メルセデス・ベンツ E350アバンギャルド(7AT)【ブリーフテスト】
メルセデス・ベンツ E350アバンギャルド(7AT) 2005.07.30 試乗記 ……827万4000円 総合評価……★★★★ モデルチェンジを重ね、理想の形へと変化し続ける「Eクラス」。熟成に加え、新開発の3.5リッターV6と7段AT「7Gトロニック」を搭載する「E350アバンギャルド」は……。あっぱれ!
1997年発表の「Aクラス」から、昨年デビューした「CLSクラス」まで、メルセデス・ベンツはこの10年間に、ニューモデルをいくつも送り出してきた。しかしメルセデスの基本はやっぱり、後輪駆動の3ボックス4ドアセダンである。今回の試乗で、それを痛感した。
Aクラスや2シーターオープン「SLKクラス」は、最近行われた初めてのモデルチェンジで、ようやくメルセデスの名前に見合った作りや走りのクオリティを獲得したといわれている。Eクラスはそのモデルチェンジを、何度も経てきた。しかもこのクラスのメルセデスは、昔から“本流”だった。だから自らが築いた道を磨き込んでいけばいい。完成度が高くて当然なのである。
4人のおとなが快適に過ごせるキャビンに身を置き、乗り心地と操縦安定性を高い次元で両立したシャシーを味わっていると、「作り慣れている」という感じを受ける。いいかえれば、メルセデス道が確立している。このブランドに恋い焦がれる者にとっては「これぞメルセデス」だろうし、そうでない人間でさえ「敵(?)ながらあっぱれ」と拍手を送りたくなってしまう。
そんなEクラスでさえも、たえず進化を続けなければならないのが今の世のなか。今年の2月には、それまでのE320に代わってE350が登場した。V6エンジンを3.2リッターSOHC18バルブから3.5リッターDOHC24バルブにスイッチし、ATを5段から7段の「7Gトロニック」に進化させた。すでにSLKなどに積まれているパワートレインだ。
紙の上でのスペックは向上した。しかし乗ってみると、同じパワートレインを積むSLK350ではシャシーやボディーとのコンビネーションが理想的だと感じたのに、Eクラスではそう感じられなかった。ひとことでいえば、シャシーのリズムに対して、パワートレインのリズムが早すぎるのである。
メルセデスのオーナーは、ドライビングのリズムなどという些細なことより、スペック上の優位性が大事なのかもしれないが、個人的にはツインカム4バルブ+7段ATはSLKやCLSなどのスポーティモデル専用にして、EクラスやMクラスは今までどおりのシングルカム3バルブ+5段ATのままとしたほうが似合うのではないかと思った。ただしメルセデスのことだから、次期Eクラスでは違和感のない仕上がりになっているのかもしれない。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
メルセデス・ベンツのアッパーミドルセダン、Eクラス(W211)が一新され、我が国では2002年6月から販売開始。いまではメルセデスの定番となっている丸4灯式ヘッドライトでデビューした先代W210から、7年ぶりのフルモデルチェンジとなる。簡単にいえば正常進化。これまでのコンセプトを継承しつつ、より安全で快適にとアップデートされたもの。従来型と比べて新型は、ホイールベース(2855mm)、全幅(1820mm)、全高(1430〜1450mm)それぞれを2センチずつ大きくし、全長(4820/4850mm)を等しくする。スタイリングはやや丸みを帯び、前傾姿勢を強めた4ドアセダンである。
フロントは4リンク独立、リアはマルチリンク独立のサスペンションは、V6搭載モデルでは普通のコイルスプリングだが、V8モデルはエアサスペンション“エアマティックDC”を採用。ブレーキ系統には、途中を電気回路で結んだ新機構の電子制御ブレーキシステム、SBCが初めて採用されたのが特徴的。ブレーキそのものはフロントがベンチレーテッドの前後ディスク。SBCは、ABSおよびESPなどと有機的な連携プレイを行なう。
(グレード概要)
Eクラスはエンジンによって3種グレードを展開。エントリーグレードは2.6リッターV6SOHC(177ps)を積む「E240」、2005年2月21日に従来の3.2リッターV6(224ps)に代わり、新型3.5リッターV6DOHC(272ps)を搭載する「E350アバンギャルド」がミドルレンジにラインナップされた。4WD版「4MATIC」も用意される。最高峰は、5リッターV8(306ps)を搭載する「E500アバンギャルド」だ。トランスミッションは、E240とE350 4MATICアバンギャルドが5AT、そのほかはメルセデス・ベンツ自慢の7段AT「7Gトロニック」となる。
E350の目玉は、なにより、フルモデルチェンジした「SLK」などと同じ、新開発の3.5リッターV6 DOHCエンジンを搭載すること。従来のE320よりパワフルなことはもちろん、国土交通省「平成17年排出ガス基準75%低減レベル」認定取得済みという。
【内装&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
