アウディTTクーペ 2.0TFSI(FF/2ペダル6MT)/3.2クワトロ(4WD/6MT)【海外試乗記】
絶品の走りは予感どおり 2006.06.24 試乗記 アウディTTクーペ 2.0TFSI(FF/2ペダル6MT)/3.2クワトロ(4WD/6MT) コンパクトなボディと、特徴的なデザインが人気だった「アウディTT」が2代目にモデルチェンジ。アルミニウムとスチールを組みあわせた素材を使う骨格に、たくましくなったボディをまとった新型にオーストリアで乗った!独創性が薄らいだか?
予感は当たった。それがオーストリア・ザルツブルク郊外のワインディングロードにて新型「アウディTTクーペ」を走らせて、最初に感じたことである。本当は、そうした先入観をもって試乗にあたってはいけないのかもしれないが、先代TTはその衝撃的なスタイリングに惚れて、購入を真剣に考えたモデル。それだけに、実車を見る前からアレコレ想像が脹らんでいたのだ。
さて、ではその予感とは一体何か。率直に言ってしまえば、見た目は今イチ、でも走りは絶品に違いないと、僕は事前に思っていたのだった。いや、本当は今イチなんて言ってはいけないのかもしれない、その外観のことは。最初に写真で見た時に較べれば、印象は悪くない。いや、むしろカッコ良いと感じている自分もいなくはない。先代TTのイメージを色濃く受け継いだその姿は、しかし実際にはより伸びやかになり、面に抑揚がついて光の反射によって豊かな表情を見せるようになり、つまりはフツウにカッコ良くなった。
けれど、先代TTは、そのフツウに皆が思っていたカッコ良さを否定して、まったく違うカッコ良さを提示したからこそクールだったんじゃないだろうか? 前後どちらに進むのか一見しただけではわからないシンメトリカルなサイドビュー、抑揚を排してツライチな面の迫力で押すボディパネル、無表情といえる表情。29歳の若きデザイナー、ホルヘ・ディエス氏は「ひたすらメカニカルな印象だった先代をモチーフに、よりライブ感を入れ込みたかった」と言う。しかし、先代TTはそれが極限まで削ぎ落とされていたからこそ、逆にアクティブな生活感覚を持つ人々は、そこに思い思いの自分のライブ感を投影したのだ。TTだけでなく最近のアウディは全般に、デザインそのものというより、そこに表れた哲学から、その独創性が薄らいでしまっているような気がしてならない。
前後重量を気にしたアルミボディ
その一方で、走りっぷりは素晴らしく良かった。そのポイントが、新たに採用されたASF(アウディ・スペース・フレーム)と呼ばれるアルミボディ。しかも新型TTクーペのそれは、主にフロント部分、全体の69%をアルミ化し、フロア後半部分やリアゲート、ドアなどはスチール製のままとする構造で、前後重量配分の改善に繋げているのが新しい。実際、前輪駆動の「2.0TFSI」は前後重量配分60:40、そしてリアルタイム4WDの「3.2 クワトロ」は59:41という、前輪駆動主体と考えると、まさに適正値といえる数値を実現している。
まず乗ったのは3.2 クワトロだが、その効果は交差点ひとつ曲がるだけでハッキリわかった。応答性はとにかく素直。一般的な前輪駆動車やそれをベースにした4WDでは、重たいフロントを軸にして旋回していくような感覚があるものだが、新型TTの場合、その重心軸が自分の後ろにあるかのよう。これは新鮮な感覚だった。しかも、おかげでフロントに余計なヨーが残らないため、S字コーナーで瞬間的に逆に切り込んでも、まったく遅れ感なくノーズが反応する。フロントにエンジンを横置きしているとは思えないほどの爽快なレスポンスを味わえるのだ。
サスペンションやサブフレームなどの基本設計は「フォルクスワーゲン・パサート」とほぼ共通で、つまりスタビリティも抜群に高い。乗り心地は硬めだが、アルミボディゆえの入力に対する減衰の速さか、あるいは標準装備される、磁力によって特殊な金属粉の入ったダンパーオイルの流動性を変化させ、一瞬にして減衰力を調整するマグネティックダンパーの効果もあってか、余計な動きがよく抑えられていて、スポーツカーとしてはむしろ心地いい乗り味といえる。
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予想は二つはずれた
エンジンはパサートに積まれたFSIではなく従来のもので、組み合わされるDSG改めS-tronicも新しいものでないが、軽くなったボディのおかげで動力性能は十分以上といえる。それは「VWゴルフGTI」などと同じ2リッターTFSIユニットを積む前輪駆動モデルも同様。ただし、いずれもサウンドやスムーズさにスポーツカーの心臓に期待するだけの色気がないのが残念である。
初めて走る公道での試乗ということで、限界性能を存分に試したわけではないが、この挙動の素直さからすれば、さほどの心配はいらないと思う。だから走りに関しては、ほぼ不満なしと言ってしまおう。
そんなわけで、予感はほぼ当たっていた新型TTだが、ふたつばかり予感……というか予想が外れたことがある。まずひとつは価格。新型TTクーペはアルミボディ化にもかかわらず、ヨーロッパでは先代とほぼ同じ価格で販売されるというのだ。秋にも導入予定という日本でも同様の政策が採られることを期待したい。そして、もうひとつは、いくら走りが良くても、このデザインじゃ欲しくはならないだろうと思っていたのに、実は今、僕自身コレなら乗りたいなという気分になってしまっていることである。
(文=島下泰久/写真=アウディジャパン/2006年6月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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