フォルクスワーゲン・ジェッタ 2.0(FF/6AT)【ブリーフテスト】
フォルクスワーゲン・ジェッタ 2.0(FF/6AT) 2006.04.01 試乗記 ……289.0万円 総合評価……★★★★ 輸入車が幅を利かせるスポーティセダンセグメントにVWが投入したのは、「ゴルフ」ベースのセダン「ジェッタ」。ベーシックグレード「2.0」に試乗し、トランクルームの広さにとどまらないセダンとしての使い勝手のよさと、その走りを検証した。
|
ブランドではなくプロダクトとしてのドイツ車を選ぶ人へ
1979年に初代がデビューした「VWジェッタ」は、トランクルームが付いた「ゴルフ」という成り立ちのクルマだった。でもその後、「ヴェント」や「ボーラ」と名を変えたあげく、5代目でまたジェッタに戻った新型は、その公式が通用しないクルマになっていた。
スペックを比べると、ゴルフと共通なのはホイールベースだけ。長さはもちろん、幅も高さも違う。おかげで顔以外に、ゴルフの面影はない。それどころか、どこの国のクルマかわからないぐらい個性がない。駐車場で探すのに苦労する。でも乗ればVWそのものである。こういうクルマをありがたがる人はぜったいいると思う。
輸入車を買ったと自慢するつもりはない。むしろ知られたくない。でも室内の仕上げがよく、安定した走りのセダンがほしい。つまりブランドではなくプロダクトとしてドイツ車を選ぶ。時計は国産ですませるけれど、鉛筆はファーバーカステルを愛用する。そんな人にジェッタは似合いそうだ。
なかでも289万円で買える2.0は、いまやレガシィとあまり変わらないボディサイズを考えると、お買い得にさえ思えた。ガイシャのブランド化が進むなかで、貴重な存在だ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
初代「ゴルフ」デビューの5年後、1979年にハッチバックのゴルフをベースとした3ボックスセダンとして誕生したのが「ジェッタ」。以後20数年間で世界累計660万台以上が販売された。名を「ヴェント」または「ボーラ」と変えながら、2006年1月、再びジェッタとして一新された。
後に登場する「パサート」とともに、フォルクスワーゲンブランドの上級セダンに位置づけられる。
フロントマスクは現行「ゴルフGTI」と似た、クローム処理のワッペングリルとなり、高いウエストラインとともにスポーティセダンらしさを演出する。日本に導入されるグレードは2種で、既にゴルフで採用されているエンジンと同じ、2リッター直噴の「2.0」と、同ターボチャージャー付き「2.0T」。2.0Tにはハンドリング性能向上を図ったスポーツサスペンションが装備される。
(グレード概要)
「2.0」はその名の通り、2リッターエンジン搭載グレード。直噴の「FSI」ユニットは、150ps/6000rpmと20.4kgm/3500rpmを発生する。DSG搭載の「2.0T」に対し、こちらはオーソドクスな6段AT。16インチタイヤ、ファブリックシートなどに差はあるものの、安全装備などは上級グレードと変わらず、ESPやカーテンエアバッグ、アクティブヘッドレストなどが標準で備わる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
インパネはゴルフと共通。色気はないが隙もない。ルーフが50mm低いので、ウインドスクリーンの天地が詰められており、前方の眺めはゴルフとちょっと違う。グローブボックスの中には車検証入れ用の棚があって、角張った車検証入れがカチッとすき間なく収まる。あまりにもドイツ的。一方で夜間にA/Tセレクター周辺をともす照明はなんと赤。どこかのインジケーターが点灯しているのかと、誤解を招きやすい。
(前席)……★★★★
同じジェッタでもターボエンジンの2.0Tは、本革張り、電動調節、ヒーターつきのスポーツシートを装備するが、2.0は手動のファブリックシート。でもシートとしての機能はこれでじゅうぶん。硬めで張りのある着座感はいかにもVW。シートサイドを覆う樹脂パーツはけっこう高さがあって、降りるときに腿を圧迫するのが気になる。
(後席)……★★★★
足元のスペースはゴルフと同じで、このクラスでは広いほうになる。ルーフはゴルフより50mm低いが、頭上空間は余裕が残る。パシッと張ったファブリックは、これはこれで気持ちいい。ジェッタに限らずVW各車で気になるのは、リアのヘッドレストが大きいこと。パッシブセーフティを重視した結果かもしれないが、後方視界をさまたげるので、アクティブセーフティでは疑問が残る。乗り心地はやはり前席より一段落ちる。
(荷室)……★★★★★
かつてジェッタの代名詞ともいえたトランク容量は、現在はなんと527リッター。ゴルフが350リッターだから1.5倍だ。たしかに見た目にも広い。ただしトランクリッドの開口部は、寝かされたリアウィンドウのために奥行きがいまひとつ。ちなみに歴代(ヴェント、ボーラ含む)のトランク容量は初代から順に520/575/550/455リッターで、新型は銅メダルとなる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
