アウディTTクーペ3.2クワトロ(6MT)【海外試乗記】
いつからこんなに上手くなったのか? 2003.03.01 試乗記 アウディTTクーペ3.2クワトロ(6MT) クラッチをもつ2ペダル自動変速機の弱点、シフト時のタイムラグを0.2秒にまで縮めた驚異のギアボックス「DSG」。スムーズなギアチェンジのヒミツとは? フォルクスワーゲン&アウディが送り出した、複雑かつ洗練されたメカニズムを載せた「アウディTTクーペ」に、自動車ジャーナリストの笹目二朗が乗った!スムーズな変速
「アウディTTク−ペ」に3.2DSGと言う新車種が加わった。3.2は、いうまでもなく排気量を表す。フォルクスワーゲン(グループ)お得意の、バンク角15度という狭角V型6気筒を積む。これは先に登場した「VWゴルフR32」と基本的に同じものだが、TT搭載にあたって最高出力250ps/6300rpm、最大トルク32.6kgm/2800-3200rpmにチュ−ンされた。
DSGとは、“ダイレクト・シフト・ギアボックス”の略で、オートマチックトランスミッションに新しい提案を行っている。3軸のギアボックスと2セットの湿式多板クラッチを組み合わせて、ギアチェンジは油圧で自動的に電子制御される。クラッチをもつ、つまりトルクコンバーターを使わない自動変速機として、分類上はアルファロメオの「セレスピ−ド」や、フェラ−リが用いる「F1システム」に近い。いわゆる2ペダルの“ノ−クラッチ”車で、マニュアルシフト重視のATでもある。
特徴的なのは、この手の機構にありがちの「変速時のタイムラグ」がないことだ。すなわち3軸のシャフトを利して、次のギアポジションをあらかじめ選定しておき、ツインクラッチ(奇数、偶数ギアを別個に受け持つ)を同時に作動させて、オンとオフを振り分ける。ごく単純化して説明すると、「2速+Aクラッチ(on)」で走っているときに、同時に「3速+Bクラッチ(off)」を用意しておき、「ギアを変えるタイミングに至った」とコンピューターが判断すると、Aクラッチのスイッチを「off」に、Bクラッチを「on」にしてギアを切り替える。よってパワ−の流れは途切れることなく、スム−ズな変速が可能となる。
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緩急自在
ギアを変えるのに、実際は0.2秒を要するものの、われわれが操作する通常のMTでも0.5秒はかかるから、人間技では太刀打ちできない速さだ。しかもシ−ケンシャルシフトではないから、段数を飛ばしてシフトすることも可能で、たとえば6速で走行中にキックダウンさせると、状況に応じて、2速にも3速にも蹴落とせる。ただしこの場合には0.06秒が加算される。
「Sモ−ド」を選ぶと、それこそ6600rpmのリミットまで、綺麗に回ってシフトアップして行くし、スロットルペダルを踏む足の操作に応じたポイント、つまり踏み込んだ量とその増減で、シフトアップの意思を伝えられる。また減速作業も芸術的なレベルにあり、ブレ−キによる減速Gに応じたシフトダウンが自動的におこなわれる。これはダブルクラッチなどの回転合わせを必要とせず、[フォン!」というエンジンの一吠えで決着がつく。穏健派の運転に対しては、2000rpm以下でも、次のギアへ早めに送り込んでやることができる。
DSGのさらなる武器はパドルシフトだ。これはスロットルペダルの操作や、モ−ドより優先権が与えられている。たとえばSモ−ドでの丁々発止とした戦いにも疲れ、のんびり流したいと思ったならば、もちろんタダの「D」へ戻してもいいが、右手パドルを引いて強制的にシフトアップさせてしまい、低い回転で静けさを取り戻すこともできる。また逆に、「D」のまま素早く前車をパスしたいときなどは、左手を引いて、低いギアによる瞬時の加速を手に入れることもできる。DSGは、文字通り緩急自在なのだ。
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いかにも安い
そしてダメ押しの秘技は、トルコン並みのクリ−プ走行を可能にする点だ。ブレ−キをリリ−スすると、平坦路ならばシズシズと動きだす。油圧多板クラッチゆえ熱の心配はいらないし、過酷な状況も想定されているから、耐久性も問題ないという。左足ブレ−キについては、ペダルに足を乗せている限り、クリ−プは期待できないが、スロットルを開けていればクラッチはつながるから、左足を放すと同時に、クルマは前へ進み出す。
とにかくスム−ズな変速と、スロットルに連動するダイレクトな感触が、DSG最大の魅力だ。初めて乗っても、「自分はいつからこんなに運転が上手くなったんだろう」と錯覚すること請け合いである。逆に相手にこの駒を与えた場合には、追い上げられるのは必至だから、DSGのTTとわかったからには、早々に前を明け渡した方が無難であろう。
技術の進歩はとどまることを知らない。特に「技術による前進」を標榜するアウディは、大技小技を使ってあの手この手と攻めてきたから、そうした技術の蓄積で、フォーリングスのクルマは、いまやもっとも飛ばして安心感のある高性能車として認知されている。TTクーペDSGにしても、この内容で4万1200ユ−ロはいかにも安い。暖簾の重さで売っているスポ−ツカ−も、いまや安閑としてはいられないだろう。
(文=笹目二朗/写真=アウディジャパン/2003年2月)

笹目 二朗
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