BMW 320iグランツーリスモ モダン(FR/8AT)
飛ばさなくてもいい「3シリーズ」 2013.06.19 試乗記 「BMW 3シリーズ」にも「グランツーリスモ」の名を持つバリエーションが加わった。より長く、背が高いボディーは、3シリーズをどう変えたのか。「3」以上「5」未満のハッチバッククーペ
「うーん、今のはちょっと横綱らしくない相撲でしたねぇ」 たとえ勝ったとしても、実力で勝る横綱がちょっとトリッキーな動きを見せると、土俵下に陣取ったしわがれ声の解説者がこう不満を漏らしたものだ。勝負事だから勝つのが最優先ではあるのだが、とかくわれわれは王者には王者にふさわしい勝ち方というか、堂々とした振る舞いを求めがちだ。かくいう私もオヤジ世代だからその気持ちには共感できる。
このBMWの新型車に接した時の印象も似たようなものだった。すなわち、セダンやステーションワゴンといった定番モデルを真ん中直球とすれば、この「グランツーリスモ」のようなニッチなモデルは言うなればチェンジアップのようなもの、常勝チームの不動のエースにふさわしい決め球とは言えないのではないか、と割り切れない思いを抱いたのだ。
ストライクゾーンをかすめて逃げていく球のような“外し”のモデルは、真っ向勝負ではちょっと分が悪いメーカーが手掛けるのなら納得できるが、BMWのような名門、しかもドイツの“プレミアムリーグ”で首位を走るトップチームとしては、メインストリームの定番だけで十分勝負できるのではないかというわけだ。
とはいえ今やポルシェがSUVを作り、メルセデスもFFモデルを拡充している時代である。ライバルの出方に対応しないわけにはいかないのだろう。しかも実際に乗ってみると、BMWらしい説得力に満ちた出来栄えだった。どんなゲームになったとしても一流プレーヤーに抜かりはないのである。
この6月初めに国内発売された「3シリーズ グランツーリスモ」は、先に登場した「5シリーズ グランツーリスモ」と同様、現行「3シリーズ」をベースにした5ドア・ハッチバッククーペである。といっても、セダンにそのままハッチゲートを付け加えたわけではない。写真では分かりにくいかもしれないが、実際に間近で見ると相当のボリューム感がある。3シリーズというより、「5シリーズ」と説明されても疑問を感じないぐらいだ。
「320iグランツーリスモ」のボディーの外寸は全長4825×全幅1830×全高1510mmで、ホイールベースは2920mm。現行「3シリーズ ツーリング」(ステーションワゴン)と比べると全長で20cm、ホイールベースは11cm長く、全高も5cm高い。全長4.8mを超えているということはもはや立派なアッパーミドルであり、事実、先代の「5シリーズ」と比べるとボディーサイズはほぼ同じ、ホイールベースはむしろこの320iグランツーリスモのほうがわずかに長いぐらいなのである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「3シリーズ」とは思えない広大なスペース
11cmも延長されたホイールベースの恩恵は明らかだ。現行3シリーズセダンもボディーが拡大されて後席の居住性は不満のないレベルに向上しているが、グランツーリスモのリアシートのレッグスペースはさらに広く、足を組んでも十分に余裕がある。
ラゲッジスペースも広大だ。容量は520リッター、リアシートのバックレストをすべて倒すと容量は1600リッターまで拡大できるし、フロアはきれいにフラットになる。ちなみに2970mmのロングホイールベースを持つ現行5シリーズセダンのトランク容量は同じく520リッター、3シリーズセダンは480リッターだから、その広さが分かるだろう。しかも、リアのバックレストは40:20:40の3分割式でそれぞれにリクライニングも可能なタイプだ。さらにはフロアボード下にもかなり大きな収納スペースが設けられており、トノーカバーなど細部の仕立てにも抜かりはない。実用性はまさに大型SUV並み、ユーティリティーは抜群といっていい。
ただしもちろん、良いことずくめとはいかない。ささいなことではあるが、例えば後席のシートバックは、おそらく畳んだ時の収まりを重視したために平板で、座った時の居心地はあまり良くない。また、大きく重いせいで燃費はやはり「320iセダン」よりも若干劣り、同じ4気筒直噴ターボエンジンを積む320i同士の比較では16.6km/リッターに対して15.0km/リッター(どちらもJC08モード)となる。もっとも、このサイズとしては優秀であり、4気筒の「320i/328i」に加え6気筒ターボの「335i」もすべてエコカー減税の対象モデルである。
そのためにエアロダイナミクスにもこだわりが見て取れる。フロントフェンダーにはホイールハウスに流れ込んだ空気を抜き、ホイール周辺の乱流を整える“エアブリーザー”なるダクトが設けられており、またテールゲート後端には車速に応じてアップダウンするアクティブ・リアスポイラーが備わっている。たとえ高性能のMモデルであっても空力付加物はできるだけ控えめを旨とするBMWにとって、この種の可変スポイラーは実は初めてのものだ。聞けば、高速時のリフトを抑えるためにはあと数cm高いリアデッキが望ましいのだが、それではスタイリング上都合が悪いとして開発されたものだという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ちょうどいいスポーティーさ
