ランドローバー・レンジローバー イヴォーク クーペ ダイナミック(4WD/6AT)【試乗記】
見ても乗っても新しい 2012.05.28 試乗記 ランドローバー・レンジローバー イヴォーク クーペ ダイナミック(4WD/6AT)……640万円
レンジローバーブランドから生まれた、スタイリッシュな新型SUV「イヴォーク」。中でも個性的な3ドアモデルに乗って、その仕上がりを確かめた。
かつてないランドローバー
「これがランドローバーか!?」と驚くくらいスタイリッシュでオシャレな路線に踏み出したのが、「レンジローバー イヴォーク」である。欧州でのデビューイベントは、雑誌『VOGUE』とのコラボレーションだった。
中でも“クーペ”は、コンセプトカーから生まれた「イヴォーク」のオリジナルデザインともいうべき3ドアモデル。後ろ下がりのチョップトップ風ルーフがいっそう際立つ。
試乗車の“ダイナミック”はシリーズで唯一、20インチホイールを標準装備するトップモデルで、イヴォークの本命と言っていいだろう。クーペであれ、5ドアであれ、このデザインはやはり大径の20インチホイールでこそ完成すると思う。しかし、「SUVのクーペ」というかつてないコンセプトはさすがに敷居が高いらしく、日本では8割以上の人が5ドアを選んでいるという。
もうひとつ、イヴォークのエポックメイキングな点は、そのパワーユニットだ。
かつて資本関係にあったフォードの直噴2リッター4気筒「エコブースト」と基本を同じくするエンジンを搭載する。同等の出力のエンジンと比べて、CO2排出量を2割低減したという、パワーとエコ二刀流の新エンジンだ。本格的に環境性能を考えた初めてのランドローバーといえる。
「日産エクストレイル」より30cm近く短い全長4355mmのイヴォークは、「フリーランダー2」の車台をベースにしている。にもかかわらずレンジローバーを名乗るのは、フラッグシップの「シリーズ全体のCO2排出量」を下げる意味合いも大きいはずだ。
まるで高床式スポーツカー
これが本当にランドローバーか!? という驚きは、ルックスだけではない。走りだしても同じである。
イヴォークは“高床式のスポーツカー”だ。ワイドトレッドと大径の偏平(へんぺい)タイヤで路面をわしづかみにするようなスタビリティーがこのクルマの真骨頂だ。
乗り心地は、快適性を犠牲にしないぎりぎりのところで硬い。ハードコーナリング時でもサスペンションのたわみ感は少なく、ロールしないで曲がる感じだ。ステアリングはちょっとやり過ぎに思えるくらいクイックである。
そんなシャシーにパワーユニットもフィットしている。アイシン製の6段ATと組み合わされる2リッター4気筒ターボは240ps。34.7kgmのフルトルクは1750rpmという低回転で出る。発進からグワッとせりだすような力強さは、ダウンサイジングコンセプトの過給ユニットに共通だ。
一方、吹け上がりも軽く、高回転までよく伸びる。音もイイ。
「600万円で4気筒!?」と思われるかもしれないが、ちゃんとお金がとれる上質なスポーツエンジンである。ゼロヨンのメーカーデータは15.3秒。小ぶりとはいえ、車重1750kgのSUVがこれだけ速ければ十分だろう。
今回、燃費はとれなかったが、別の機会に借りた5ドアで正確を期した満タン法計測をすると、約200kmのワンデイツーリングで9km/リッター台の後半を示した。5リッターV8、車重2.5トンの本家レンジローバーと比べれば、目を見張る経済性である。
ただし、基本が同じエンジンでレギュラーが使える「フォード・エクスプローラー」に対して、若干チューンの違うこちらはハイオク指定になる。
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その名に恥じぬクオリティー
イヴォークは、アバンギャルドで冒険的なSUVだ。まわりの自動車マスコミ関係者にも衝動買いしてしまった人が何人かいる。
「あ、ヨンクね」とスルーされちゃわない“新しさ”はたぶん誰の目にも明らかで、実際乗っても新しい。人が変わったようなランドローバーである。日本の品ぞろえは四駆のみだが、横置きエンジンの利を生かした二駆モデルもある。
クーペは後席の乗降性で当然5ドアに劣るが、大きく違うのはその点だけだ。こちらもリアシートには大人二人が過不足なく座れる。悪路でもミシリともいわない骨太のボディー剛性や、それに支えられた上等な走行品質、インテリアのつくりこみのよさなどは、レンジローバーの名に恥じない。
では、イヴォークに死角なしかといえば、ある。運転席からの右側斜め前方の視界が悪い。もともと側面ガラスの天地が低くて、ボディー直近が見えないことに加えて、分厚いドアミラーが視界を妨げる。右折直後の混んだ横断歩道を横切るときなどは要注意だ。
軍用車生まれのランドローバーは、昔からどのモデルでも視界のよさには定評があった。「コマンドポジション」という“ランドローバー用語”もある。これだけのデザインカーだから多少のことはガマンするにしても、この死角はいただけない。もう少し薄いドアミラーに換える改善を望みたい。
(文=下野康史/写真=峰昌宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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