BMW 735i(6AT)【試乗記】
電子の夢を見るハイエンドマシン 2002.03.16 試乗記 BMW 735i(6AT) ……870.0万円 ウェッジシェイプからの脱却を謳うボディスタイルが斬新なニューBMW7シリーズ。バイエルンの新しいフラッグシップは、バルブトロニックを搭載したV8に、世界初!シフトバイワイヤの6段ATを組み合わせる。車内には、シルバーの丸い「コントローラー」が銀色に輝く。webCG記者が沖縄で乗った。双方向に直感的に
長めのプレスコンファレンスが終わると、取材グループは3月とは思えない強い日差しのもと、駐車場へ向かった。沖縄で、BMW新型7シリーズのプレス向け試乗会が開催された。「ジャーナリストの○○○さんは、クルマに乗り込んだはいいがスタートできなかったらしい」と、道すがら自動車雑誌『NAVI』のスズキ編集長が耳打ちする。
試乗前の説明に時間がかかったのにはワケがある。2001年のフランクフルトショーで姿を現わしたビーエムのトップモデルは、「iDrive」と呼ばれる操作システムが採用された。クルマの運転を、「ドライビング機能」と「コンフォート機能」に分離、後者に属する「電話」「ナビゲーションシステム」「エアコンの細かい設定」「オーディオ類」などの操作、セッティングは、センターコンソール上の丸いコントローラーとインパネ中央のディスプレイで集中的に行うことにしたのだ。掌大のコントローラーを東西南北ほか8方向のいずれかに軽く押して機能を選び、ディスプレイに表示された項目間をダイヤル、クリックして選択、設定を進める。あたかもパソコンの画面とマウスのように。「双方向的に、そして直感的に操作できる」というのがウリだ。ホントか?
4月からわが国でも販売が開始される4代目フラッグシップは3種類。3.6リッターV8を積む735i、4.4リッターの745i、そのロングホイールベース版745Liがラインナップされる。いずれも世界初の6段ATが組み合わされる。標準内装は、3.6リッターがファブリック、4.4リッターはレザーとなる。ステアリングホイールの位置は、左右どちらも選択可能。車両本体価格は、735iが830.0万円、745iが990.0万円、そしてLiが1080.0万円である。
キー、レバー、ボタン
割り当てられたクルマは、トレドブルーにペイントされた735i。新型のボディサイズは、全長5029mm、全幅1902mm、全高1492mm。先代より60mm延長された2990mmのホイールベースがリアスペース拡大に寄与する。膝前は42mm広くなった。
ニューモデルは、眉毛が付いたフロントフェイスはもとより、厚いリアビューが独特だ。アッパーサルーン開発要件のひとつ、「じゅうぶんな容積のラゲッジルーム」を満たすため、ハイデッキスタイルが採られたが、盛り上がったブートリッドがリアとサイドパネルを視覚的に分かつ。両者は溶け合わない。プレス資料には「ウェッジシェイプからの決別」と謳われる。確保された荷室容量は500リッター(VDA法)。
室内は、シンプルで、新奇な印象を受ける。コンフォート関連の煩雑雑多な機能が、iDriveによって統合されたためである。
一方、分離された機能のかたわれ「ドライビング機能」は、ごくノーマルだ。運転に直接関係するシート、ステアリングホイール、ミラーの位置、そしてエアコンの基本的な調節には、ちゃんと(?)専用のスイッチやボタン、ダイヤルが備わる。メーターナセル内には、向かって右に回転計、左に速度計と、大きなアナログメーターが2つ並んでいる。
キーは、黒いプラスチックでできたマッチ箱のようなもの。「START STOP」と書かれた丸いボタンの横に差し、ボタンを押すとエンジンがかかる。
ステアリングコラムから生えたセレクトレバーは、電気的なスイッチにすぎない。6段オートマチックトランスミッションとは電気的に連絡をとる「シフトバイワイヤ」方式が採られた。正確にすばやくシフトでき、振動、ノイズの進入が少ないことが、メリットとして挙げられる。
パーキングブレーキは、インパネの端にある「P」と書かれたボタン。「ON」「OFF」のみならず、オートマチックホールド機構が備わる。これは、停車すると自動的にブレーキがかかり、走り出せば自然に解除されるもの。信号待ちや渋滞中などで、止まる度ブレーキペダルに足を載せないですむ。また、何らかの理由でブレーキペダルが踏めない場合、パーキングボタンを押し続ければブレーキをかけることができる。
以上、コクピットドリルを終わります。
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リアタイヤが近づく
南国の青緑にうねる海を見ながら、735iのステアリングホイールを握る。テスト車は、オプションの革内装が奢られる。
先代の735iより2.3mmストロークが延ばされ、84.0×81.2mmのボア×ストロークをもつ3.6リッターV8は、272ps/6200rpmの最高出力と36.7kgm/3700rpmの最大トルクを発生する。4カム32バルブのヘッドメカニズムをもち、ダブルVANOSによって吸排気双方のタイミングを、バルブトロニックによって同じくリフト量をコントロールする。マグネシウム製インテイクマニフォルドもまた、吸気管の長さが無段階に制御される。
