第273回:ウィッシュなんて知りません!?
新型ストリームに見る“上手な失恋ショックの癒し方”(小沢コージ)
2006.08.12
小沢コージの勢いまかせ!
第273回:ウィッシュなんて知りません!?新型ストリームに見る“上手な失恋ショックの癒し方”
■破格に乗り心地が良い
新型ホンダ・ストリームの試乗会に行って参りました。
率直に言って、完璧な出来であります。ホンダ得意の低床プラットフォームにより、スタイルよし、走りよし、使い勝手よしと三拍子そろってる。お値段も全体的に10万円ぐらい上がっちゃったけど、ベースエンジンの排気量が100ccアップし、なによりボディがプラットフォームから完全新設計になってることを考えると文句なし。国内専用車なんで安いくらい。
モノとして特に感動したのは走りかなぁ。とにかくこの手のミニバンとしては破格に乗り心地が良く、なおかつステアリングにキレがある。
さらに3列目シートの足元の広さ、具体的には角まできっちりフラットにして足の置き場を確保したのにも感心したし、唯一、不満を言えばアレか。バランス良くなって、確かに“シビックの拡大版”ではなくなったけど、いま一つインパクトが足りないスタイリングかな。
逆を言うとこの“前かがみクサビ型スタイル”は2列シートミニバンのエディックスをスマートにしたようでもあり、ホンダの新たなスタイルアイデンティをも感じられるんだけどさ。
とはいえ、実はオレが一番知りたかったのは新型ストリームを作った時のキモチだ。具体的には最強のライバル、トヨタ・ウィッシュに対して、あのショックをどう消化したのか。ほとんど初代ストリームの焼き直しであり、まるで後だしジャンケン!? とも言えるクルマがあんなにも売れ、今も月販ベスト10の常連に入っている事実をどう考えているのか。新型はどうやってウィッシュに対抗しようというのか。
なんか失恋をホジくり返すみたいでヤだったんだけど、筒井LPLに聞いてみました。一応ジャーナリストなんでね(笑)。
■決定的敗因がない――対ウィッシュ
小沢:ウィッシュのことなんですけど……
筒井:ウィッシュはまったく見てません。
小沢:えっ、ホントに?
筒井:敗因がわかりませんから。冷静にハードで言うと大きく負けているわけではなく、唯一わかりやすいのは女性的に見えるストリームに対し、ウィッシュの方が男性的に見えるってことくらいですか。走りも実用性もほとんど同等。全部でほんのちょっとずつウィッシュの方が良かったのかもしれませんが、それでも数値にして5ミリぐらいとか、そんなもんです。「営業力の差」だとか「カッコ」とかも言われるけど、結局のところこれぞという決定的敗因がない。
小沢:俺は心情的にもストリームの方を応援してましたよ。本来、創業者が勝つべきではないかって。
筒井:そこはもう考えないことにしました。もうリセットしましたよ。
小沢:なるほど。それはエライ。でも、具体的にまったく気にしなかったってことはないでしょう。ライバルなんだから。
筒井:もちろん技術進化分は見てます。ただし、スペックは比較しても、テイストは見てない。商品イメージにはまったく影響してませんよ。時計にしたってロレックスとタグホイヤー、なかのムーブメントが同じだとしても出来上がる商品はまったく違うでしょう。つまりホンダがやりたいものをやる。作りたいものを作ったってことです。
小沢:原点に返ったってことですね。
筒井:そうです。基本は若夫婦がきっちり楽しめるクルマでありたい。カッコよく見え、独身にも見え、しかしなかは広く快適で7人が乗れると。ストレスがないようにね。
![]() |
■テイストはウィッシュを見てないが
小沢:とはいえそういうミニバンってほかにもゴロゴロあるんですけど。
筒井:そりゃ割り切りはありますよ。5ナンバーサイズですから。具体的には2列目重視とし、3列目の価値を変えました。これ見よがしな広さを追求しなかったんです。3列目は奥さんが乗る場合が多いことを突き止め、実質的な居住性を追求しました。だからヘッドルームを削っても足元を広くしたんですよ。ヒールはいてもラクに乗れます。
小沢:なるほど。
筒井:後はやっぱりイチからプラットフォームを新設計して、全部を理想的に考えたってことです。走りもスタイルも実用性もね。なにしろ車重なんか遮音材を入れても、旧型より18kgも軽くなってるんですから。
うーむ、凄い。俺はなんだかんだでホンダ開発陣の意地を見た気がした。確かにテイストとしてはウィッシュを見てないのかもしれないけど、全体としては無意識的にも意識してる。言ってみれば、彼を取られてしまった女性が、容姿から中身からなにからなにまでとにかくいい女になって相手を見返す! というような図式だ。セコく、ライバルを研究し尽くして細かく勝つのではなく、圧倒的な力量で勝ってみせましょう! みたいなね。
いい意味でのホンダのド根性であり、プライドを感じたのだ。結構、人もクルマも同じように成長していくもんなのかもね。
(文と写真=小沢コージ/2006年8月)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
第454回:ヤマダ電機にIKEAも顔負けのクルマ屋? ノルかソルかの新商法「ガリバーWOW!TOWN」 2012.8.27 中古車買い取りのガリバーが新ビジネス「WOW!TOWN」を開始。これは“クルマ選びのテーマパーク”だ!
-
第453回:今後のメルセデスはますますデザインに走る!? 「CLSシューティングブレーク」発表会&新型「Aクラス」欧州試乗! 2012.7.27 小沢コージが、最新のメルセデス・ベンツである「CLSシューティングブレーク」と新型「Aクラス」をチェック! その見どころは?
-
第452回:これじゃメルセデスには追いつけないぜ! “無意識インプレッション”のススメ 2012.6.22 自動車開発のカギを握る、テストドライブ。それが限られた道路環境で行われている日本の現状に、小沢コージが物申す!?
-
第451回:日本も学べる(?)中国自動車事情 新婚さん、“すてきなカーライフに”いらっしゃ〜い!? 2012.6.11 自動車熱が高まる中国には「新婚夫婦を対象にした自動車メディア」があるのだとか……? 現地で話を聞いてきた、小沢コージのリポート。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。