ジャガーXタイプエステート(5AT)【海外試乗記】
意外な狙い 2004.07.07 試乗記 ジャガーXタイプエステート(5AT) フォードグループ内のプレミアムブランドとして拡大路線を採るジャガー。ボリュームモデル「Xタイプ」に同社初のワゴンを用意して、さらなるシェア増大を目指す。自動車ジャーナリスト河村康彦が報告する。 拡大 |
拡大 |
2つのワゴン
“ベイビィ・ジャガー”こと「Xタイプ」のローンチ、兄貴分「Sタイプ」に同社初のディーゼルエンジン搭載車を追加……と、最近のジャガーの積極果敢な市場拡大策は、すっかり板についた感がある。ひと昔前には高額所得者ご用達(?)の高級モデル専門メーカーとして、高い敷居の向こうに存在していたのに……。
そんなリーピングキャットが、「ここまでやるとは!」と多くの人に思わせそうなのが、ここに取り上げるニューモデル、ジャガー初のステーションワゴンである「Xタイプエステート」である。
Xタイプサルーンのデビューが2001年のジュネーブショー。そのころ、「ジャガー社には2つのエステート案があった」と明かしてくれたのは、同社のデザイン担当取締役であるイアン・カラム氏だった。1979年にフォードに入社した後、90年からはTWRデザインのゼネラルマネージャー兼チーフデザイナーとしてアストンマーティン開発に携わり、さらに99年から現在の職を担う彼は、「実はXタイプとSタイプの双方でエステート案が検討されていた」と教えてくれた。
最終的にジャガー社の規模で2つのモデルを同時に手がけるのは荷が重いという判断から、まずはXタイプのエステートが生を受ける結果になった。が、それでも「Sタイプにはワゴンが不要という判断が下されたわけではない」という。事実、次期Sタイプでエステートが日の目を見る可能性はかなり高いそうだ。つけ加えれば、いまだにジャガーが静観を保つSUV市場に対しても、氏個人は「大いに興味がある」と語る……。
積めるワゴン
「メルセデスベンツCクラス」や「BMW 3シリーズ」、そして「アウディA4」といったライバルたちにワゴンボディが既に存在することを考えると、Xタイプエステートに幾ばくかの“出遅れ感”が漂うことは否定できない。そこで、「そうしたライバルにはない特色のアピール」という作戦が採られた。ジャガー社は、Xタイプエステートならではの特徴を、意外にも「クラス最高のカーゴスペース」に求めた。
“ジャガー”と耳にして、誰もがまずイメージする特徴。それはきっと、ライパルとは一線を画した「エレガントで美しいスタイリング」だろう。実際、ベースとされたXタイプサルーンは、そうしたスタンスでのクルマづくりが感じられる一台だ。
が、そんなサルーンから派生したエステートでは、興味深いことに、機能性に重きが置かれた。Xタイプエステートは、“積めるワゴン”を目指したのである。このクルマのキャラクターを理解する上で大きなポイントだ。
Xタイプエステートの第一印象は、僕が(勝手に)期待していたエレガンスのレベルには達していない、というものだった。が、そもそもジャガーが意図したものが、ぼくの期待とはちょっと異なる方向を向いていたのだ。
考えてみれば、ジャガーのサルーンたちのトランクスペースは、ライバルに比べるといずれもタイト。それゆえ「エステートでは誰にも負けない広い空間を」となっても不思議はない。そう理解すると、このクルマのデザインはとてもわかりやすくなる。
楽しみな一台
Xタイプエステートのハードウェアの印象、すなわち「走ってどうか?」というハナシになると、ズバリその答えは「同エンジンを搭載したサルーンとほとんど変わらない」。ダッシュボードまわりのデザインなどもサルーンの“生き写し”だから、一度乗り込んでしまえば「エステートを意識させられることはない」。
ちなみに、インテリアからの延長という雰囲気でつくり込まれたラゲッジルームの仕上がりは、「文句ナシ」のレベル。そしてまた、荷室のスペースが予想以上のボリュームを備えていることは……ここまで読み進んできてくれたアナタには、もう説明するまでもないだろう。
ボディの剛性感がサルーンと同等なので、快適性も遜色ない。しかし、フランスで開催された国際プレス試乗会に用意された18インチシューズを履く「Sport」グレードはさすがに少々硬かった。数値上ではサルーンのデータを凌ぐという静粛性は、“それ”が実感できるほどではないが、たしかに満足のいくレベル。いずれにしても、走りの印象に「エステートだから」という言い訳が必要になる部分はひとつもない。
日本仕様は、FWD(前輪駆動)シャシーを持つ2リッターと、フロントに40%、リアに60%のトルク配分を基本とするフルタイム4WDシステムを備える2.5リッター、いずれも革内装が奢られた「SE」グレードとなる。価格は、490.0万円と545.0万円である。
それにしても「“ジャガーのワゴン”を待ち望んでいる人はどのくらいいるのだろう?」。そんな好奇心を満足させてくれそうな点でも、2004年7月1日に日本でローンチされたXタイプエステートは、楽しみな一台だ。
(文=河村康彦/写真=ジャガージャパン/2004年7月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。





