アウディS4(6AT)【試乗記】
本能だけじゃ生きていけない 2003.11.06 試乗記 アウディS4(6AT) ……784.0万円 アウディの主力セダン「A4」に、4.2リッターV8エンジンを積むハイパフォーマンスモデル「S4」が登場。自動車ジャーナリストの森口将之が試乗した。S4の走りには感心したものの、すこし気になるところがあるという……。ちゃんとしなさい!
4585×1780×1410mmという、今となってはそれほど大きくはない4ドアボディに、344psを発生する4.2リッターV8を押し込み、その力をクワトロシステムで4輪に分散して疾走するアウディ「S4」。スペックだけ見ると、おそろしささえ感じるクルマだが、その外観はずいぶんあっさりしている。
パッと見てわかるのは、フロントグリルの格子が違い、ドアミラーがアルミのバフがけになって、サイドシルに黒いモールがついたことぐらい。トランクリッドのリップスポイラーも、ごくごく控えめ。「主張不足だ」と不満の人もいるかもしれないが、このさりげなさがアウディっぽい。
ボディパネルのすき間は、れいによってこれでもか! とばかりに詰められている。つまらぬ感情ははさまず「製造品質の高さを厳正に評価してくれ」と、いわれているような気がした。
インテリアもまた、おとなしい。でもよく見ると、ダッシュボードやセンターコンソールには本物のカーボンを使っている。ステアリングとタコメーターには“S4”の文字が入り、スピードメーターは280km/hまで刻まれる。
S4であることをいちばんアピールしているのは、前後のレカロシート。カチッとした着座感で、ポジションをピタッと決めてくれる。すこしでも姿勢を乱そうとすると、「ちゃんとしなさい!」という声が飛んできそうな雰囲気。まさにレカロだ。
底なしのハンドリング
4.2リッターのV8は、A8やS6に乗っているものと同じではない。A4のボディに載せるために、前端にあった補機類を後ろ側にまわすなどして、小型化を図っているのだ。このエンジンは、オールロードクワトロ4.2にも搭載される。
ウェイトはサンルーフ付きで1770kgと、けっこうなヘビー級。しかし4.2リッターだから、加速に不満があろうはずはない。普通のペースで走るなら、6段ATは変速ショックを感じさせず、ポンポン上のギアにシフトアップしていって、ほとんど2000rpm以下だけで走れてしまう。
そのときのフィーリングは、ちょっと予想外だった。ドロロロ…… という迫力の排気音を響かせるエンジンと、あふれんばかりのトルク感。乗り心地はかなり硬く、ステアリングは流しているときには予想以上に軽い。そう、シボレー・コーベットっぽいのだ。
しかしアクセルを深く踏み込むと、コーベットの残像はあっというまに消え去る。V8は3000rpmを越えると ウォーンという緻密なスポーティサウンドを響かせながら、レッドゾーンが始まる7000rpmへ向けてぐんぐん吹け上がっていく。
乗り心地はあいかわらず硬く、速度を上げてもフラット感は得られないが、あれほど軽かったステアリングは、気がつくとずっしり重くなっている。ドライバーの気持ちの変化をしっかり察知して、戦闘態勢に切り替わってくれるのだ。
A4のボディにV8を、しかもフロントにオーバーハングさせて積んでいるとなると、とんでもなくノーズヘビーなクルマかと思うだろう。でも実際はそうでもない。車検証に記された数字は、前輪荷重が1100kg、後輪荷重が670kg。つまり62:38で、極端に前が重いわけではない。
実際の操縦感覚はといえば、たしかにノーズに重いものをぶら下げている感はあるものの、それをクワトロシステムとESPとハイグリップタイヤが抑え込んで、どんなに速度を上げようが切ったとおりに曲がっていってしまう。ドイツ車らしく(?)、強引な感じがしなくもないが、底なしのハンドリングだ。
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完全無欠
完全無欠に速い。アウディS4の印象はこれに尽きる。765.0万円という価格を抜きにすれば、クルマそのものにはほとんど文句のつけようがなかった。むしろ問題があるとすれば、このようなクルマがいまという時代にふさわしいかということ。
日本の制限速度は100km/hだから、圧倒的なパフォーマンスを味わえるのは一瞬の加速だけ。仮に4.2リッターV8や344psという数字をステイタスシンボルとして考えるにしても、スローフードやスローライフばやりの世の中には逆行しているように感じる。まして環境問題が深刻になっているなか、燃料計の針がグングン動くようなクルマを許していいのかという気にもなる。
本能だけじゃ生きていけない。21世紀はむずかしい時代なんだなあとあらためて思った。
(文=森口将之/写真=清水健太/2003年11月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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