FSI(直噴)エンジンにトルコン式6段ATを組み合わせるパワートレインはゴルフGLiと共通。ATは発進が唐突なのが気になるが、DSGほどではない。走り出してしまえばスムーズで、1410kgのボディを自在に加速させてくれる。Dレンジ100km/hでのエンジン回転数は2300rpmと、6速という数字から想像するほど低くはないが、静かなクルージングが味わえる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
以前乗った2.0Tと比べると乗り心地はまろやかだが、それでも段差などはゴツゴツ伝える。スプリングに対してダンパーの効きが弱いのか、高速になってもフラットにはならず、小刻みな揺れが残る。ハンドリングはゴルフよりも安定指向。トランクに大量の荷物を積んだときのことを想定しているのかもしれないが、レベルは高いもののおもしろみはない。直進安定性はVWらしく、文句のつけようがなかった。
(写真=河野敦樹)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2006年2月16日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:3026km
タイヤ:(前) 205/55R16(後)同じ(いずれもミシュランエナジー)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:133.8km
使用燃料:15.5リッター
参考燃費:8.6km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.8 新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。
-
MINIジョンクーパーワークスE(FWD)【試乗記】 2025.11.7 現行MINIの電気自動車モデルのなかでも、最強の動力性能を誇る「MINIジョンクーパーワークス(JCW)E」に試乗。ジャジャ馬なパワートレインとガッチガチの乗り味を併せ持つ電動のJCWは、往年のクラシックMiniを思い起こさせる一台となっていた。
-
NEW
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ・マカン4編
2025.11.14webCG Moviesポルシェの売れ筋SUV「マカン」が、世代交代を機にフル電動モデルへと生まれ変わった。ポルシェをよく知り、EVに関心の高いレーシングドライバー谷口信輝は、その走りをどう評価する? -
NEW
ホンダが電動バイク用の新エンブレムを発表! 新たなブランド戦略が示す“世界5割”の野望
2025.11.14デイリーコラムホンダが次世代の電動バイクやフラッグシップモデルに用いる、新しいエンブレムを発表! マークの“使い分け”にみる彼らのブランド戦略とは? モーターサイクルショー「EICMA」での発表を通し、さらなる成長へ向けたホンダ二輪事業の変革を探る。 -
NEW
キーワードは“愛”! 新型「マツダCX-5」はどのようなクルマに仕上がっているのか?
2025.11.14デイリーコラム「ジャパンモビリティショー2025」でも大いに注目を集めていた3代目「マツダCX-5」。メーカーの世界戦略を担うミドルサイズSUVの新型は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 開発責任者がこだわりを語った。 -
あの多田哲哉の自動車放談――フォルクスワーゲン・ゴルフTDIアクティブ アドバンス編
2025.11.13webCG Movies自動車界において、しばしば“クルマづくりのお手本”といわれてきた「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。その最新型の仕上がりを、元トヨタの多田哲哉さんはどう評価する? エンジニアとしての感想をお伝えします。 -
新型「シトロエンC3」が上陸 革新と独創をまとう「シトロエンらしさ」はこうして進化する
2025.11.13デイリーコラムコンセプトカー「Oli(オリ)」の流れをくむ、新たなデザイン言語を採用したシトロエンの新型「C3」が上陸。その個性とシトロエンらしさはいかにして生まれるのか。カラー&マテリアルを担当した日本人デザイナーに話を聞いた。 -
第936回:イタリアらしさの復興なるか アルファ・ロメオとマセラティの挑戦
2025.11.13マッキナ あらモーダ!アルファ・ロメオとマセラティが、オーダーメイドサービスやヘリテージ事業などで協業すると発表! 説明会で語られた新プロジェクトの狙いとは? 歴史ある2ブランドが意図する“イタリアらしさの復興”を、イタリア在住の大矢アキオが解説する。












