第154回:都心でレーシングカーがドライブできる!? 「東京バーチャルサーキット」体験記【Movie】
2012.07.17 エディターから一言第154回:都心でレーシングカーがドライブできる!?「東京バーチャルサーキット」体験記【Movie】
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世界で5台、プロ御用達のマシン
東京のど真ん中、港区は赤坂にサーキットができた! 本当といえば本当、ウソといえばウソ。なぜならそれは、ドライビングシミュレーターを使った“バーチャルなサーキット”だからである。
バーチャルだからといって、侮ってはいけない。これは世界にまだ5台しかない本格シミュレーターで、TDP(トヨタ・ヤング・ドライバーズ・プログラム)もトレーニング用として正式に採用。次世代を担う若手ドライバーたちが、レース村から東京・赤坂に通うほどの、実戦的な高性能シミュレーターなのである。
これを導入したのは、株式会社ユークス。格闘系のゲームを中心にソフト開発を行うメーカーとして有名だが、その代表取締役である谷口行規さんは2010年の世界ツーリングカー選手権(WTCC)日本ラウンドで、日本人初のインディペンデントクラス最上位、クラス優勝を飾ったほどのドライバーでもある。いまの本業が生粋のバーチャルワールドであるだけに、その効果や面白さを、いち早く理解することができたのだろう。
さて、僕らにとって、いま一番身近なドライビングシミュレーターといえるのは、やっぱりプレイステーションの『グランツーリスモ』シリーズだろう。
果たして「それとは何が違うの?」と問われれば、答えは「とても似てるけど、まったく違う」となる。
画面は180度の視界をカバーするフルスクリーンタイプで、筐体(きょうたい)はなんと、2008年シーズンのF1マシン、「レッドブル RB4」を模したもの。足元の操作は、クラッチレスの2ペダル式で、結構幅広なブレーキペダル付いていた。小さなカーボン製のステアリングにはシフトアップ/ダウン用のパドルと、レブリミットを知らせるLEDインジケーター。一切のGがかからないところはプレステと同じで、それゆえ、シートのフィッティングやシートベルトによる体の固定は、あまり意識されなかった。
最初に試したのは、F1を目指すヤングドライバーたちの登竜門である「GP2」だ。ちなみにマシン(というか走行モード)は、フォーミュラカーが5種類(新型GP2、旧型GP2、F3、フォーミュラ・ルノー2.0、ワールドシリーズbyルノー)、ツーリングカーが3種類(GT1とGT2のアストン・マーティン、アウディR8 GT3 LMS)が用意されている。
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コースについては、世界70カ所のサーキットのデータがインストールされており、今回は鈴鹿サーキットを選んだ。もし本物のGP2に試乗するのなら絶対鈴鹿は選ばないだろうけれど、そこはバーチャルのよいところ。世界屈指の難コースを思いっきり攻めて、クラッシュしたところでまったく怒られないのだから……これはもう、行くしかないでしょう!
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着替えとタオルは必需品!?
かなり前置きが長くなったが、ようやくコースイン。画面は鈴鹿のピット内からスタートした。スピーカーからはプルプルとアイドリングが聞こえてくる。手元のパドルで1速を選択、アクセルを踏み込むとマシンはするする走りだした。
見慣れたピットレーンの風景が、とても忠実にデジタル描写されている。ちょっと不思議な感覚だ。
ステアリングを切り込むと、グッと手応えが増す。なんでもそのキックバックはフォーミュラ・ニッポンより少し軽い程度で、ほとんどのフォーミュラマシンをカバーできるリアルな重さなのだという。
事前に砂子智彦インストラクター(元レーシングドライバーの砂子塾長と言えば分かる方も多いと思う)が、デモ走行で見せてくれた走りを思い出す。ダウンフォースが発生するGP2は、鈴鹿名物である難しい1コーナーに、なんとノーブレーキで進入する。S字はアクセルコントロール、ヘアピンは1速までシフトダウン。そして恐怖の130Rは……全開!!
