三菱アウトランダー【開発者インタビュー】
時代に応える「上質」「安全」「環境」の三拍子 2012.12.14 試乗記 <開発者インタビュー>前 勝美さん
三菱自動車工業
商品戦略本部 C & D-seg商品開発プロジェクト マネージャー
強力なライバルひしめく国産SUV市場に、三菱が満を持して投入した新型「アウトランダー」。従来モデルからの進化の度合いと、そこに込められた開発者の思いを聞いた。
先代モデルから受け継いだところ、変えたところ
先代にあたる初代「三菱アウトランダー」が、「三菱自動車再生計画」の第1弾として登場したのは2005年10月。全世界で約66万台という、同社としては納得できる販売台数を記録した。
デビューから7年、“Leading the New Stage”をテーマに掲げた2代目が2012年10月に登場した。新型「アウトランダー」とはどんなクルマなのか。開発のまとめ役を務めた同社商品戦略本部C & D-seg商品開発プロジェクト マネージャーの前 勝美氏にお話をうかがった。
穏やかに、理路整然と話を進める前氏によれば、先代「アウトランダー」は良くも悪くも、ユーザーからの意見がはっきりしたモデルだったという。
――では、まずは「良くも」のほうからお聞かせください。
SUVらしからぬと申しましょうか、きびきびと走るスポーティーな操縦性が高く評価されました。3列シートの7人定員であることも、ミッドサイズSUVのライバルの中では強みでした。
――言いにくいかもしれませんが、「悪くも」のほうはどんな意見でしたか?
スポーティーなハンドリングは好評だったものの、この長所を得るために、失ったものもありました。少し乗り心地が硬すぎるという声があったのです。
こちらを立てればあちらが立たず、げにハンドリングと快適性の両立は難しい……。
――新型「アウトランダー」の担当に任命されたのはいつでしたか?
2009年11月です。以来、こうしたユーザーからの声をもとに開発コンセプトを定めました。具体的には、レーダーチャートでへこんでいた部分をふくらませることを考えました。
――とはいえ、先代の「アウトランダー」は、たくさんのライバルがいる中でそうした個性があったからこそスマッシュヒットを飛ばすことができたのではないでしょうか?
おっしゃる通りで、特徴があるからこそ先代を買ってくださったとの思いもあります。できるだけ長所は生かしつつ、バランスを整える方向でプロジェクトを進めました。新型「アウトランダー」が世に出る3年後の2012年の社会情勢を想像し、キーワードを「上質」「安全」「環境」の3つに定めました。
以下、このキーワードを用いながら、新型「アウトランダー」をさらに深く解説していただく。
“走り”と“カタチ”の両面から上質さを追求
まずは「上質」から語っていただく。
――上質なクルマと聞くとわかったような気になってしまいますが、具体的にはどのようなことでしょうか。
上質さを表現するのは、主に“走り”と“デザイン”のふたつだと考えています。先代は先ほどお話ししたように、すぱすぱ曲がるけれど少し乗り心地が悪い、という声が多くの方から寄せられました。一般に、きびきびした操縦性としなやかな乗り心地は両立できない、相反すると考えられています。けれども機能性を試験するグループと開発を進めるうちに、そうした常識を覆すことが可能だということがわかりました。
――常識を覆すにあたって、カギとなったことを教えてください。
特に車高の高いSUVの場合、ロールをすると不安に感じてしまいます。そこでロールを許さないセッティングにすると、今度はがちがちになってしまう。テストを重ねると、ロールはするけれど安定している、という領域が見つかりました。そこで、その領域に合わせたチューニングを施しています。
――試乗をさせていただきまして、「ロールはするけれど安定している」というお言葉は、確かに体感できました。
ぜひ、クルマや運転が好きな方に乗っていただきたいですね。みんなでワイワイでかけるミニバンを否定するつもりはありませんが、ドライバーはどうしても運転手になりがちです。一方、セダンは5人までしか乗れない。運転を楽しめる操縦性のよさを備えつつ、いざという時には3列目シートを使って7人乗れる。「アウトランダー」は、そんなオールマイティーなクルマに仕上がっています。静粛性や振動の少なさも、先代から乗り換えればすぐにわかっていただけるはずです。
――上質さを表現するもうひとつの要素であるデザインに関しては、「所有した時に価値が味わえる」ことがテーマだとうかがいました。
エクステリアだったらキャラクターラインやフェンダーのデザイン表現を控え目にしています。インテリアだったら樹脂パネルの分割線など、デザインの要素を減らしています。ノイジーではなくなった。狙いは、飽きのこない上質さ、スタンダードなデザインです。
そして前氏は、「こだわったのは形だけではないのです」と胸を張った。
――形以外のデザインへのこだわりとは、何を指すのでしょうか。
インストゥルメントパネルの上に手触りにすぐれたソフトパッドを敷いたり、見た目以上にさわり心地、使い心地に配慮したりしました。いいものを長く使っていただく喜びを味わっていただくためです。
強敵と伍して戦うために
2番目のキーワードである「安全」とは、具体的には予防安全技術「e-Assist」を搭載したことを指す。「e-Assist」は、ミリ波レーダーとカメラで構成される。フロントグリル内に収まるミリ波レーダーは前方の車両や障害物を検知、適度な車間を保ったまま追従する機能と、衝突の危険性がある時に自動ブレーキを働かせる機能を持つ。一方、フロントウィンドウ上部に備わるカメラは車線を捉え、そこからはみ出すと警告を発する。
――「e-Assist」のポイントは、これまで高価だとされてきたミリ波レーダーを採用したことだと思うのですが、いかがでしょう。
安全装備は、高いクルマだから付いている、ということではいけないと考えています。そこで、ミリ波レーダーの技術そのものは以前から存在しましたが、みなさんに「付けてもいいかな」と思っていただけるレベルの価格にすることにトライしました。
「24G」と、「e-Assist」が備わる「24G Safety Package」の価格差は9万5000円。そういえば、ステレオカメラを用いて同じような機能を実現しているスバルの「EyeSight」は10万円……。
――価格設定にあたっては、スバルを意識したのでしょうか。
もちろん、戦略的な価格にしたという面もあります。(笑)
ただ、ユーザーとしては、機能と価格の切磋琢磨(せっさたくま)は大歓迎だ。
そして3番目のキーワードが「環境」であるけれど、これについて前氏は「あまりお話しすることがないというか、ありすぎるというか」と苦笑した。
――それはつまり、細かい取り組みの集積ということですね。
これで燃費が劇的によくなった、という飛び道具があるわけではなく、エンジンとCVTのマッチングや「AS&G(オートストップ&ゴー=アイドリングストップ)」、それにグラム単位のボディー軽量化など、地道な努力を集めて目標値を達成したのです。だから細かくお話しすると、ものすごく長くなります。(笑)
JC08モード燃費は、2リッターのFFモデルが15.2km/リッター、2.4リッターの四駆モデルが14.4km/リッター。ともに50%のエコカー減税を受けることができる。
――燃費の目標は達成できましたか?
理想を言えばきりがありませんけれど、このクラスのトップレベルを達成したことは間違いありません。燃費も予防安全装備も、ライバル車との購入検討の第一関門は、余裕でクリアしているはずです。
前氏は明言しなかったけれど、これはスバル・フォレスターを意識した言葉だろう。ずっと穏やかだった前氏の口調が、最後にぴりりと引き締まったのが印象的だった。
(インタビューとまとめ=サトータケシ/写真=河野敦樹・webCG)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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