ルノー・メガーヌ エステートGT(FF/6MT)【試乗記】
希少な“本場の味” 2012.09.06 試乗記 ルノー・メガーヌ エステートGT(FF/6MT)……315万円
「ルノー・メガーヌ」シリーズのスポーティーなワゴンモデル、「エステートGT」が日本上陸。その走りは? そして乗り心地は?
マニアックなワゴン
ボディーはステーションワゴンで、180psの2リッター直列4気筒ターボに6MTの組み合わせ、ハンドル位置は左ハンドルのみの設定で、サスペンションはルノー・スポールがチューニング……。
「ルノー・メガーヌ エステートGT」のスペックを知った時の第一印象は、みなさんと同じだ。「マニアックなやつ入れるなぁ」と思った。日本人の舌に合わせて味を変えたりしない、本場の味だ。
そういえばグルメ雑誌を読むと、本場の味をそのまま出すお店のポイントが高いという印象がある。たとえば「フランクフルトの屋台で食べたのと同じ味のソーセージ」とか、「韓国の家庭の食卓に並ぶオモニの味」とか。エンスーとグルメは、日本人の舌に合わせない本場の味が大好物だ。
で、オートマだとか右ハンドルだとか、日本人の好みに合わせることなく本場の味を貫いた「ルノー・メガーヌ エステートGT」に乗り込む。
フロントシートに腰掛けてインテリアを見まわすと、300万円超級のモデルにしては殺風景なことに気付く。メガーヌは実用車だからそれでまったく問題はないけれど、ピカピカ光らせて高く見せようという色気が感じられない。工夫らしい工夫はタコメーターの盤面を白くしたぐらいか。
けれどもよくよく見ると、手をかけることにはこだわっているのがわかる。
おとなしい速さ
ルノー・スポールが開発を手がけた運転席シートは自分の体の形にしっとりと沈みこんで、ホールドしてくれる。エンジンを始動しようとしてクラッチペダルを踏むと、靴底に伝わる感触がクールだ。確認すると、ペダルはアルミ製だった。
エンジンをスタートする前から、どこにお金をかけるのかをはっきり割り切ったモデルだということがわかる。
仕切り直しでエンジンスタート。適度な踏み応えのクラッチペダルはミートポイントがわかりやすく、アイドル回転のままクラッチをつなぐのも造作ない。そこからぐいぐいと加速する力強さは、1200rpmという低回転域から作動するロープレッシャー(低圧)ターボの手柄だろう。回転計の針が2000rpmを割ってもそこから文句を言わずに速度を上げる太っ腹な性格は、「GT」という名前にふさわしい。
ちなみに、30.6kgmというこのクラスとしてはぶっとい最大トルクは2250rpmとかなり低い回転域で発生するから、市街地を流す時には早め早めにぽんぽんぽんとシフトアップする運転スタイルとなる。
早めにシフトアップするのは、回してもカーンと突き抜ける快音を発するわけではないという理由もある。エンジンをブン回せばもちろん速いけれど、誤解を恐れずに言えばそれだけ。エンジンは「ムー、ムー、ムー」とくぐもった音を発するだけだし、低い回転域からパワーもトルクも出ているので高回転域でのドラマチックな展開がない。
おとなしいのに速い“むっつりスケベ”型エンジンで、若い読者の方はご存じないでしょうが、90年代前半の「ルノー21ターボ」を思い出した。ほぼ同時期の「アルピーヌV6ターボ」もこんな感じでまったり速かった。
GTの名にウソはない
乗り心地は相当にいい。タウンスピードからハイスピードまで、しっとり路面に吸い付く感じが変わらない。
「ルノー・メガーヌ エステートGT」は、「ルノー・メガーヌGTライン」(ハッチバック)からホイールベースが60mm延びていて、車高も130mm高い。それでも変わらないコーナリング特性を得るために、足まわりが固められている。具体的には、バネのレートでフロントが10%、リアが6%ほど高くなっている。それでいながらこの乗り心地を実現したルノー・スポールのチューニング、お見事!
そしてひとたびワインディングロードに足を踏み入れれば、シュアな足取りを見せてくれる。適度な重さのステアリングホイールを操作してコーナーに侵入すると、入り口では後方の長い荷室の存在を忘れてしまうぐらい素直に向きを変える。
コーナリング中のロール(横傾き)は決して少なくない。けれども前後のサスペンションがバランスよく沈み込んで、きれいなフォームでコーナーをクリアする。
FR車のような「カキン、コキン」というダイレクト感はないけれど、6MTのシフトゲートは東西南北どの方向の移動量も適切で、作動もスムーズだ。しんなりした乗り味に身を任せ、この6MTでむっつりスケベなエンジンと遊んでいると、いつまでもどこまでも運転していたくなる。BOSEのサウンドシステムも長旅のお供にぴったりで、まさに本場の「GT(グラン・ツーリズモ)」だ。
ただし、本場の味ゆえに日本人の舌に合わない部分もある。例えば鋭い突起状の不整に弱い。首都高速の段差を乗り越える時などは、想像よりはるかにキツい「どすん」というショックが襲う。洗濯板状の不整路面も苦手で、どったんばったんする。
いずれも、ほかの場面での乗り心地がいいから特に目立つ。
ここまでお読みいただいて興味をお持ちいただいた方には残念なお知らせ。限定60台はほぼ完売で、各地のディーラーに何台かが残っているかどうかだという。すでに激レア車決定なのだ。
5年後か10年後、『エンスーの杜』とかで深夜にこのクルマを見つけて、かなり興奮している自分の姿が今から想像できる。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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