スズキ・ジムニーXC(4AT)【ブリーフテスト】
スズキ・ジムニーXC(4AT) 2002.01.17 試乗記 総合評価……★★★ ……148.5万円深底ナベ
スズキ・ジムニーは、レストランで使われる業務用フライパンやら深底ナベのようなものだ。素っ気ないが、酷使に耐える。車史を振り返ると、排気量とボディの拡大に合わせて、4ストローク化、パワステの装備、ATの導入、リーフからコイルスプリングへとソフトな性格にすこしずつ移行しているが、時代の軟弱化はジムニーの変化を追い越してあまりある。「ラダーフレーム+前後リジッド+パートタイム4WD」のジムニーは、相対的にそうとう本格派。
小柄なドライバーズシートに腰を下ろすと、視界のいい大きなグラスエリア、車両感覚を掴みやすい四角いボンネットが、いかにもプロの道具っぽい。ATシフターの後ろに控える「2WD-4WD切り替え」のためのトランスファーレバーが頼もしい。2H-4H間なら、走行中(80km/h以下)のチェンジも可能だ。
ジムニー唯一のパワーソースとなった3気筒ターボは、3000rpm付近から明確な過給感をともなって990kgのボディを押し出す。意外と、速いヨ! ただし前後車軸式のサスペンションゆえ、乗り心地は、あまたある街乗りヨンクと比較するといかにも武骨。乗員は、ことあるごとに前後左右上下に揺すられる。それをして、"プロの味"と楽しめるヒトにはいいかもしれない。深底ナベの重さにプライドを感じるのと同じだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1970年春、2ストロークエンジンを積んだ軽自動車初の本格クロカンとして登場。86年1月に4ストローク化、90年には軽の規格改定によりエンジンが550ccから660cc3気筒に拡大された。2スト時代の「山間地の実用モデル」といった性格から、「パワステ」「オートマ」、そして板バネから「コイルスプリング」の採用と、徐々にアーバン化。現行モデルは、98年の軽規格改定にあわせてデビューしたもの。ラダーフレームに前後3リンクのリジッドサス、パートタイム4WDという基本構成は従来通り。全車0.66リッター直3ツインカムターボを搭載する。ソフトな外観の2駆モデル「J2」もラインナップされる。
(グレード概要)
ジムニーの基幹グレードは、ベーシックな「XG」と上級版「XC」の2種類。パートタイム4WD、0.66リッター直3ターボに5MTまたは4ATが組み合わされる構成に違いはない。XCはアルミホイールが標準、UVカットガラス(フロントドア)やスモークガラス(ウォーター、リア)、ルーフレール、ハロゲンフォグランプを備え、2スピーカーのカセットステレオといったオーディオ類も搭載される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
シャレ気皆無のビジネスライクなインパネまわり。それでも、カーオーディオ、パワーウィンドウ、電動ミラー(折り畳みは手動)、リアワイパーと、ひと揃いの文化的装備は備わる。ボンネットのオープナーが、グローブボックス内にあるのは、かつて幌型ボディが標準であったころのなごり。ただし、いまはハートップボディのみだ。
(前席)……★★★★
シート自体は小柄だが、座面、シートバックの窪みに体が“はまる”感じ。微妙に体を支えてくれる。高い着座位置、大きなグラスエリアゆえ、前、左右とも見晴らしがよく、四角いボンネットが明確に車幅を示す。プロの道具としてあらまほしきドライバーズシート。両サイドの見やすく大きなミラーが頼もしい。
(後席)……★★
前席背もたれを倒すしかないので、乗り込みに一苦労する後席。シートのサイズは小ぶり。左右からストラットタワーが車内に張り出すが、上手に「小物入れ」「カップホルダー」として活用している。足もとはさすがに狭いが、前席シート下に足先を入れられることと、バックレストをリクライニングできるので、大人2人用として実用に足る。リアウィンドウははめ殺しながら面積が広いため閉塞感はない。路面からの突き上げはそれなりのものがあるので、長時間乗車はツラかろう。
(荷室)……★
片開きのリアゲイトは、ちょっと贅沢にダンパー付き。シューッと開く。ラゲッジルームは、床面最大幅92cm、奥行き35cm、天井までの高さ85cmとミニマム。リアシートが分割可倒式かつ簡単にダブルフォールディングできるので、4人乗車をあきらめれば荷車として使うことも可能だ。荷室フロアとバックレスト裏はフラットにはならないが、奥行きは90cmに延長される。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
3000rpm付近から明確な過給感がある3気筒ツインカム4バルブターボ。インタークーラーを備えたオールアルミユニットだ。最高出力64ps/6500rpm、最大トルク10.8kgm/3500rpmを発生、990kgのボディに過不足ない動力性能を提供する。4500rpmを越えるとさすがにウルサクなるが、街なかを普通に走るぶんには問題ない。なお、2WD時には、前輪がドライブシャフトから切り離され、騒音、振動に配慮される。平成12年度基準排出ガス25%低減レベルを実現。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
前後リジッドの足まわりは、いわゆるアーバンヨンクと比較するとさすがにハード。乗員は頻繁に左右に揺すられ、ポンポンと跳ねるような乗り心地。前後ともシートのクッションが厚めなため、大分助けられてはいるが……。ジムニーは、プロフェッショナルの道具だということをキモに銘じて乗るべきかも。高速では存外フラットな乗り心地。最小回転半径は4.8mと小さい。ステアリングは軽く、ロック・トゥ・ロック=4回転とスロウなので、狭く細かい路地ではクルクルと回しながら運転することになる。
(写真=難波ケンジ)
【テストデータ】
報告者:webCG青木禎之
テスト日:2002年1月15日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2001年型
テスト車の走行距離:6230km
タイヤ:(前)175/80R16 91Q M+S/(後)同じ(いずれもファルケンRV)
オプション装備:−−
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(6)
テスト距離:224.3km
使用燃料:26.0リッター
参考燃費:8.6km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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