BMW Z4 Mロードスター(FR/6MT)【試乗記】
“M”のチョクロクに、ひたる 2006.06.02 試乗記 BMW Z4 Mロードスター(FR/6MT) ……835万3950円 「M3」譲りの3.2リッター直6を搭載する2シーターオープン「Mロードスター」。剛性や空力を考えれば「クーペ」に軍配があがるが、走りはもちろん、オープンには、また別の味わいがあるらしい。タダものじゃない
極太なタイヤを収めるべく思い切り張り出したリアフェンダーなどによって、まるであの「シェルビー・コブラ」かと思うほどの獰猛な姿に仕立てられていた「Mロードスター」に較べると、新しい「Z4 Mロードスター」の見た目の押し出しは、それほど強くはない。外観上のZ4との違いは前後バンパーやリブの入れられたボンネットなどわずかで、一瞬で見分けるのは難しいほどである。
しかし、トップを開けた状態でそのコクピットに乗り込み、エンジンを始動すれば誰もがすぐに、これが「ただのZ4ではない……」とわかるに違いない。300km/hスケールの速度計やグリップの太いステアリングホイール、“M”のマークが入れられた6段MTのシフトノブといったディテールの違いはもちろん、前方から響くハイチューンの自然吸気エンジン特有の鼓動と、それに背後から加わる野太い排気音のハーモニーが、思わず姿勢を正して、その太く、そして巻きのソフトなリムを握る手に力を入れてしまうほど迫力に満ちているからだ。
クルマに駆り立てられるのか?
実際、その走りは相当にワイルドな手応えである。ギアの入りはシブいし、クラッチは重く戻りのバネも強力。「もっと扱いやすくならないの?」と、文句を言いたくなるところだが、すべてのタイミングがうまく合うと、カチッとスムーズにシフトできるものだから、つい嬉しくなって、次の瞬間には、「あぁ、つまりちゃんと運転しろってことか」とクルマに言われた気分になって、黙るしかなくなる。黙って、これまた硬い乗り心地に耐え、激しいワンダリングとチョロチョロと落ち着かないステアリングを修正しながらアクセルを踏むしかない。
そう、M社の走りへのコダワリで、他のZ4とは違ってランフラットタイヤを履かないZ4 Mロードスターだが、硬められたサスペンションとファットなタイヤのおかげで、乗り心地はあまりよくなっていないのだ。特にリアの突き上げは大きめで、目地段差を越える時など、思わず全身に力が入ってしまう。ボディがガッチリ硬いのが救いだが、甘い気分でのドライブに向かないことは確かだ。
それだけの代償を支払った恩恵に与るには、意を決してさらに右足に力を込めるしかない。そうして速度を上げていくと、無駄な動きを徹底的に排したサスペンションと、掌に接地感をありありと伝えるステアリングのおかげで、路面とのコンタクト感がどんどんソリッドに研ぎ澄まされていく。動きは非常にシャープ。しかしクルマの挙動はすべて掌と腰にタイトに伝わってくるから不安感は無い。だからどんどん攻め込めて、いつの間にか、コーナーのひとつひとつを切り取る作業に夢中になってしまうのだ。
エンジンが駆り立てるのか?
走り出す前から存在感たっぷりの3.2リッターストレート6も、そんな走りっぷりにひと役買っている。トップエンドに近づくにつれて回転の目がますます細かくなり、サウンドを低音から高音へと変化させながら、343psのハイパワーを炸裂させていく、このエンジン。特にスポーツ・モードでのスロットルレスポンスは抜群に鋭く、欲しいところで欲しいだけのトラクションをすぐさま与えることができる。
いや、本当はそんな言い方は正しくないのかもしれない。そうやって走っているうちに気付くのは、実は一刻も早くアクセルを踏み込んで、この絶品のエンジンを存分に唄わせたいがために、コーナーに挑んでいるんじゃないかということだ。言い換えれば、このエンジンを楽しむために、このシャシーはある。あるいは、このクルマはある、といった感じか。
個人的には真剣に走りと対峙するスポーツカーは、クローズドルーフのほうが好みである。Z4 Mについても、むしろクーペのほうが気になっていた。風の巻き込みや何やらが気にならない分、きっともっと集中してそのエンジンと向き合えるに違いないからだ。けれど、クローズドルーフでは、ここまでエンジン音や排気音は耳に届かないわけで……。
爽快なオープンエアドライビングなんかじゃなく、そのエンジンを味わい尽くすためのオープン。Z4 Mロードスターは、そういうクルマだ。よって乗る時は、今回のように雨でなければ、常にトップは開け放つべし、である。
まったくBMWも、悩ましい選択肢を用意してくれたものだ。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2006年6月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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