マツダ・アテンザ【試乗記】
スカッとしている 2002.08.12 試乗記 マツダ・アテンザ マツダファン待望のニューモデル「アテンザ」が、2002年5月20日にデビューした。ワールドカーのハコネ試乗会に参加した自動車ライター下野康史が感心した点と、気になったところとは? 会員コンテンツ「Contributions」から再録。第一印象
ファミリーカーのスポットライトが、ミニバン系の“ハイトなワゴン”に当たるようになって久しい。売れているフィットやカローラやマーチだって、天井を高くしてルーミーにするというミニバンの素養を取り入れたからこその成功だとみて間違いはないだろう。
しかしその法則は、なぜか輸入車には当てはまらない。BMWの「3シリーズ」や「5シリーズ」は相変わらず中流階級のステイタスで、メルセデスも、「Cクラス」や「Eクラス」の人気は堅調だ。むしろ冴えないのは、トールボーイの「Aクラス」である。
「いったいなぜなんだ。ドイツ車では“イケてる”セダンが、日本車ではなぜだめなのか、ということを、まじめなマツダの開発者はさぞや真剣に考えたんだろうなあ……」。それがアテンザの第一印象だった。
力がぬけてしまう
最初に乗ったは2.3リッターのセダン。バブル期の名作、「ユーノス500」をサイボーグにしたようなシャープなフロントマスクは独特だが、リアピラーまわりには、一転、Cクラスを思わせる“張り”がある。
だが、乗り込んで、ドアを閉めると、その音がちょっと安っぽい。ドア閉め音というのは、ショールームアピールの王様なのだから、もうちょっとしっかりやりゃあいいのに。仮想敵の半値に近いお値段とはいえ。
試乗車は薄いブラウンとベージュのツートーンという明るい内装だった。それはいいけど、でも、ダッシュボード中央部のチタン風樹脂パネルとは色合いの相性がよくない。その次に乗った「23S」のブラック内装とは合っていたが。
このクラスの国産車としては珍しく、レバーでキコキコやる式のシートリフターがついている。親切な装備だ。けれども、上げるときの操作力がかなり重い。「なにか“最後の詰め”が甘いんじゃないの?」という印象は、しかし走り出すと消え去った。
乗り味がスカッとしている。贅肉感がない。“プレーン”と言ってもいい。ひとくちに、非常にマツダらしいセダンである。なかでも「さすがマツダだなあ」と思ったのは、ハンドリングのよさで、スポーツセダンというほど蛮カラではないが、山道でも十分楽しめる。オプションのDSCはおっせかいに過ぎないし、ブレーキもしっかりしている。走り始めた直後は、意外にパワーがないなと思ったが、それはたぶん、直前に乗っていたのが6リッターV12のメルセデス「Sクラス」だったからだ。次に乗った5ドアの「23S」のほうが、プラス50kgの車重にもかかわらず活発な気がしたから、われながら自分の感覚はあてにならないと思う。
芦ノ湖スカイラインのみという限られた試乗で、いちばん気になったのは、4段ATをシーケンシャルのマニュアルモードで変速する際の“方向”だ。セレクターを手前に引いて「シフトアップ」、向こうへ押して「ダウン」というのは、これまでのマツダ車とは逆になった。
改悪だと思う。これから加速しようってときは、やっぱりが手前に引きつける動きが正解でしょう。向こうに押したら、力が抜けてしまう。実はBMWのステップトロニックも、最近、これとまったく同じ変更をした。動的性能のベンチマークは2リッター4気筒のBMW318iだったそうだが、そんなところまで倣ってしまったのだろうか。
(文=下野康史/2002年6月)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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