フォルクスワーゲン・ジェッタ2.0T(FF/2ペダル6MT)【試乗速報】
「セダン回帰」のジェット気流 2006.01.23 試乗記 フォルクスワーゲン・ジェッタ2.0T(FF/2ペダル6MT) ……359万円 「ゴルフ」のセダンバージョンというべき「ジェッタ」が登場した。VWのセダン戦略を担うグローバルモデルである。「GTI」と共通のエンジンを持つ「2.0T」に乗った。懐かしい名前が復活
「ゴルフ」のセダン版として「ジェッタ」が初めて日本に導入されたのが1980年のことで、今回登場するのは第5世代ということになる。とはいえ、第3世代は「ヴェント」、第4世代は「ボーラ」という名を持っていたから、久しぶりの懐かしい名前ということになる。すべて車名に風に関係する名を付けるという伝統に則った命名だったが、今回のフルモデルチェンジで世界共通の「ジェット気流」を復活させたというわけだ。
アメリカ市場ではVW車の40パーセントを占める人気車種のジェッタだが、日本ではゴルフの圧倒的な人気に隠れた存在だった。「ルポ」「ポロ」といったハッチバック車はよく売れるものの、「パサート」も含め、VWのセダンというのはなかなか浸透していないところがある。2005年に日本市場で5万3441台を売り上げ、輸入車の販売台数ナンバーワンを堅持したVWだが、さらに上のポジションを目指すにはセダンマーケットの開拓が必要になってくる。ジェッタは、その先兵としての使命を担うのだ。
日本車でも、トヨタの「ベルタ」、日産の「ブルーバード・シルフィ」が相次いでデビューし、「セダン回帰」が自動車業界のキーワードになっている。ミニバンに飽きたユーザーを狙っているということなのだろう。これまでは、輸入車では「プレミアムセダン」ばかりが目立っていたが、ジェッタの市場での位置は少々違う。先代までのCセグメントからDセグメントに移行したが、価格はメルセデス・ベンツやBMWに比べるとお得感があり、「レガシィ」、「アテンザ」あたりの国産車よりは高い。これまでぽっかりと空いていた場所に、うまくはまり込んだ。
いちばんの違いはトランクの有無
発売されるモデルは、2リッター直噴エンジンにティプトロ付きATを組み合わせた「2.0」と、同じエンジンにターボチャージャーを付け、2ペダルMTのDSGを装備した「2.0T」の2種だ。競合するのは、同じクラスのセダンだけでなく、兄弟車であるゴルフと比較する場合もあるだろう。外板は多くを独自パーツが占めているとはいえ、基本的な骨格は同じでドライブトレーンも共通だ。今回試乗した2.0Tは、ゴルフGTI同様にハイパワーなターボエンジンを積んで定評のあるDSGを採用したスポーティモデルである。ゴルフが341万2500円なのに対し、ジェッタは359万円となる。ついでに言うと、アウディの「A3スポーツバック2.0TSFI」は399万円だ。
当然ながら、ゴルフとジェッタのいちばんの違いは独立したトランクの有無ということになる。ジェッタのトランク容量は527リッターと十分なもので、ゴルフバッグを最大4セット収納できるという。ボーラよりも72リッター増えているが、実は2代目ジェッタは575リッターだったというから恐れ入る。それはともかく、フラットで奥行きもあるトランクルームは使い勝手もよさそうだ。もちろん、リアシートのバックレストは分割可倒式だが、それはゴルフだって同じだから、このメリットは使う人によって感じ方が違うだろう。
ボディサイズは、ボーラよりも全長が190ミリ、全幅が50ミリ拡大している。ゴルフと比べると、全長が340ミリ長く、幅も25ミリ広い。幅はグリップハンドルのぶんだけの差で、一見して大きな感じは受けないし、乗ってみても取り回しは楽である。巨大化しつつあるこのセグメントの中では、手頃なサイズと言っていい。
落ち着いたたたずまい
おなじみになった「ワッペングリル」をジェッタも採用しているが、ゴルフGTIとはずいぶん顔つきの印象が違う。ハニカムグリルが精悍さを強調していたGTIとは対照的に、水平にラインを入れてクロームモールを配することによって、落ち着いたたたずまいを漂わせているのだ。リアスタイルは、VWのフラッグシップたる「フェートン」とイメージが共通している。日本では未発売だから、それで高級感を付加することはできないが。インテリアの造形自体はゴルフと共通だけれど、ウッドパネルを使っていたりしているから、様子が異なっている。
GTIと同じ心臓なのだから、速いのは当然だ。パドルシフトを操って飛ばしていると、地味なセダンに乗っていることを忘れてしまう。車重は30キロ重いのだが、意外にも最近乗ったゴルフGTIよりも乗り心地に雑なところがあった。また、発進時にアクセルペダルを乱暴に踏むと、ハーフスロットルでもいきなりESPが効いてしまった。スポーティというより、マッチョで荒っぽいところがなきにしもあらず。まあ、これはDSGがよくできているせいで、右足から意思を感じ取って過剰に素早くクラッチをミートさせてしまうからなんだろう。このクルマに乗るときには、ドライバーも少し落ち着いたほうがいいのかもしれない。
やはり、ゴルフGTIとはずいぶん性格の違うクルマなのだ。ただ、ジェッタの価格設定がかなりリーズナブルなのは確かである。たとえば、赤とグレーのチェック柄のファブリックシートが標準となるGTIは、本革を選ぶと21万円をプラスしなければならないが、ジェッタには革シートが標準で付いてくる。VWのハッチバック車は他の輸入車に比べて高めの価格となっているが、セダンは逆に少し安いプライスタグが付けられているのだから、この微妙な価格差になってしまうのだろう。そろそろセダンに戻ろう、と考えている人にとっては、いい選択肢ができたと言える。
(文=NAVI鈴木真人/写真=高橋信宏/2006年1月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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