プジョー407 ST 2.2(4AT)/407 SW SPORT 3.0(6AT)【短評(後編)】
帰ってきたライオン(後編) 2005.06.04 試乗記 プジョー407 ST 2.2(4AT)/407 SW SPORT 3.0(6AT) ……360万円/450万円 大きく立派になった「プジョー407」。2.2リッターセダンと3リッターワゴンに試乗した大川悠は、かつてのプジョー風味に感激しつつ、あることが気になったという。
![]() |
![]() |
最良の移動感覚
とても上質な乗り味と、奥深い移動感覚を持ったクルマ、それが407である。何よりもいいのは、ボディとサスペンションの絶妙なマッチングだ。リアに大きな開口部をもつSWでもプジョーらしからぬ剛性感が感じられるだけでなく、プジョーとして恥じないしっとりとした感覚を常に保ち続けていた。
最大の価値は乗り心地である。全体がスムーズなだけでなく、まるで液体に乗っているかのようなしなやかさが素晴らしい。だからといって柔らかすぎるわけでもないし、コーナーで過大なロールを示すわけでもなく、メーカーの狙いどおり、動物が全身の無数にある筋肉を、状況に応じて使い分けるように、あらゆる路面や姿勢で、ドライバーに最適な快適性と柔軟性を感じさせるのだ。
ハンドリングもそれに見合ったもので、小さなプジョーのように俊敏ではないけれど、ドライバーの意図した通りに従順に大きなボディがいうことをきく。トルクステアもほとんどないし、コーナーにおける挙動変化も巧みに抑えられていた。4気筒が電動式、V6には速度感応式の油圧タイプを備えるステアリングは、ともにナチュラルな感覚に富んでおり、スタビリティはフランス車の見本通りに高い。
この407で実現された新しい感覚のハンドリング/乗り心地のセッティングは、308や207など、今後出てくる中小型プジョーにも活かされるのだという。
![]() |
![]() |
機敏な6AT、時代遅れの4AT
……とイイことばかりのようだが、最大の難点は4気筒と4ATの組み合わせにあった。試乗が箱根山中だったせいもあるが、決してトルクが太いとはいえないエンジンと、レスポンスがいいともいえない4AT(くどいようだが、5ATではない!)の組み合わせは、上り坂ではかなり辛い。大きくなった当然の理として、1.6トン前後の車重をズシーンと感じる。足まわりがいいから下りは速いけれど、現代のこの407クラスにおいて4ATはハンディだ。フランス車にはあまりにも“普通な意見”ではあるがMT、欲をいえば本国で7割を超えるディーゼル仕様を試したくなった。
一方、6ATを備えるV6モデルは、排気量も手伝ってそれなりに活発である。しかも、プジョーがアイシンにオーダーした独自のシフトプログラムが効いていた。
それは端的に言えば“より活発に走る”ことを求めたもの。高回転でシフトアップし、早い時期にシフトダウンすることで、常にエンジンのスウィートスポットを使うようなセッティングを狙ったのである。意図的に多少のシフトショックを感じさせることまで要求され、アイシンのエンジニアは困惑したというが、たしかにプジョーの狙いどおり、V6は昔の大型プジョーらしからぬダイナミズムを獲得していた。
ボディの功罪
傾斜角が強すぎるため斜め前の視界を邪魔するAピラー、一見グラスエリアが広く思えるが、実際は太い構造材で後ろの視野が悪いSWのデザイン・トリックや、パッカーンと安っぽい音をして閉まるテールゲート(ただしウィンドウだけの開閉も可能)など、細かいことを言い出せばそれなりに指摘はできるが、最後まで納得できなかったのはボディサイズである。
たしかに安全性を重視してクラッシャブルゾーンを充分に採ったことは理解できるが、ライオンのようなスタイリングを強調し、あるいはやはり肥大化していくライバルを意識したがゆえに、過度に大型化した。ドライバーにとって運転しにくいことも、好ましくない点である。
特に長いフロント・オーバーハングは大きな回転半径を要求するのに、ドライバーからはライオンの口がどこにあるのかつかみにくい。また一見、グラスエリアが広く思えるワゴンは、内部にDピラーが隠されていて、後方視界がかなり限られる。都内で乗ったら、かなり苦労するのではないだろうか。太いAピラーもいただけない。
MTが欲しい、あるいはディーゼルに乗ってみたいという声も試乗会で多かったという、それも同感ではある。しかし404や504など、律儀で正直なデザインのプジョーを愛したからこそ、リポーターは、何よりもこの肥大化したネコを受け入れるのには抵抗感があった。(おわり)
(文=大川悠/写真=峰昌宏/2005年6月)
・プジョー407 ST 2.2(4AT)/407 SW SPORT 3.0(6AT)(前編)
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000016771.html

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。