フィアット・パンダプラス(2ペダル5MT)【試乗記】
人気の予感 2004.08.11 試乗記 フィアット・パンダプラス(2ペダル5MT) ……169万9950円 輸入車のエントリーカーとして息の長い人気を誇ってきた「フィアット・パンダ」。2003年にフルモデルチェンジした新型が、ようやく日本に上陸した。手頃なサイズ、シンプルだけど洒落っ気のあるデザイン、高い実用性といった特徴をもつ先代をニューモデルは超えたのか? 自動車ジャーナリストの生方聡が乗った。
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インテリアにグッときた
旧型に比べて全長で約12cm、全幅で約10cm大きくなった新型「パンダ」だが、それでも全長3535mm、全幅1590mm、全高1535mm(パンダプラスは1570mm)のボディは、「フォルクスワーゲン・ルポ」とほぼ同等、「シトロエンC2」より小さい。つまり、いまでもしっかりコンパクトなのだ。
旧型ほどではないにせよ、エクステリアは直線を基調としたデザインで、フロントマスクを含めて、「ややおとなしすぎるかなぁ」という印象だが、一方、インテリアは、さすがイタリア、さすがフィアットといえるほど、楽しい雰囲気に仕上がっている。
私が試乗したのは「グアカモーレグリーン」のボディカラーに「ムーブイエロー」のシートが組み合わされた、上級グレード「パンダプラス」だった。シートは色合いといい、表面のディンプル加工といい、直感的に「イイじゃん!」と思わせるパワーがある。そのうえ、シートのデキは見せかけだけではない。座ってみると表面に張りがあり、サイズもたっぷり確保された、実に快適なものだった。
センターパネルのレイアウトもシンプルで、決して高級感はないけれど、使いやすく、洒落たデザイン。それでいて“やりすぎ”て、デザインが鼻につくタイプでもない。
そして、一番のお気に入りは、パンダプラスに標準装着される「スカイドーム」。フロントが電動スライド、リアが固定のダブルサンルーフで、室内を明るく照らしてくれる。また、内側のサンシェードはシースルータイプなので、閉じてもうっすらと外が見え、開放的な雰囲気を損なうことがないのだ。
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AT免許でも乗れるけど……
そんな楽しい雰囲気に包まれながら、クルマを走らせてみよう。試乗会場が夏休みで賑わう、東京はお台場とあって、いつものように思い切り試乗することはできなかったが、それでもパンダの性格は見えてきた。
ノーズに収まるエンジンは、1240ccの直列4気筒SOHC。最高出力、最大トルクはそれぞれ60ps/5000rpm、10.4kgm/2500rpmと、数字の上では大したものじゃないが、車両重量960kgのボディを普通に発進させて、流れにまかせて走るには、不満のない性能を備えている。常用域である2000rpm付近のレスポンスもいいし、回せば4000rpmを超えてレブリミットの6500rpmあたりまで盛り上がりを見せる。
ただ、組み合わされるトランスミッションがちょっと惜しい。5段マニュアルをベースにクラッチ操作を省いた「デュアロジック」と呼ばれるシーケンシャルタイプで、自動変速モードも付与されるが、これに似た他のシステム同様、シフトアップ時に発生するタイムラグや一瞬失速するような動きに違和感をおぼえた。オーソドックスなオートマチックから乗り換えると戸惑うだろう。マニュアルに慣れたヒトなら、シフトアップの際にスロットルペダルをすこし戻すよう心がければ、さほど気にならなくなるはずだ。
普段使うにはもってこい
乗り心地はソフトな方で、ちょっとしたコーナーを曲がるときでもロールは大きい。とはいえ、挙動は安定しているし、それなりにフラット感もあるので、まあ実用コンパクトとしてバランスのよいセッティングといえる。快適さの点では、ロードノイズやエンジン音が大きいのだが、全体的には十分許容できるレベルに収まっている。
ということで、マイナスポイントもないわけではないが、それに優る魅力を備えているのがパンダである。妙に背伸びせず、コンパクトカーとしての本分をわきまえながら、楽しい雰囲気をつくりあげているところがいい。
そのうえ、リアシートやラゲッジルームも実用性を十分備え、運転席からの視界も良好。普段使うにはもってこいだ。このキャラクターなら、輸入車のエントリーモデルとして、日本でも再び人気が高まるのではないだろうか。
(文=生方聡/写真=峰昌宏/2004年8月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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