三菱ミラージュ プロトタイプ(FF/CVT)【試乗記】
100万円ちょっとの賢い選択 2012.06.11 試乗記 三菱ミラージュ プロトタイプ(FF/CVT)三菱自動車が10年ぶりに投入する新作コンパクトカー「ミラージュ」はメイド・イン・タイランド。8月末に発売される日本仕様のプロトタイプにチョイ乗りするとともに、ベストセラーの「ホンダ・フィット」との違いも考えてみた。
10年ぶりの復活
「三菱ミラージュを試乗してもらえませんか?」。webCG編集部の竹下さんからメールが届いた時、正直、かなりとまどった。筆者は故あって中国の自動車産業を長年ウオッチしており、webCGでは北京モーターショーのリポートを書かせてもらったことがある。しかし、いわゆるモータージャーナリストではない。もちろんクルマは運転するが、「試乗記」なんて書いた経験がないのだ。
真意を測りかねていると、竹下さんが事情を説明してくれた。8月に発売予定の新型ミラージュは、タイの工場で生産され日本に輸入される。今回試乗できるのは日本仕様のプロトタイプで、量産モデルでは一部の装備やセッティングが変更される可能性がある。さらに、試乗会はホテルの駐車場で行われるため、できるのはチョイ乗り程度。公道のワインディングに持ち出してパワーやハンドリングを試すような本格的な試乗は望むべくもない。
ならばいっそ、「日産マーチ」に続いてタイ製となったミラージュが日本市場でどこまで通用しそうか、産業ウオッチャーの視点で記事を書いてほしいというのが竹下さんの要望。しかも、日本のコンパクトカーのベストセラーでありメイド・イン・ジャパンの「ホンダ・フィット」を比較対象として用意してくれるという。なるほど、それなら筆者にもできそうだし、面白そうだ。そう考えてお引き受けし、フィットを駆って試乗会場の大磯プリンスホテルに向かった。
前置きが長くなったが、ミラージュは三菱自動車が「コルト」の後継として実に10年ぶりに投入する新作コンパクトカーである。年齢が40代半ば以上のクルマ好きなら、その車名に懐かしさを覚えるだろう。1978年に登場した初代ミラージュは直線基調のスタイリッシュなデザインのハッチバックで、80年代は三菱を代表する小型車だった。しかし、90年代以降は次第に影が薄くなり、2002年にいったん消滅してしまう。新型ミラージュは車名も10年ぶりの復活なのだ。
売り物は「安さ」と「軽さ」
6代目となる新型ミラージュのボディーサイズは全長×全幅×全高=3710×1665×1490mmとコンパクト。日本仕様のパワートレインは、1リッター直列3気筒エンジンにジヤトコ製の副変速機付きCVTの組み合わせのみ。ちなみに、初代ミラージュの全長は3790mmと新型より80mmも長く、発表当初エンジンは1.2と1.4リッターの直列4気筒を搭載していた。当時の競合車は「ホンダ・シビック」や「マツダ・ファミリア」などのハッチバックで、車格的には一つ上のクラスだった。その意味で、6代目は車名は同じでもまったく別物のクルマと言っていい。
日本のコンパクトカー市場には、前出のフィットやマーチに加え、「トヨタ・ヴィッツ」「マツダ・デミオ」「スズキ・スイフト」などのつわものがひしめいている。これらのライバルに対する優位点を明確にアピールできなければ、市場で存在感を示すのは難しい。では、ミラージュのアドバンテージは一体どこか。その答えはずばり「安さ」と「軽さ」の両立である。
ミラージュは商品企画の段階から人件費の安いタイで生産することを前提に開発し、基本性能や安全性を犠牲にすることなくコストダウンを図った。日本仕様の価格はCVT、アイドリングストップ機構、横滑り防止装置の3点セットを全車に標準装備しながら、最廉価グレードで100万円を切る予定だ。日本製のライバルにこの3点セットを付けると軽く130万円を超えてしまう。一方、同じタイ製のマーチの最廉価グレードは100万円を上回り、アイドリングストップ機構や横滑り防止装置は付かない(ただしエンジンは1.2リッター)。こうした点で、ミラージュのお買い得感はかなり高いと言えそうだ。
そして特筆すべきなのが、この価格でライバルより100kg近く軽い車重を実現したことである。今回の試乗車はプロトタイプで車重は非公表だが、商品企画を担当した岩田達・グローバルスモールプロジェクト推進本部担当部長によれば、重量面で不利な3点セットを装備しながら「900kgを大幅に切る」という。
クルマの場合、一般的に「安さ」と「軽さ」は反比例する。現代の厳しい衝突安全基準をクリアしつつ車重を軽くするには、高張力鋼板のような高価な素材を多用するのが早道。だが、それではコストが上がってしまう。しかも企画段階では、新興国のタイには「加工が難しい高張力鋼板を高い精度でプレスする技術や、そのための設備がほとんどなかった」(岩田部長)。三菱の開発チームは難題を知恵と努力で克服し、ライバルより安くて軽いミラージュを生み出したのだ。
30万円の差をどう考えるか
車重が軽ければ燃費も当然良くなる。量産モデルではJC08モードで27.2km/リッターと、国内のガソリンエンジン車(軽を除く)でトップの燃費を目指しているという。とはいえ、安くて燃費が良ければ売れるとは限らないのがクルマという商品の難しさ。ミラージュのスタイリングは、デミオやスイフトのような一目でそれと分かる個性には欠ける。内装のデザインはクリーンで好感が持てるし、樹脂などの素材の質感も十分。タイ製のデメリットはまったく感じない。しかし、価格を超えた高級感があるわけではない。
室内は大人4人に十分なスペースが確保されている。それでも、モノスペースに近いフィットのような広々感は望めない。3気筒エンジンからはアイドリング時にはプルプルという微振動が伝わり、アクセルを一気に踏み込むと2500回転以上ではガサツな排気音が盛大に車内に響き渡る。駐車場でのチョイ乗り程度では、ハンドリングについては何とも言えない。一方、価格を考えれば乗り心地は快適で、ブレーキにはかっちりとした剛性感があった。おそらくこの辺が軽量化の成果なのだろう。
コンパクトカーとして必要十分な基本性能と安全性があれば、価格はなるべく安い方がいいと考えるドライバーには、ミラージュは魅力的なチョイスになり得る。しかしコンパクトカーにもプラスアルファの居住性、静音性、高級感などの付加価値を求める向きには、あまり魅力が感じられないかもしれない。あとは、30万円程度の価格差をどう考えるかだ。ありていに言って、コンパクトカーの新車の本体価格に130万円かけても気にならない人は、フィットの売れ筋グレードを買っておけば間違いないと思う。しかし予算が100万円ちょっとなら、アイドリングストップ機構も横滑り防止装置も付かないライバルの最廉価グレードよりも、ミラージュの方が賢い選択ではないか。
試乗会からの帰り道、そんなことを考えながらフィットを走らせていたら、急に「はっ」と気がついた。パッケージングや付加価値を除いた純粋なハードウエアとして見れば、タイ製のミラージュは日本製のフィットにまったく劣っていなかったと。逆に言えば、日本向けのフィットをタイや中国で生産する場合のハードルは、技術的にはもうほとんどないはずだ。あとはメーカーの戦略と決断次第。「コンパクトカーはアジア製」が常識になる日が、もうすぐそこに迫っているのかもしれない。
(文=岩村宏水/写真=小林俊樹)
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岩村 宏水
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