とはいえ、一般のドライバーとレーシングドライバーとで、体感上の一番大きな違いとなる「縦G」「横G」は一切ないから、理屈のうえでは、砂子塾長の操作を完全にコピーできれば、同じ走りができるはず。鈴鹿を走った経験も少しはあることだし、ここはひとつ割り切って、テレビゲームを攻略するつもりで走れば……。
まったく、何ともならないのだった。
アクセルを踏み込むと、激しく高まるエンジンサウンド。景色の流れ方も急激に速くなり、路面のアンジュレーションにステアリングが揺さぶられる。
レコードラインをトレースするどころか、コース内にとどまることさえできなかった。不用意にアクセルを踏み込むと、マシンはいとも簡単にスピンする。少しでもコースをはずれて、芝生にはみ出たところでスロットルを開ければ、またスピン。コースへ戻ろうとしてまたスピン。スピン、スピン、スピン! なのである。
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もちろん、実車のドライビングと違ってGが発生しないから、視覚とキックバックだけを頼りに運転しなければならない難しさはある。しかも、タイヤはある程度走って熱を入れないとグリップするようにならないという、リアルなおまけ付き。何とかスピンしないようにと、ステアリングホイールを握る手に力を入れるたびに、どっと汗が吹き出してくる。
そういえば事前に「着替えを持ってきてくださいね」と言われていたっけ……。人にもよると思うが、かなり“入り込むタイプ”の筆者は、すっかり汗だくになってしまった。
■「東京バーチャルサーキット」走行シーン(1):鈴鹿サーキット編
運転上達のレクチャーも
砂子塾長によれば「Fポン(=フォーミュラ・ニッポン)の現役ドライバーでも、初めてなら10周は走らないと慣れない」という話だが、筆者は、計測を始めて5周も走らないうちに息が上がってしまった。
コースアウトしないで一周したので精いっぱい、その時点でへとへとになってしまったのである。
その利用料金は、30分で1万円。ちょっと高く感じるかもしれないが、最初は友達と15分ずつ走っても、十分なボリュームだと思う。レンタル式のカートをドライブしたら、10分程度でもうヘトヘト……という経験をされたことはないだろうか? 肉体的には、それにとても近い。
気を取り直して2回目はGT2仕様のアストン・マーティンに挑戦した。少しはカッコもつけたいから、コースは慣れ親しんだ富士スピードウェイを選んだ。フォーミュラカーに比べてツーリングカーははるかに運転しやすく、タイムも1分45秒と、砂子塾長の約3秒落ち。その後はデータロガーグラフによるレクチャーを受けた。
砂子塾長が走ったことのあるコースに関しては、そのデータと見比べて、ブレーキの踏力や、ステアリング舵角(だかく)、アクセルの開度などをチェックしながら、走り方のコツを細かく教えてもらえる。
筆者の場合は、「Aコーナーや100Rといった高速セクションでは同じように走れているのに、ダンロップコーナー以降のテクニカルセクションで差が付きすぎ。ブレーキに頼りすぎているから。もっと荷重移動だけで走るようにした方がいい」などと指導してもらった。
「その反省を生かして……おかわり!」とお願いしてみたが、あいにく他の予約が入っていたため、今回はこれにて終了。実はこの日、取材の前にも2人のお客さんが汗をかいていた。そのくらい、このシミュレーターは人気があるのだ。
なめていたつもりは毛頭ないけれど、なかなか厳しい洗礼だった。それでもやはり、砂子塾長のお薦めはGP2だという。そのわけは?
「センチ単位でのドライビングができるようになってほしい。それにはやっぱり、シビアな操作が求められるフォーミュラで鍛えるのがいいね」
ちなみにいま一番多い利用者は、筆者のように、趣味でサーキット走向を楽しむサンデーレーサー。そして次に多いのが、一般のレースファン。憧れのF1ドライバーたちが、どんな世界でマシンをドライブしているのか知りたくて“走りに来る”のだという。
実物を走らせようものなら大変なコストがかかるフォーミュラカーやレーシングカーを疑似体験できるのは、本当に刺激的だ。コースアウトしてもマシンが壊れず、タイヤ代もガソリン代も不要というのも素晴らしい!
大まじめでも遊びでも、どちらでもいいと思う。ただし「飲んだ後にゲーセン感覚で……」というのはお勧めしない。あまりにリアルだから、確実に酔います。
あと、くれぐれもタオルと着替えはお忘れなく!
■「東京バーチャルサーキット」走行シーン(2):富士スピードウェイ編
(文=山田弘樹/写真と動画=webCG)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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