184psと27.5kgmを生み出す4気筒ターボエンジンと8段ATのパワートレインやサスペンションなどの基本メカニズムは320iセダンと変わりない。車重はセダンと比べて150kgほど増えているものの、一般路上での滑らかで俊敏な身のこなしにもほとんど違いは感じられない。ハンドリングについては、スパスパ向きを変えるセダンに比べればさすがに穏やかというかゆったりしており、視点が高いせいか(シートポジションは約6cm高い)上下動も大きく感じられるが、基本的に前後フラットに動くので問題ではないし、むしろその鷹揚(おうよう)な動きを歓迎する人も多いかもしれない。また、19インチのランフラットタイヤを履いているせいで、路面の状態によっては若干のバタつきも看取されたが、目くじらを立てるようなものではない。
目を三角にして山道をガツガツと飛ばすにはちょっと大きく重いかもしれないが、BMWらしい洗練度を楽しみながらのロングツーリングにはちょうどいいリズム感を備えているのがこのグランツーリスモだ。セダンのような切れ味鋭いスポーティーさより、もう少し広い室内と落ち着ける快適さを求めるユーザーにとっては、これがまさしく真ん中の直球。そして、そこまでは要らないと感じながら巨大なSUVに乗るよりは、よほどスマートな選択だと言えるだろう。
(文=高平高輝/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
BMW 320iグランツーリスモ モダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4825×1830×1510mm
ホイールベース:2920mm
車重:1660kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:184ps(135kW)/5000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1250-4500rpm
タイヤ:(前)225/45R19 92W/(後)255/40R19 96W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5 SSR<ランフラット>)
燃費:15.0km/リッター(JC08モード)
価格:514万円/テスト車=655万7000円
オプション装備:イノベーション・パッケージ(36万円)/タービン・スタイリング389 アロイ・ホイール(13万円)/フロント・センター・アームレスト(2万2000円)/ファインライン・アンソラジット・ウッド・トリム、パール・グロス・クローム・ハイライト(4万4000円)/電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(21万5000円)/ストレージ・パッケージ(5万円)/パーキング・アシスト(4万9000円)/パーク・ディスタンス・コントロール(4万3000円)/アダプティブ・ヘッドライト(8万2000円)/地上デジタルTVチューナー(10万8000円)/サーボトロニック(3万5000円)/ダコタ・レザー・シート+シート・ヒーティング(運転席&助手席)(19万9000円)/メタリック・ペイント(8万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1457km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

高平 高輝
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
NEW
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
NEW
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。 -
「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?
2026.10.14デイリーコラムこれまで「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と「ホンダN-ONE e:」のみだったところに「BYDラッコ」と「スズキeスカイ」が加わり、軽BEV市場がにわかに盛り上がりを見せている。どれもほぼ同じ床面積を持つBEVだが、比べてみるとその中身は結構違う。今後の覇権を握るのはどの陣営か。

































