真=峰昌宏/2005年3月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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