プジョー208アリュール(FF/5MT)/208GT(FF/6MT)【試乗記】
それでもMTで乗ってほしい 2013.01.08 試乗記 プジョー208アリュール(FF/5MT)/208GT(FF/6MT)……199万円/258万円
プジョーの最新コンパクトカー「208」シリーズに、1.2リッター直3の「アリュール」と1.6リッター直4ターボの「GT」が登場。ラインナップは3ドア・MTのみという、ちょっとマニアックな2グレードの魅力とは?
プジョーの英断
シトロエンやルノーが革新を好むのに対して、同じフランスのプジョーはドイツのブランドのような正常進化を得意としてきた。「205」から「206」、「207」と代を重ねるごとに数字を1ずつ増やしていく車名も、それを象徴しているようだ。でも「208」に関しては、このブランドとしては革命に近い内容ではないかという気がしている。
なにしろモデルチェンジなのにボディーが小さくなった。プラットフォームを前作207と共用し、ホイールベースも2540mmのままとしながら、全長は85mm短い3960mmと4m未満に戻し、全幅と全高も1740/1470mmと10mmずつコンパクトになっている。おかげで同じエンジン搭載車同士で約100kgものダイエットに成功した。
乗用車は商品でもあるから、新型の室内が旧型より狭くなったり、安全性で劣ったりすることは許されない。だからダウンサイジングを声高に叫ぶブランドさえ、ボディーまで小さくすることはまれだ。それを考えれば、207から208への進化は勇気ある決断と言える。
しかも同時に実施したエンジンのダウンサイジングでは、ただ排気量を減らしただけでなく、自社開発としては初の直列3気筒を、1.2リッターで導入している。
もっとも現時点では、この1.2リッターには日本で主流の2ペダルドライブの設定がないため、価格面を重視した3ドアの5段MTという仕様のみ。一方で売れ筋の5ドアは1.6リッターに4段ATの組み合わせという、207と共通のパワートレインになる。
セールスの現場にとっては歯がゆいラインナップかもしれない。でも3ドアやMTを受け入れ可能な自分にとっては、これこそベスト・オブ・208だった。
フランス車ならではのこだわり
実車を前にした208のサイズ感は、207より206に近い。とりわけ鼻の短さが際立つし、グラマラスだったフォルムはかなりスリムになった。でも魅力が薄れたわけじゃない。LEDポジションランプをまつ毛のように入れたヘッドランプや、ブーメランタイプのリアコンビランプなど、ディテールへのこだわりはさすがフランス生まれだ。
サイドに回ると、5ドアとの違いを発見する。ボディーサイドのえぐりはより明確だし、ウィンドウのモールは下半分だけで、後端は「205GTI」のリアクオーターに付いていたアクセントを連想させる処理になっている。その昔205GTIを所有していた自分は、この小技だけで3ドアにコロッといってしまいそうだけど、そうでなくても多くの人が、5ドアより凝ったデザインだと思うのではないだろうか。
208は運転席まわりも革新的だ。ステアリングが小径の楕円(だえん)で、メーターは遠くに置かれ、リムの外側から見るレイアウトになっている。でもポジションや操舵(そうだ)感に不自然なところはなく、小径ならではのスポーティーさだけを享受できる優れものだった。
室内空間は5ドアと同じ。身長170cmの自分が後席で楽に過ごせる。前席の作りは5ドアと共通。座面はふっかりとしているのに、左右はタイトにホールドし、背もたれはパシッと張っている。しかもブラックのファブリックにはブラウンのストライプを入れ、ステッチはブラウンとホワイトの2色使い。同クラスの国産車に、ここまで贅(ぜい)を尽くしたシートが付いているだろうか。ここだけでも208を買う価値があるというものだ。
そして新開発の3気筒エンジン。これがまた出色の出来だった。
ひとつ上をいく3気筒
キーをひねってしばらくの間、それが3気筒とは思えなかった。4気筒並みに静かで滑らかなアイドリングだったからだ。最近の3気筒は国産/輸入車問わずこの面の改善が著しいけれど、208は一段上をいく。初物なのにここまでハイレベルだとは。うれしい誤算だった。
1070kgという軽量ボディーのおかげで、82ps/12.0kgmでも不満のない加速を演じる。特に2000rpm周辺の粘り強いトルクがディーゼルっぽい。シフトレバーはストロークこそ長めだが、ゲート感は確実。ディーゼル車と同じように、トルクの山をつなぐようにポンポン変速して、押し出すような加速に身を委ねるのが心地いい。
2013年には同じ1.2リッターエンジンに2ペダルMTも用意されるようだが、これは絶対に「手漕(こ)ぎ」がお薦めだ。あえて3ペダルの状態で日本に持ってきたインポーターにお礼を言いたい気持ちにさえなった。
たとえ回しても4気筒のような盛り上がりはないし、3気筒っぽい低音中心のうなりは耳に届くものの、ザラついた音ではないので気にならない。3000rpm近くまで回る100km/h巡航は、4気筒に遜色ないノイズレベルで、別の試乗の際に車載燃費計をチェックしたら18.5km/リッターをマークした。
でもそんな上出来の3気筒エンジンさえ脇役にしてしまいそうなシャシーを、208アリュールは持ち合わせていた。
乗り心地は207より206に近い。つまりプジョーらしいしなやかさを取り戻している。特に軽くて力が控えめのエンジンを積むアリュールは、上級グレードよりマイルドなチューニングを施してあるようで、40-50km/hも出せば“ネコ足”を堪能できる。
良さをストレートに味わえる
プジョーらしさといえばもうひとつ、ステアリングを切った瞬間にノーズが真横にスッと動くような独特のターンインがある。こちらは同じ208の4気筒版に比べれば穏やかだが、旋回をはじめてからの身のこなしは逆に軽快だ。切れば切っただけ曲がってくれるという感触で、しかも粘り腰のグリップを持ち合わせているから、自然にペースが上がってしまう。
この日はもう一台の3ドア、1.6リッター直噴ターボエンジンに6段MTを組み合わせた「GT」にも乗った。156ps/24.5kgmを誇るだけあって、もちろん速くて余裕があり、身のこなしはさらに機敏。それでいて乗り心地は固めながらつらくないなど、名前のとおりグランドツーリングに最適のキャラクターに思えた。
でも2012年秋のパリモーターショーではさらに上を行く200psの「GTI」も発表されていて、輸入も検討中だそうだから、そちらを待つ手もアリじゃないだろうか。アリュールのみずみずしい走りを味わったあとでは、もう少し存在感が欲しいと感じたのも事実だ。
本音を言えば、当初から1.2リッターと2ペダルドライブの組み合わせを売りたかったと、インポーターは思っているだろう。でもクルマ好きの目線で見れば、ここまで欧州での売れ線に近い仕様を買えるのは、奇跡的でさえある。素の状態に近いからこそ、208というクルマの良さをストレートに味わえる。フランス車の根源的な魅力を、最も分かりやすい形で教えてくれる一台と言えるかもしれない。
(文=森口将之/写真=向後一宏)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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