第68回:花粉症はナゼ発症するのか〜答えは日光に〜(その5)(矢貫隆)
2005.09.23 クルマで登山第68回:花粉症はナゼ発症するのか〜答えは日光に〜(その5)(矢貫隆)
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■ディーゼル排気微粒子と花粉症の関係
たとえばアレルギーに関する動物実験を行う際、抗原にある種の物質を加えると反応を示す抗体が作られやすいとの結果がでたとする。すると、加えたある種の物質には、抗体を作りやすくする作用、つまり「アジュバント作用」があったとわかるわけである。
活性炭もそのひとつで、だから小泉先生らは、ディーゼル車から吐きだされる、炭素を主成分とする真っ黒い煤に注目したわけだ。
84年の疫学調査の際に、小泉先生らは、同時に、動物実験を実施してディーゼル排気微粒子(DEP)と花粉症の関係を探っていた。そして、その結果を、研究グループのリーダーであり、当時、湯河原厚生年金病院長だった村中先生が『メディカルトリビューン』で次のように報告している。
「スギ花粉から抽出した主要抗原成分(JCPA)をDEPと混ぜ、この混合液をマウスの鼻孔の入り口に置いて吸入させ抗JCPA特異的IgE抗体生産性の違い(注:JCPAにDEPを混ぜていない群との比較)を調べたものである。どちらの抗原量に対しても、DEPを加えた群で、抗JCPA特異的IgE抗体の生産がみられた」(要旨のみ)
「意味がわかりません」
起きてたのか、A君。じゃ、わかりやすく書くことにしよう。
スギ花粉に含まれるアレルギーを引き起こす物質を取りだしてマウスA群に与え、マウスB群には、同じ物質にDEPを混ぜたものを与えた。
「最初からこうやって書いて下さいよ」
すまん。
その結果、マウスA群がIgE抗体をほとんど増やさなかったのに対し、マウスB群の方には多くの“アレルギーを引き起こすIgE抗体”が生産された。つまり、スギ花粉症は、スギ花粉の吸入によってのみ起こるのではなく、DEPのアジュバント作用によって、スギ花粉を吸入した際にスギ花粉症を引き起こすIgE抗体が大量に生産されることによって起こる、という意味だ。
「『その3』に書いた『ある日の、花粉症の症状がでるまでのメカニズム』と考え合わせると、スギ花粉症の鍵を握っているのがIgE抗体だとわかりますね」
スギ花粉症を引き起こす特異的なIgE抗体が生産されなければ、いくらスギ花粉を吸入してもスギ花粉症は起こらない。言いかえれば、花粉症に罹患していない人に、ある日、何の前触れもなく花粉症の症状がでる可能性は間違いなくあるということだ。小泉先生は、こう言っている。
「ほとんどなかったはずの花粉症がどんどん増えているのは、抗体を作りやすくするような人工的な物質が体内に入ってくるから。そのひとつがDEPなんです」(つづく)
(文=矢貫隆/2005年9月)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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