デビューからすでに数年を経過していることもあり、インパネの造形や素材の使い方に新鮮さはない。しかしこれが、長年メルセデスを乗り継いできた人にとっては安心感につながるのだろう。それを象徴するのが視界で、寝すぎていないフロントスクリーンを通してボンネットがしっかり見え、その先のスリーポインテッドスターは絶好の水先案内人になる。ホッとするほど安心できる眺めだ。仕上げはこのクラスとしては平均レベル。800万円近くする高価格車だけあって装備は充実しているが、ナビゲーションシステムは位置、操作方法ともに満足のできるものとはいえなかった。
(前席)……★★★
ドアの閉まり音がガシッとしていて、これだけでも他のクルマと違うと感じさせるが、腰を下ろしたシートは沈み込みがほとんどなく、座った瞬間は正直いって「これが800万円のクルマのシートなのか?」と思ったほど。ところが約2時間をここで過ごしても、不満は感じなかった。これ見よがしの演出ではなく、結果で教えてくれるあたりは、かつてのメルセデスを思わせる。サポートは大柄なドイツ人を想定しているようで、身長170?、体重60?という体格の自分には、サポート性能はいささかおおらかだった。
(後席)……★★★★★
フロント同様、沈み込みはほとんどないが、それ以外は完璧といえる。スライドやリクライニングのたぐいは一切ないが、広さや姿勢など、なんの不満もない。座面の角度があるので腰が落ち着くし、背もたれも傾きが大きいので適度にくつろげる。スペース的にも、自分が前後に座ったとき、ひざの前には約20センチ、頭上には5センチ弱の空間が残る。それ以外でも、肩まわりの空間のとりかた、前方の見えかたなど、とにかく空間の作り方が理想的。乗り心地も、前席とほとんど遜色ない。4人の大人が長距離を快適に過ごせることを前提に設計されたことが実感できる。
(荷室)……★★★★
最近のセダンとしてはリアのオーバーハングが長めのパッケージングなので、奥行きは充分すぎるほどだ。幅や深さも申し分ない。トランクスルーはないが、それに不満を抱く人は少ないだろう。メルセデスのトランクで特徴的なのは、アームが太いこと。おかげで荷室をいくばくか侵食していることは否めないが、その代わり、リッドの動きは例を見ないほどスムーズだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
ツインカム4バルブヘッドを得たエンジンは、いままでのシングルカム3バルブと比べると、扱いやすさはそのままに、レスポンスがよく、回すといい音を響かせるなど、スポーティさが格段にアップした。ただし同時に導入された(E500にはすでに採用されているが)7段ATは、最近のトルコン式ATとしてはシフトショックが目立つ。同じパワートレインを使うSLK350ではほとんど感じなかったので個体差かもしれないが、もともとメルセデスのATはトルコンをあまり滑らせず、ある程度のショックは許す設計になっているので、エンジンがレスポンシブで、車両重量がSLKより重く、7段ゆえに変速回数が多いことなどが、それを強調したのかもしれない。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
E350のサスペンションは、E500の「エアマティックDC」に対して、コンベンショナルなコイルスプリングを使う。エアスプリングは、路面状況や走行状況に合わせてバネレートを変えることができるので、低速の乗り心地をマイルドにしつつコーナーでのロールは抑えられるなどの長所がある。しかしコイルには、基本設計が優れたサスペンションの場合、そのデキを生でしっかり味わえるというよさがある。低速ではやや固めだが、たっぷりしたストロークで路面からのショックをじんわり吸収していく様が手に取るようにわかって、心地よささえ覚える。比類なきボディの剛性感も、この好印象に貢献しているはずだ。
ステアリングは低速では軽いが、戻す力は重いままなので、かなり不自然に感じる。ただしスピードを上げると操舵力も重くなって、釣り合いがとれる。タイヤが鳴いても安心していられるハンドリングは、後輪駆動車としては異例かもしれない。ブレーキは、電子制御のSBC(センソトロニック・ブレーキ・コントロール)。制動力やペダルのフィーリングは申し分ないが、たまにスカットルの奥でググッという作動音がするなど、メルセデスらしからぬデリケートなマナーが気になった。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2005年7月5日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2005年型
テスト車の走行距離:5163km
タイヤ:(前)225/55R16(後)同じ
オプション装備:ガラス・スライディングルーフ=16万8000円/本革シート(前席シートヒーター付)=25万2000円/パークトロニック=8万4000円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:高速道路(6):山岳路(4)
テスト距離:270km
使用燃料:33.5リッター
参考燃費:8.1km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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