“可変づくし”のハイテク8気筒だが、それでも静粛をもってよしとする高級車にあって、つねにエンジンの息吹を感じさせるのが、いかにもバイエルン発動機(Bayerische Motoren-Werke)のトップレンジである。スロットルバタフライではなく、バルブのリフト量を直接制御するため、レスポンスよく、軽やかに回る。3.6リッターの排気量を感じさせない。
6段ATには、シーケンシャルシフトを可能にするステップトロニックが搭載される。「ノーマル」ほか、シフトタイミングが変更され、スロットルレスポンスもより俊敏になる「スポーツ」、そしてステアリングホイールのボタンによってギアを変える「マニュアル」と、3つのモードが用意される。マニュアルモード用のシフトボタンは、ステアリングホイールの表と裏に設けられ、昨今のビーエム流に、押すとダウン、引くとアップとなる。加減速時のカラダの動きに合わせているわけだ。
とはいえ、眉間にシワ寄せカーブを攻めないのなら、わざわざ指先でギアを変えなくても、トランスミッションに任せて不満はない。ペダル操作に忠実で、シフトプログラムがよく考えられているから、「D」レンジのままでもじゅうぶん楽しい。
BMWのトップモデルがスポーティなのは驚くばかり。クルマに慣れるにしたがいリアタイヤがぐんぐん近づいてくる、感じ。ニースペースの拡大はともかく、依然としてアクティブなドライバーズカーである。そのうえ、ダンパーの減衰力を無段階に制御するEDC-Cを標準で装備するから、2トン近いウェイトと合わせ、アッパークラスのサルーンらしいライドコンフォートも兼ね備える。
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電子の夢
ワンボックスから女の子がわらわらと降りてきたと思ったら、いっせいにTシャツを脱ぎ始めた。「オッ!」と目をやると、もちろん彼女たちは水着を着ていて、今度はウェットスーツに足を通し始める。『NAVI』『webCG』共同取材班は、そんな“南の島の情景”を横目に、黙々と7シリーズの撮影を続ける。
細かいことだが、新型7のドアは、開けた任意の位置で止まる「無段階ドアストッパー」を備える。半ドアでも自動的に完全に閉めるソフトクローズ機能もある。トランクリッドは、キーもしくはリッドのボタンで自動開閉が可能だ。そのうえ、キーのボタンを押し続ければ、ロックが解除されるだけでなくすべての窓を全開にして、夏場の熱気を一気に追い出せる。……てなことを一通り試してカメラにおさめ、ふたたびドライバーズシートのヒトとなる。
iDriveにはすぐ慣れた。コントローラーに割り振られた機能は、12時方向から時計回りに、「電話」「オンボードコンピュータ」「ナビゲーションシステム」「ヘルプ」「オーディオ類」「iDriveの設定」「エアコン詳細」そして「BMW Assist」である。ディスプレイを見ながらコントローラーを回すことで機能、項目を選び、下に押せば選択できる。それだけだ。
おもしろいのは、ディスプレイからのフィードバックがあることで、たとえば選択項目の最後になると、コントローラーはそれ以上回されることに抵抗し、またリストを検索しているときは、ドクンドクンと掌に振動が伝わる。なんとも握りやすい大きさと形状なので、ついつい手が行く。もちろん、助手席からも操作できるから、ふたり同時に手を伸ばし、触れあった掌に「ハッ!」とする……、もしくはコントローラーの取り合いになって、力関係が明確になるかもしれない。
帰り道、すっかり握り慣れたコントローラーを北西の方向に軽く押して「BMW Assist」を、さらにオペレーターサービスを選んで、ハンズフリーマイクに試乗会場となったホテルの名を告げる。すると、オペレーターによってナビゲーションシステムが遠隔操作され、オートルートが設定される。あとは音声ガイドに従って走るだけ。お大尽な気分だ。
BMWの新しいハイエンドマシンは、エンジン、トランスミッション、サスペンション、スロットル、ブレーキといったハードウェアの電化が押し進められ、ヒトとのインターフェースもエレクトロニクスの時代にふさわしく一新された。バイエルンのエンジンメーカーがどん欲に電子制御技術を採り入れるのは、いうまでもなく各部コントロールの幅を広げ、安全、環境とバランスを取りながら、彼らが望む走りを手に入れるためである。ドライビングプレジャーを維持するための電子制御、という言い方もできる。
バイエルンの最新モデルに乗っていると、電子の夢を見る。ステアリングホイールの操作を電気信号に変えて前輪に伝えるテストも行われているというから、エンジン出力および各輪のブレーキを個別にコントロールするアンチスピンデバイス「DSC」と組み合わせ、たとえば東京のオペレーターに「ドリフト!」と叫べば、ハンドルはあらぬ方向に向き、リアタイヤからスモークをあげながらコーナリングすることも可能、なハズだ。さらに「素敵な女性!」と叫ぶと、ホログラフィーでバーチャル美女が投影され、贅沢なドライブの伴侶となってくれたりなんかして……。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎/2002年3月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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